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55 タニタニ株式会社

「ともちゃん先生、タニタニが株式会社でした!」


 休み時間になった途端、瑛太は叫んだ。


「……ちょっとは順序立ててしゃべってくれない?」


 智子は瑛太に落ち着くように促した。


「老人ホームからちょっと上に行ったところにタニタニっていう駄菓子屋があるん

です。そこが、『株式会社』なんです!」

「へー。あの、鳩飼ってるところ?」

「そうです! 伝書鳩!」

「あの駄菓子屋、株式会社なのか。気が付かなかったな。昔からなのかな」

「……」


 智子の反応は瑛太にとって意外なものだった。てっきり一緒に笑ってもらえるも

のだと思っていた。


「ともちゃん先生、株式会社ですよ?」

「ああ、それがどうした」

「どうしたって、駄菓子屋ですよ?」

「駄菓子屋が株式会社じゃいけないのかよ」

「だって、駄菓子屋ですよ? 株式会社って車とか作ってるような会社のことなん

じゃないの?」


 瑛太にとっては、「株式会社=大企業」というイメージだった。


「株式会社って数十万あれば作れるようなものなんだぞ。だから駄菓子屋が株式会

社でも別におかしくはないんだ」

「株式会社って誰でも作れるの!?」

「作れるよ」

「嘘だろ……」


 瑛太は信じられないといった顔をする。


「なんだよ……俺の将来の夢、『株式会社に就職する』だったのに。そんなの誰で

も簡単に叶っちゃうじゃねえかよ……」


 瑛太は自分の抱いていた夢のスケールが思ったよりも遥かに小さかったことに衝

撃を受けた。

 

「だったらもう、その駄菓子屋に就職しちゃえばいいじゃないのか」

「駄菓子屋に!?」



 生徒の夢を叶えるために、近所の家族経営の駄菓子屋への就職を勧める智子なの

であった。

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