表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

69/215

69 碌なもんじゃないですよ

「高平くんて最近眼鏡してこないね」

「うん……」


 6時間目の授業が終わり、終わりの会が始まるまでの微妙な時間、真美は隣の席

の進介に聞いた。


「なんだ? 高平って目が悪いのか?」

「物心が付いた時から左目はいいんですけど、右目はほとんど見えてないんです」 

「そうなのか。前の席に移動するか?」

「いえ、左目で見るんで問題ないです」


 進介は毎年4月の視力検査で左目1,5、右目0,1という極端な結果を出して

いた。


「先天的な弱視なんです」

「そうか。でも両目じゃなくてよかったな」

「それはぼくも思います」

「眼鏡は持ってるだけってことか」

「はい。3才くらいの時に1回作って、それきりです。そもそも眼鏡してても右目

の視力変わらないんで」

「でも、1年生の時は掛けて学校に来てたよね?」


 1年の時も同じクラスだった真美は聞いた。


「あの時は親に言われて掛けてた。ある時、『眼鏡かけてもなんの意味もない』っ

て正直に言って、それからはやめた。眼鏡なんか面倒臭いだけだし」

「そうなんだ。私は眼鏡なんてしたことないから分からない」

「それと実はぼく、1年生の時に眼鏡をして友達と遊んでいる時に恐ろしいことが

あって――」

「え? この流れで?」


 智子が驚く中、進介は1年の時に経験をしたある出来事を話し始めた――



 その日、進介はクラスメイトの男子2人と近くの公園に遊びにきていた。

 その公園は滝小学校の校区外であったため、進介たちと同じ体操服を着た小学生

の姿はなかった。


 公園があり、階段を上るともう1つ別の公園がある。

 進介たちは上の公園へ行くために階段に近付いた、その時――


「きみ、頭良いだろ!」


 大きな声で進介に話しかけたのは、隣の学校の体操服を着た高学年と思しき男子

生徒だった。


「きみ、頭良いだろ!」


 まゆ毛が太く、肩幅の広いその男子は大きな声で2度、同じ質問を繰り返した。


 進介は自分のことを頭が良いと思ったことはなかった。

 授業中はいつもボーッとしているし、知識が豊富なわけでもない。

 自分が頭が良い人間であると思う理由がなかった。


「きみ、頭良いだろ!」


 3回目だ。

 一緒にいた2人の友達も言葉を失っている。

 

 異様に黒目の大きなその上級生は、真っ直ぐ進介の目を見つめている。

 進介はこの場を切り抜ける責任は自分にあるのだと観念をした。


「う……うん」


 進介は勇気を出して相手の言うことを肯定した。

 すると――


「やっぱりな!!」


「眼鏡かけてる奴はだいたい頭良いんだよな!!」


「じゃあな!!」


 1人で大声でしゃべり続けた彼は、そう言って階段を上がっていった。


 進介たち3人はもちろん予定を変更し、階段とは逆の方向へと歩き始めた……。



「その人、名前も学年も分からないんですけど、めっちゃ恐かったんです……」

「単なる独特な空気感を持った男子なんじゃないの?」

「独特すぎるんですよ……。初対面であんなに自分の意見を言える人間なんて、碌

なもんじゃないですよ……」 

「その感想もよく分からんがな」



 進介が眼鏡を掛けたがらない理由は、やはり過去のトラウマが原因であった。

 年を取ると人は皆、老眼に悩まされる。

 進介もまた例外ではないであろう。

 その時に本人がどんな判断を下すのか……そんなことは智子にも予想はできない

のであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ