第16話 折檻する
高橋奈津美は淡々とした表情で、高橋玲子がどんなに攻撃し、どんなに嘲ろうとも、微動だにしなかった。
「私は確かに能力はないけど、あなたの家のコネに頼る必要もないわ。優越感ぶるのもいい加減にしなさいよ。」
高橋奈津美のこの冷ややかで淡々とした言葉に、高橋玲子は激しく腹を立て、顔を真っ赤に、そして紫に変え、胸を大きく波打たせ、荒い呼吸をしながら、まるで送風機のようにその場で「ヒューヒュー」と息をしていた。
十数秒経って、ようやく感情を抑え、理性を取り戻した。
そして、高橋玲子は高橋奈津美を見た。その凶暴な目は、人を食い尽くすかのようだった。
「やっぱり言った通りね!あなたは飼い慣らせない白眼狼で、恩知らずの小畜生だわ!家を出てどれだけ経ってると思ってるの?私たちの養育の恩を忘れて、そんな口を利けるなんて!越越を迎え入れたすぐにあなたを追い出して正解だったわ。毎日こんな風にイライラさせられてたら、寿命がどれだけ縮むか分からないもの!」
「ふん──」
高橋奈津美は鳳眼を一瞥し、高橋玲子に冷笑を投げつけた。
そして、気にも留めない様子で耳をほじりながら、高橋玲子の言葉に全く興味がない態度を見せた。
「それだけ?同じ話を何度も繰り返して、新しい言葉もないの?自分では飽きないのかもしれないけど、聞いてるこっちはうんざりよ。」
「あなた──」
高橋玲子はまたもやカッとなったが、高橋奈津美に反論する言葉が見つからず、顔を十数日も便秘したように歪ませていた。
その様子を見て、高橋洋佑が前に出てきて、高橋玲子にそっと声をかけた。
「いい加減にしなよ。あまり言い過ぎるな」
もともと頭にきていた高橋玲子は、高橋洋佑が自分と一緒に高橋奈津美を叱るどころか、むしろ「言い過ぎるな」などと言ってきたことに、ガッと振り向き、矛先を高橋洋佑に向けた。甲高い声でまくし立てる。
「なんで私が我慢しなきゃいけないの!?私の言ってること、どこが間違ってるのよ!?彼女みたいに世間知らずで、言葉の重みもわからない人間が、今日のオークションみたいな大物ばかりの場に、私たちのコネで入り込んだら――もしそこで誰かとトラブルを起こしたり、規則を破ったりして、私たちまで巻き込まれたらどうするの!?あなたに責任取れるの!?」
高橋洋佑はそれを聞いて、確かにそうだと思い、もう高橋玲子を止めようとはせず、代わりに高橋奈津美に向かって言った。
「奈津美、ここは確かにお前が入る場所じゃない。一旦帰りなさい。機会があれば、今度別の場所で色々見せてやるから」
すると、すぐに高橋玲子が強く反対した。
「もう彼女は家族じゃないのに!なんで気にかける必要があるのよ!?」
高橋奈津美の唇が嘲笑の弧を描き、瞳には人情のかけらもない冷たさが浮かんだ。
「心配いらないわ。あなたたちの世話にはならないし、付きまとったりもしない。これからはそれぞれの道を行きましょう。私からあなたたちを探すことはないから、あなたたちも会うたびに勝手に存在感をアピールしてきたり、わけのわからないことを言ったりしないで。本当に神経質そうに見えるから」
高橋玲子はパッと目を見開き、高橋奈津美を見つめる視線はまるで火を噴きそうだった。
「何ですって?このガキ、私のことを神経質だと言ったの?」
そう言いながら、袖をまくり上げ、猛り立った様子で高橋奈津美に詰め寄ろうとした。
「今日こそ生意気なこの恩知らずを懲らしめてやる!」
高橋奈津美はそれを見て、瞳に淡い霜をまとった。その冷艶な顔は、すでに極限まで冷え切っていた。
たとえ高橋玲子が育ての親だとしても、もしここで手を出してきたら、彼女は決して容赦しないつもりだった。
しかし、高橋玲子が高橋奈津美に近づく前に、横から現れた高橋七海が彼女の腕を掴んだ。
「お母さん、オークションがもうすぐ始まりますよ。先に入りましょう。お姉さんとのお喋りはまた今度にしましょう」
一触即発の状況なのに、彼女はあたかも「お喋り」のように言い換えた。やはり彼女がいるところには、たちまち「白いサギっぽい」が漂うのだった。
高橋奈津美は眉を軽く上げ、横目で彼女を冷ややかに一瞥した。
高橋玲子は高橋奈津美を懲らしめる好機を逃すまいとしたが、オークションの方が重要だと分かっていた。そこで、爪を立てんばかりの姿勢を少し収め、高橋奈津美を強く睨みつけた。
「今回は運が良かったわね。次に会った時は必ず教訓をたたき込んでやるから!」
そう言うと、高橋玲子はくるりと背を向け、高橋七海と高橋洋佑を連れてオークション会場の入口へと歩き出した。
入口に着くと、高橋玲子はバッグから招待状を取り出し、警備員に手渡した。
そして中に入ろうとしたが、警備員に止められた。
「申し訳ありませんが、奥様。こちらの招待状ではご本人様の他にお連れ様はお一人のみです。お二人はご案内できません」
つまり、三人で来たのに中に入れるのは二人だけ。だが彼らは家族だ。誰かを外すわけにはいかない。
しかも、この場で誰かを帰らせることになれば、それは非常に面目を失うことになる……
高橋玲子はオークションにこんな規定があるのを初めて知り、顔中に困惑を浮かべ、しばらく言葉が出なかった。
その時、高橋洋佑が前に出て尋ねた。
「しかし、来る前に聞いた話では、招待状一枚で二人まで同伴可能だと聞いていました。いつから一人だけになったのですか?」
警備員が説明した。
「はい、通常の招待状ではお一人様、VIPゴールド招待状ではお二人様まで。さらに上位の紫金招待状であれば人数制限はありません。現在お持ちののは通常招待状ですので、お三人様でご入場される場合は、もう一枚通常招待状をご提示ください」
高橋洋佑は心の中で思った。この一枚の通常招待状でさえ、彼らが四方八方に頼み込んでようやく手に入れたものだ。今更もう一枚など、どうやって用意しろというのか?
だが、そんな感情は警備員の前では表に出さなかった
周りを見回し、人が通っていないのを確認すると、そっと腕から翡翠の時計を外し、警備員に押し付けた。
「たった一人多いだけなんだから、どうか目をつぶって入れてくれないか」
警備員はたちまち表情を硬くし、後ずさりした。
「申し訳ありませんが、オークションの規定ですので、融通はききません」
高橋玲子はこの様子を見て、自分も動き出した。急いで手首の金のブレスレットを外し、高橋洋佑の翡翠の時計と一緒に警備員に押し付けた。
「そうよ、どうかお願いできないかしら?」
しかし警備員は依然として拒む姿勢だった。
「申し訳ありません。オークションの規定は、誰も破ることはできません!」
高橋玲子は賄賂が通じないと見るや、涙をぬぐいながら哀れっぽく演じ始めた。
「警備員さん、実はこの娘は最近ようやく見つかったのよ。今までずっと苦労してきたから、せめて世間を見せてやりたくて…どうかお願いしますわ」
警備員の表情はますます阿部しくなった。
「繰り返しますが、オークションの規定は誰も破れません!」
一方の高橋奈津美は腕を組みながら、面白そうにこの騒動を見物していた。
ふと視界の端で何かを見つけ、振り返って見た瞬間、思わずぎょっとした。
これは...
彼女の崇兄ちゃんだったのか?