表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/60

第19話 終わらない問い

 針の落ちる音も聞こえるような静けさが十数秒続いた。

高橋奈津美は驚きをすべて押し殺し、平静を装って柴田崇を見て尋ねた。

「崇兄ちゃん、どうしてここに?」

柴田崇は大きく開けた口がなかなか閉じられず、高橋奈津美の言葉を聞いてもまだ完全には現実に戻れていない様子だった。

2秒後、彼は少し眉をひそめ、疑いと動揺の混じった視線を高橋奈津美と奥井翔の間に行き来させながら、逆に質問を返した。

「それは……こっちのセリフじゃないか?」

高橋奈津美は長いまつげをゆっくりと瞬き、顔色一つ変えずに答えた。

「さっきトイレから戻ってきて、たまたまここを通りかかっただけだよ。」

柴田崇の疑い深い視線は、依然として高橋奈津美と奥井翔の間を揺れ動いていた。

「そうか? それなら、俺と浩はさっき別の廊下から来たんだけど、中村たちが『奈津美名医』の話をしてるのが聞こえたような気がするんだよね? これ、気のせいじゃないよね?」

彼はそう言いながら、高橋奈津美の目をじっと見つめ、何かを見抜こうとするかのようだった。

横に立つ中村浩も、思惑を含んだ視線を自然と高橋奈津美に向けていた。

しかし、二人の探るような視線に対し、高橋奈津美はいたって坦然としており、声色もごく自然だった。

「聞き間違いじゃないよ。さっき確かに奈津美名医の話をしてた。だって、ついさっきまで奈津美名医がここにいたからね。ただ、兄ちゃんたちが来た時にはもう帰っちゃったみたいだ。」

そう言いながら、高橋奈津美はさりげなく奥井翔に目配せした。

奥井翔は意を悟り、慌てて彼女の言葉に合わせて話を続けた。

「ああ、さっきまで奈津美名医はここにいたんだ。ほんの数秒早く来てれば会えたのに……残念ながら、一歩遅かったみたいだな」

中村浩と柴田崇は、高橋奈津美が奈津美名医かもしれないという疑いを少し抱いていたが、この言葉を聞いて、二人は同時にその疑念を払拭した。

とはいえ、考えすぎだったのかもしれない。

奈津美名医の名を突然耳にした興奮で、誰を見ても奈津美名医と結びつけてしまうのはどうかしている。

ましてや高橋奈津美の無学無能ぶりは有名なのだ……

彼女が奈津美名医なわけがないだろう。

雰囲気が再び和らぐ中、柴田崇は高橋奈津美の肩に手を置き、冗談めかして言った。

「じゃあ、奈津美ちゃんはさっき奈津美名医に会えたんだ?」

その言葉に、中村浩も思わず高橋奈津美の方を見た。

彼がいかに奈津美名医に興味を持っているかがよくわかる仕草だった。

二人の視線を受けても、高橋奈津美はまったく動じず、顔色一つ変えずに答えた。

「もちろん会ったよ」

本当に会ったのか

柴田崇は慌てて声を上げて追及した。

「じゃあ、奈津美名医ってどんな見た目で、だいたい何歳くらいなんだ?」

中村浩は口には出さなかったが、やはり高橋奈津美をじっと見つめていた。

高橋奈津美はまばたきをし、得意げに自画自賛を始めた。

「奈津美名医ね、とても美人で、しかも若いの。でも、若いのに、どこか高潔な風格が漂っている感じだったわ」

「え? 奈津美名医の医学の造詣からして、もう少し年配の方かと思ってたけど、まさか若くて美人だなんて……」

柴田崇は心底驚いた様子で、ふと横にいる奈津美ちゃんの完璧な美貌に気づくと、からかうように言った。

「奈津美ちゃんと名医、どっちが上かなんて比べてみたいもんだ」

自分と自分を比べるのか? 高橋奈津美は思わず口元が引きつった。

「私たち、どっちがどうとかじゃないわ……まあ、似たようなものよ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ