第17話 白いサギの舞い再び
高橋奈津美がぎょっとするのも無理はなかった。
さっきまでとは打って変わって、柴田崇はマスクとサングラスを着用し、服装のスタイルもすっかり変わっていた。高い位置で結ったポニーテールだけが、ひときわ目立っている。
柴田崇が近づいてきて、ぼんやりとした高橋奈津美の様子を見て、思わず笑みがこぼれた。
「どうした?兄貴の顔も忘れたか?」
高橋奈津美は首を横に振った。
「いや…別に忘れてはいないけど…ただちょっと驚いただけ。急にサングラスとマスク、しかも服装まで変えるなんて?」
彼女の崇兄ちゃんの今の服装は、ヒップホップ風と言えるものだった。破れたジーンズに細いチェーンがいくつもぶら下がり、服にもチェーンのアクセントがあって、ちょっと不良っぽい雰囲気を醸し出していた。
しかし考えてみれば、柴田家に戻ってからこの数日間、兄ちゃんがこんな格好をするのを見るのは初めてだった。
知る由もないが、柴田崇がまさに狙っていたのはこの効果だった。
「別に大した理由じゃない。ただ人に顔を覚えられたくないからだ」
高橋奈津美の目には大きな疑問符が浮かんだ。
理由を聞こうとしたその時、耳に甘ったるく茶々しい声が届いた。
「高橋奈津美?今、この人を『兄ちゃん』って呼んでたわよね?この人があなたの家族の人?」
高橋七海はそう言いながら近づいてきて、柴田崇を頭からつま先まで何度も見下ろすように眺めた。
彼の過剰なほど派手な服装と、顔を隠すマスクとサングラスを見た時、彼女の目にはたちまち強い軽蔑の色が浮かんだ。
「でもどうしてこんなに隠すようにしてるの?人には見せられない顔でもあるの?それに長髪だなんて...変わり者ね。有名人か何かと勘違いされちゃうんじゃない?」
そう言えば、彼女がずっと憧れているアイドルの柴田崇も、長髪を高く結んだポニーテールがトレードマークだった。
だが彼女のアイドルのポニーテールは、決して女々しさを感じさせず、むしろ颯爽としたカッコよさを醸し出していた。
一方、高橋奈津美の兄ちゃんときたら...
彼女はまたしても横目で、高橋奈津美の崇兄ちゃんをじろりと見た。
こんなダサい男、彼女のアイドルと比べるべくもない!
高橋奈津美は、高橋七海の言葉の表面はからかいのように見えながら、その眼底に増すばかりの軽蔑と、明らかな嫌悪感がにじみ出ているのを感じた。
彼女は細目に目を細め、瞳に氷の霜が瞬時に結ばれた。
「高橋七海、あなた――」
高橋七海はわざと彼女の言葉を遮った。
「あっ!わかったわ。このお兄さんって、もしかしてチンピラなの?高橋奈津美、あなたって本当に可哀想!生まれ育った家が貧乏なだけじゃなく、兄貴まで非合法な仕事してるなんて……これじゃ生きていけないわよね?私がお母さんに頼んであげようか?あなたを家に戻してもらえるように。こんな環境で生活してたら、きっと悪い影響を受けるわ」
そう言うと、彼女は高橋玲子の方へ視線を移し、実に心のこもった様子で続けた。
「お母さん、高橋奈津美は今本当に惨めな状況なの。家に戻してあげたらどうかしら?」
高橋玲子は我が子を見つめ、心底憐れに思った様子で、声まで優しくなった。
「七海、七海は本当に心が優しすぎるわ。あんな人間、七海が代わりに口を利いてやる価値もないのに!この前あの子が家で七海を殴りそうになったこと、忘れたの?」
高橋七海は理解ある表情を浮かべた。
「殴られそうになったけど、私は気にしてないわ。私がこの家で彼女の居場所を奪ったからこそ、彼女も感情的になって手を上げそうになったんです……」
高橋玲子は阿部しい表情で彼女の言葉を正した。
「取り返すも何も、元々そのポジションは七海のものよ!」
高橋七海:「でも…でも私が現れなかったら、彼女は今でも高橋家のお嬢様でいられたはず。こんな田舎の貧乏な土っ娘に戻るなんて…」
「七海は本当に優しすぎるわ。諺にもあるでしょ、『朱に交われば赤くなる』って。あの子の身の丈は最初から決まっていたのよ。逃げようだって無理なんだから」
高橋玲子は高橋七海を慰めながら、高橋奈津美の方へ鋭い視線を投げた。
「それに『取り返す』だなんて、むしろあの子があなたの裕福な生活を奪っていたのよ!あの子が間違って私たちの家に入り込み、あなたのポジションを占めていなかったら、この18年間、七海が一人で外でこんなに苦労することもなかったのに!」
柴田崇はもともと考えていた。高橋家の人たちがどれだけひどくても、彼らは奈津美ちゃんを18年間育ててくれた恩がある。だからこそ、これまで何も反論せずにいた。
だが、家族揃ってますますエスカレートする言葉、奈津美ちゃんの気持ちをまったく考えない態度に、ついに我慢の限界がきた。冷たい視線で高橋家の人々を一瞥し、氷のような声で言い放った。
「そろそろ言い足りたか?」
高橋家の人々は、彼が突然放った威圧感に圧倒され、呆然と立ち尽くしたまま、誰も口を開けなかった。
柴田崇はその様子を見て、さらに冷たく続けた。
「お嬢さんが長年苦労したことを気の毒に思うのは分かります。しかし、当時の奈津美ちゃんは幼く、どこに行き、どの家にいるかも自分で選べませんでした。それなのに今、すべての責任を奈津美ちゃんに押し付けている。無茶苦茶で理不尽だと思いませんか?」
高橋玲子は柴田崇がそんなことを言うとは思っておらず、目を見開いて自分を指さし、信じられないという様子だった。
「何ですって?私たちが無茶苦茶で理不尽だって?」
柴田崇は逆に問い返した。
「そうじゃないんですか?」
高橋玲子の顔は真っ赤に染まり、目はさらに大きく見開かれ、今にも火を噴きそうだった。
「あんた、あんた……」
彼女は「あんた」を繰り返すばかりで、まともな反論が出てこない。
柴田崇は彼女が話し終わるのを待つつもりもなく、低く響く声には誰もがぞっとする冷たさが込められていた。
「いいですか、大人しくしていなさい。奈津美ちゃんを育ててくれた恩があるからこそ、今まで黙っていたんです。そうでなければ、とっくにあなた方を外に放り出させていましたよ!」
高橋家の人々はこれを聞き、顔を見合わせ、お互いの目にたじろぎが見えた。
明らかに、柴田崇が示した強圧的な態度に恐れをなしたのだ。
心の中では「さすがはならず者、粗暴で野蛮だ」と思いながらも、こういう人間とは関わらないのが一番だと考えた。失うもののない人間ほど恐ろしいものはない。今この場で何をしでかすか分かったものではない。
特に今日のような格式ある場では、尚更こんな人間とやり合ってはいけない。
揉め事を起こせば、オークションの主催者から入場を拒否される可能性さえある。
そう考えた高橋玲子は、高橋奈津美を憎々しげに睨んだ。
最初から高橋奈津美に出会うのは不吉だと言っていた。
やはりその通りだった!
元々家族三人は上機嫌でオークションに参加するはずだった。
だが、その良い気分は全て高橋奈津美という不吉な存在によって台無しにされてしまった!
高橋七海は張り詰めた空気を察し、まずきょろきょろと周囲を見回してから、ゆったりと前に出て仲裁役を買って出た。
もちろん「仲裁役」などというのは建前に過ぎず、彼女が前に出たのは単純に高橋奈津美を不快にさせたいがためだった。
「高橋奈津美、あなたはせっかく私の両親の世話になって18歳まで育ったのに、たった数日しか会っていない家族の方が大切なの?見てごらんなさい、あなたのお兄さんは両親に対してあんな失礼な口の聞き方をするのよ!少しも敬意が感じられないわ!それなのに、両親の養育を受けたあなたは平然と傍観している……なんて冷たい人なの!両親の育ての恩も、あなたに注いだ愛情も、全て無駄にしたってことよ!」