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54 うんこを付けられた

「なあ進介、覚えてる?」

「なにを?」

「1年か2年の校外学習の時、俺うんこ踏んでお前に付けたよな?」

「……」

「なんだよー。覚えてないのかよー」


 大騒ぎする蓮ときょとんとした表情の進介。どうやら進介は本当にそのことを覚

えていないようだ。対照的な2人の表情に、教室では笑いが起こる。


「下水処理場かどっかに行った帰りに踏んで、それを進介に付けたんだよ」

「……」


 進介は無表情のまま首を捻る。


「駅に向かう途中だった気がするんだよなあ。うんこは歩道の端にあった」

「……」


 進介の無表情が不安気な顔に変わっていく。



 蓮は一通り笑いをとると別の話題に移った。


 しかし進介は不安そうな表情のままである。


 颯介が声をかける。


「覚えてないの?」

「全く覚えてない。本当にあったのかなあ……」

「別にどっちでもいいんじゃないの? 何年も前のことだし」

「うんこってどこに付けられたんだろうか……」

「どこでもいいんじゃないの?」

「でも、帰りでよかったなあ。行きだったら、うんこ付いたまま弁当食べることに

なってたから」

「そうなの?」

「ぼくの性格からして、絶対にやり返してはいないと思うんだよ」

「それはそうかも」


 気が弱く争いごとを好まない進介は、学校でなにかあっても大概のことは自分が

我慢をすることで解決してきた。


「それ以前に、気持ち悪くなって仕返しができなかったのかもしれない……」


 進介は、「うんこ」という単語を耳にしただけで食事がのどを通らなくなるほど

の極端に神経質な性格の持ち主だった。


「こんな性格のぼくがうんこを付けられたのを覚えてないなんてことがあるのだろ

うか……。衝撃が大きすぎて一時的な記憶喪失になってるんじゃあ……」 

「覚えてないならそれでいいんじゃないの?」

「いつか、フラッシュバックする日が来る気がする……」

「そうなの?」

  


 覚えていないあの頃の自分と来るかもしれない将来の自分を心配し、思いを馳せ

る進介。それをいつものことと乾いた笑いで見守る親友の颯介なのであった。

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