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56 人の気持ちを考える

「ともちゃん先生って、クラスの目標とかは設けないんですか?」


 朝陽は思い出したように言った。


「目標は4月に各自習字で書いてもらったからそれでいいだろ」

「そうなんですけど、個人とは別にクラスの目標があってもいいのかなって」

「今までのクラスではあったってこと?」

「はい。去年の赤瀬先生のクラスでは黒板の上にクラスの目標が貼ってあって、さ

らに毎朝その日の目標を朝の会で決めてました」

「ふーん。ちなみに、その日の目標ってどんなの?」


 智子は好奇心から聞いてみた。


「『授業で1人1回は手を挙げよう』とか寒い日だと『休み時間は外で遊ぼう』と

かでした」

「それで、それが守られたかどうかを毎日終わりの会で検証するの?」

「しないです」

「しないのか。それでもみんなその目標を守るの?」

「守らないですね」

「その目標って、意味ある?」

「ないですね」


 朝陽はようやく、昨年自分が毎日やってきたことが無意味だったと気が付いた。


「そうかー。あれって意味なかったのかー」


 朝陽はどこか感慨深げだ。


「クラスの目標っていうのはなんだったの? 年間目標?」

「『人の気持ちを考える』です。自分がなにかをする時、一度立ち止まって、『そ

れをもし自分がやられたらどう思うか、嫌ではないか』と考えてみよう――そうい

う意味です。これは赤瀬先生が考えました」

「人の気持ちを考えるか、いいんじゃない?」


 智子は赤瀬の考えたクラス目標を評価した。

 しかし、それに異を唱える者がいた。進介だ。


「でも、赤瀬先生は人の気持ちを理解できてなかったですけどね」

「ん? そうなの?」

「はい。ぼくたちは授業中もそれ以外でも赤瀬先生の考える理想の生徒を演じてい

たんです。なぜなら、赤瀬先生が恐かったから。ぼくたちは5年3組を『日本一の

クラス』にするためにがんばっていたんじゃなく、赤瀬先生に怒られないために赤

瀬先生の顔色を日々窺っていたんです。怒られるのが恐かったんです。赤瀬先生は

そんなぼくたちの気持ちなんか全く理解していなかったし、興味もなかったと思い

ます。あの人は自分が青春ごっこをしたかっただけなんです」

「「……」」


 進介の辛辣な赤瀬評に智子と朝陽は戸惑った。

 

 赤瀬は同僚からもPTAからも非常に評判のいい教師であった。

 しかしだからといって周りの全ての者から受け入れられていたとは限らない。

 進介がまさしくその1人なのだろう。



 智子は進介がなぜこんなにも赤瀬に対して厳しい見方をしているのか、注意深く

見守っていかなければならないと思った。

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