第2話 男性への手術
高橋洋佑も肯いた。彼も同じ考えだった。
「奥様、これは奈津美お嬢様がお立ちになる際に残されました。ご夫妻でご覧ください」
執事が携帯電話を高橋玲子に差し出した。
「何ですって?」
高橋玲子は訝しみながらも、内心では考えていた。
(まさか奈津美が録画した謝罪動画かしら?)
(この子、面倒なことを避けたがるくせに!)
疑念を抱きつつ、高橋玲子はすでに動画を再生していた。
すると画面には、高橋七海が奈津美を挑発し、自ら階段から転がり落ちる様子が映し出されていた。最初から最後まで、奈津美はただそこに立っているだけで、手すら上げていなかった。
「こ、これは……どういうこと?」
高橋玲子は呆然とし、眼前の真実に激しく動揺している様子だった。高橋洋佑も同様で、顔色を変えながら内心で悔恨の念が湧き上がってくるのを感じていた。
「あれ? もう一本動画があるわ」
高橋玲子はこの動画の後に、さらに別の映像が続いていることに気がついた。
「まさか…これは3年前の映像!?」
指が震えながら再生ボタンを押す。
画面には、跪く高橋七海が奈津美のズボンにすがりつく姿が映っていた。
「お願い! 両親のために私の罪を被って! 私がひき逃げしたと知ったら、悲しみのあまり死んでしまうわ。それに私は実の娘だから、両親も私が牢屋に入るのを見てられないでしょ? あなたは孝行娘じゃない。きっと助けてくれるよね?」
――轟!
雷に打たれたような衝撃。
高橋玲子も高橋洋佑も、脳が停止したように硬直し、微動だにしなかった。
そして次の瞬間、押し寄せてきたのは激しい後悔の波。
「どうして…こんなことに…」
打ちのめされた高橋玲子は、崩れるように床に座り込んだ。
高橋洋佑は自分の頬を力いっぱい叩きつけた。
「なぜ奈津美の言葉を信じなかった…! このバカめが!」
「ハクション!」 高橋奈津美は大きなくしゃみをした。
「誰かが私のことを噂してるのかしら?」
つぶやき終わった瞬間、突然誰かに口を押さえられ、ぐいっと木に押しつけられた。
背中が激しく樹幹に打ちつけられ、高橋奈津美は痛みで顔色が蒼白になり、目から星が飛んだ。傷口も再び裂けたようだ。
すると、低く冷たい声が耳元で響いた。「お前は誰だ?なぜ俺を殺そうとした?」
痛みの痺れが少しずつ引いていき、高橋奈津美は視界を取り戻した。目の前の人物を見た瞬間――
次の瞬間、その顔に息をのんだ。
なんという神がかった美貌だろう!
鋭く剣のような眉に、星のように輝く目。斧で削ったような整った顔立ちに、高く聳える鼻。その下には薄い唇が堅く結ばれていた
しかし男の顔は血の気がなく、額から流れた血が目元まで覆っている。高橋奈津美はさらに、男の瞳が焦点を失っていることに気づいた。どうやら失血过多による一時的な失明のようだ。
「あなた――」
高橋奈津美が口を開こうとした瞬間、慌ただしい足音が近づいてきた。
「急げ!奴は重傷で足にも銃弾を受けてる。逃げられまい!」
その言葉を聞き、聡明な高橋奈津美は一瞬で状況を理解した。この人たちが目の前の男を殺そうとしているのだ。
「伏せて!」
高橋奈津美は男を引きずり倒すと、茂みの中に身を隠した。
「いないな。別の場所へ逃げたようだ」と一人の賊が言った。
「なら他の所を探そう。今日中に必ず見つけなければ」
やがて足音は遠のき、完全に消え去った。
「お前は…俺を殺すつもりじゃないのか?」男の弱々しい声が再び高橋奈津美の耳元に響いた。
「ええ」高橋奈津美は軽く頷くと、先ほどの追手の会話を思い出し、男の太ももに目をやった。
腿の付け根からどくどくと流れ出る鮮血が目に入る。
「重傷よ。すぐに弾丸を取り出さないと。横になって、今から処置するわ」
男の青白い顔に驚きの色が浮かんだ。「…お前の声ではまだ若い。弾丸の摘出などできるのか?」
「大丈夫、私の技術はまあまあだから」
これは高橋奈津美の謙遜だった。
そう言うと、高橋奈津美はスーツケースを開け、医療キットを取り出した。
今日これを持って出かけてきたことを心の底から感謝した。
すかさず高橋奈津美は男のベルトに手をかけた。
「何をする!?」
男が鋭く高橋奈津美の手首を掴む。声には剣のような危険が潜んでいた。
「ズボンを脱いで、弾丸を摘出する」
高橋奈津美は淡々と答えた。
男は薄い唇を堅く結び、表情がこわばった。
「い、や、だ」
その様子を見て、高橋奈津美は察し、なだめるように言った。
「恥ずかしがらなくていいの。私は医者よ」
そう言うと、ベルトのバックルを外した。
「カチン」と音がして、
「やめろ!」
男は歯を食いしばって低くうなった。
高橋奈津美は美しい眉をひそめた。
「医者は協力しない患者が大嫌いなの。手術の邪魔をされると困るから、少し対策をさせてもらうわ」
そう言いながら医療キットから銀針を取り出すと、男の麻穴にさっと刺した。
瞬時に、男は釘で打ち付けられたように、地面に手足を動かせず固定されてしまった。
「これで大人しくなったわね」
高橋奈津美はためらわずズボンを下ろした。
「てめぇ、やめろ――」
男の抗議は途中で遮られ、下着まで一気に下ろされた。
世界が一瞬静まり返り、小鳥のさえずりとそよ風だけが残った。
24年生きてきた男は、生まれて初めて脳がフリーズする体験をした。
まだショックから抜け出せないうちに、肌に触れる冷たい感触が伝わってきた――




