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第15話  カッと頭に血が上る

 高橋奈津美は少し考えてから答えた。

「参加するが、奈津美名医としてではない。会場で私を見かけても、知らないふりをして普通の客として接してくれ」

奥井翔はすぐに承諾した。「かしこまりました。ご安心ください。名医がいらっしゃらなくても、万全の準備を整えておきます」

奥井翔の能力に対して、高橋奈津美は信頼を寄せていた。

「ああ、必要以上に気を張らなくてもいい。通常の手順で進めてくれれば十分だ」

「承知しました」奥井翔は再び恭しく答えた。

そして突然思い出したように、さらに質問を続けた。

「ところで奈津美名医、今回のオークションもこれまで同様、診療権の落札資金は全て孤児院と老人ホームへ寄付されるのでしょうか?」

「そうだ」

高橋奈津美は一瞬のためらいもなく答えた。

「全額寄付だ。私の分は残さなくていい」

奥井翔:「かしこまりました奈津美名医。さっそく手配いたします」

瞬く間に、三日後のオークションの日を迎えた。

高橋奈津美は柴田崇と共にポルシェに乗り込み、オークション会場へ向かった。

柴田崇は高橋奈津美が静かに座っているだけで話もしない様子を見て、緊張しているのだと思い、声をかけて安心させようとした。

「奈津美ちゃん、緊張しなくていい。オークションってのはただの品物の奪い合いみたいなものだ。何か気に入ったものがあったら遠慮なく言ってくれ。兄ちゃんが必ず落札してやるから」

高橋奈津美はただ診療のことを考えていただけだったが、柴田崇の言葉に眉尻が緩んだ。

「崇兄ちゃん、緊張してないわ。欲しいものも特にないから、兄ちゃんが必要なものを落札すればいいの。私のことは気にしないで」

「そんなこと言うなよ」

柴田崇はどうしても高橋奈津美に何か買ってやりたいという態度だった。

「お金の心配か?そんな心配は無用だ!兄ちゃんにはたんまりある。何でも好きなものを買えばいい。遠慮する必要なんてない」

高橋奈津美はこれ以上断ると兄が怒り出すと悟り、それ以上は言わなかった。

「分かったわ。気に入ったものがあったら、すぐ教えるから落札してね」

「そうこなくちゃ」柴田崇は満足げだった。

妹のために散財するのは、彼にとって何よりの喜びだった。

二人が話しているうちに、オークション会場近くの駐車場に到着した

柴田崇は前方の状況を確認すると、ゆっくりと車を停め、高橋奈津美の方に向き直って言った。

「奈津美ちゃん、ここで降りて道端で待っていてくれ。兄ちゃんが車を停めたらすぐ迎えに来る。一緒に連れて行きたかったが、駐車場の方がかなり暗いので、怖がるといけないからな」

高橋奈津美は軽く頷いた。「ええ」

そう言ってドアを開け、道路脇に立った。

柴田崇は既にアクセルを踏んで発車しようとしていたが、ふと振り返ると、小さな妹がぽつんと立っている姿が目に入った。どう見ても狙われやすい標的のように見えた。

そこで駐車場に向かう直前、思わずもう一声かけた。

「ここで待ってな。勝手に動いたらダメだぞ?迷子になったら、どこを探せばいいか分からなくなるからな」

高橋奈津美は兄がまるで子供扱いする様子に苦笑いしながらも、胸が温かくなった。

「分かってるわ、兄ちゃん。早く行ってきて。ここで待ってるから、どこにも行かないわ」

この言葉を聞いて、柴田崇はようやく安心して車を走らせた。

高橋奈津美はその場に立ち、柴田崇の車が駐車場に入っていくのを見送った。視線を戻した瞬間、耳に覚えのある声が聞こえてきた。

「高橋奈津美?」

振り返ると、目の前に立っていたのは、数日前に家から追い出した養母の高橋玲子だった。

高橋玲子は、白いロングドレスを着た高橋奈津美の姿を見て一瞬呆然としたが、すぐに我に返ると、さっと近寄って彼女をじろじろと見た。

「本当にあなただったの?見間違いかと思ったわ。ところで、ここがどんな場所か分かっているの?世間知らずの田舎娘がよくもまあこんなところに来られたわね。人に見物される猿みたいになるのが怖くないの?」

嘲るような高橋玲子の声を聞きながら、高橋奈津美の表情は淡々としていた。

「あなたたちが来られるなら、なぜ私が来られない?このオークションはあなたの家が主催しているの?」

高橋玲子はその言葉に腹を立てた。

「十八年も育ててやったのに、それが年長者への口の利き方?やはりあなたのような恩知らずを追い出したのは正解だったわ。もしあのまま家にいたら、私がどんなに気を病んだか分からないもの」

高橋奈津美は肩をすくめた。

「だから、あなたの望み通り、私はもう出て行ったわ。まだ何か不満でもあるの?」

「あなた、なんて――」

高橋奈玲子の胸は激しく上下し、高橋奈津美を指差す指先も震えていた。どれほど怒っているかがよく分かる。

高橋奈津美の表情は相変わらず淡々としており、彼女を見る目には一片の感情もなかった。

高橋玲子は深く息を吸い込み、何度か繰り返してようやく胸中に湧き上がる怒りを抑え込んだ。

「今日出かける前に暦を見ておくべきだったわ。日柄が悪かったから、こんな不吉なものに出くわしてしまった」

高橋奈津美は顔色一つ変えず、むしろ彼女の言葉に大いに共感するように答えた。

「その言葉、そっくりそのままお返しします。今日あなたに会うと分かっていたら、私は出かけなかったでしょうね」

高橋玲子は言葉に詰まり、顔を青ざめさせた。

そしてオークション会場の入口を見て、また高橋奈津美を見て、突然何かに気付いたように目に嘲笑を浮かべた。

「まさか、あなたがここにいるのは、私たちが来ると知っていて待ち伏せして、一緒に連れていってほしいからじゃないでしょうね?」

高橋奈津美は心底呆れ返り、口を開こうとしたが、高橋玲子がまた話し始めた。

「どうして黙っているの?当たったから反論できないの?高橋奈津美、厚かましい人間は見たことがあるけど、あなたほど厚顔無恥な人間は初めてよ!それに、この前家を出る時はあんなに強気で、二度と戻ってこないって言ってたじゃない?今ではしがみついてきて、私たちについて行きたいって?」

高橋奈津美は手のひらを上に向け、優雅に白眼を翻した。

「私がそんなこと言った?どうやらあなたの妄想のようですけど」

高橋玲子は高橋奈津美がまだ認めないのを見て、鼻で嘲るように笑った。

「私の言うことが間違っていると?あなたがここにいるのは、私たちにくっついて入るためじゃない?他に理由があると?それとも、私たちより有力な知り合いがいるとでも?他の人なら信じるかもしれないが、あなたのような者が……」

わざと間を置き、軽蔑の視線で高橋奈津美をまざまざと見下ろして続けた。

「いったい何ができるっていうの?」

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