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57 砂場プール

 教室の隅で健太と昌巳が楽しそうにしゃべっている。


 いつもの智子ならば、「休み時間は外に出て遊べ」と教室から追い出すところな

のだが、この日は雨なのでそれができない。


 智子は仕方ないといった顔で、太った2人を眺めていた。


「健太、昨日あの後どうなったの? 家でお母さんに怒られた?」

「それがさあ、いつもは絶対家にいるのに昨日は買い物に行ってていなかったんだ

よ! だからセーフ!」

「ラッキーだ! ラッキー!」


 大はしゃぎの2人に智子は近付いた。


「なんの話?」


 智子は基本的にはでぶの2人のことを快く思っていない。しかし楽しそうに2人

が話をしているのを見ると好奇心が勝ってしまい、つい話を聞きにいってしまうの

だった。


「昨日も雨だったでしょ?」


 昌巳は話し始めた。


「でも帰りは降ってなかったから、何人かで傘を振り回しながら帰ってたの」

「おい。傘を振り回すのは危険だからやめろ。目に当たったら失明するからな。本

当にやめろよ」

「あー、じゃあ今度からはやめる」


 昌巳は適当に答えた。


「老人ホームからさらに上がったところに公園があるんだけど、その砂場に雨水が

溜まってたの」

「一昨日の夜の雨は凄かったからな」

「そう。それを見てみんなで、『プールだ!』って言って大盛り上がりだったの。

そしたらこいつ、ランドセル置いて飛び込んだの」

「え……」


 健太が砂場プールに入ったという話に智子はどん引きした。


「入ったの? 全身?」

「うん、入った。さすがに顔は浸けなかったけど、首から下は服のまま入った」


 健太は誇らしげに言った。


「うげー。お前、よくそんな気色悪いことするよな」


 智子は心底気持ちが悪いという顔をした。


「見た目は確かに砂場の色だったけど、水は雨だから別にいいだろ。雨水なんか雨

の日は歩いてたら身体中に付くんだし」

「お前、公園の砂場がどんだけ汚いか知らないのかよ」

「汚くはないだろ。普段そこで遊んでるんだし」

「お前知らないのかよ。砂場って野良猫のトイレになってるんだぞ」

「え……」


 智子の言葉に健太と昌巳の顔が強張る。


「だから、砂場って普段から汚い場所なんだよ。そこに雨水が溜まってたんだろ?

そんなもん、バイキンだらけの下水と変わらんだろ」


 2人は言葉を失った。


「……俺、そこで2時間くらい泳いだんですけど」

「泳ぎ過ぎだ」

「俺、病気になったかなあ……」

「お前、でぶのくせに体力あるんだな。2時間て相当だぞ」

「楽しくって……」

「おちんちんとか腫れてないか?」

「身体に食い込んでるから分からない……」

「いや、そんな『でぶあるある』は知らんけどな」


 智子は落ち込む健太が少しかわいそうに思えてきた。


「今朝はごはんはちゃんと食べられたか?」

「うん、いつも通り……」

「じゃあ、大丈夫だ。身体がおかしくなるとまずは食欲がなくなるからな」

「俺、インフルエンザの時も普通に食事してたけど……」

「だとしたらそれはインフルエンザじゃなかったんだ。医者の誤診だ」



 適当なことを言って落ち込む生徒を励ます智子なのであった。

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