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52 金玉を蹴っただけ

「ともちゃん先生、運動場に来てください!」


 春馬と陸斗が慌てた様子で職員室に入ってきた。


「なんだ? 落ち着いて話せ」

「昌巳が泡吹いてます!」

「なにがあったの!?」



 春馬たちに連れられ、智子は砂場の前へとやってきた。

 

 そこには泡を吹いて倒れる昌巳とそれを半笑いのような顔で見つめる健太の姿が

あった。


「松田、どうした! 病気か!?」

「あっ……あっ……」


 昌巳は目から涙を流しながら呻き声をあげている。


「なにがあった? おい田中、なにがあったんだ?」


 健太は半笑いのような引き攣った顔で立ち尽くしている。


「おい田中! 聞いてるんだ答えろ! 松田になにがあったんだ!?」

「違うんだよ……」

「なにが違うんだよ! はっきり言え!」

「俺、昌巳の金玉を蹴っただけなんだよ!!」


 健太の大きな声が校庭に響いた。


 咄嗟に対処ができなかった智子は、なんとか言葉を振り絞る。


「……お前、こいつの股間を蹴ったのか?」

「蹴ったけど、軽くだから!」

「軽くでも駄目なんじゃないの?」


 智子は周りにいた男子たちに尋ねたが、誰もが首を捻るばかりで要領を得ない。

 

「男の子ってみんな股間を蹴られた経験があるもんじゃないの?」

「いや、ないでしょ普通」


 朝陽はそう言って周りを見回した。

 反論する者はいない。


「そうなの? じゃあ、松田が苦しんでるのってこいつが特別痛みに弱いだけの可

能性もあるってこと?」

「それは……考えたことなかったなあ」


 朝陽は智子の新たな視点に感心をした。


「俺、さっき健太が昌巳の金玉蹴るの見てたけど、確かにそこまで強くは蹴ってな

かった気がする。ポンッて軽く当てただけだった気がする」

「つまり、松田は痛がり過ぎってことか?」

「俺はそう思う」


 蓮の言葉に朝陽ら数人は同意をして首を縦に振る。

 それに対し、颯介は真っ向から反論をした。


「でも、現に昌巳は苦しんでますよ。わざと大袈裟に演技をしてるとでも言うんで

すか? そんなことをして昌巳になんの得が?」

「確かにな。泡吹いてるもんな」


 改めて昌巳を見ると、地面に倒れた状態で口の端から泡を吹きながら小さな声で

「ノー……ノ―……」と呟いている。



「いくら考えたところで私には股間を蹴り上げられた男の気持ちは分からん。なの

で、多数決をとります。今、ここで苦しんでいる松田は大袈裟だと思う人?」


 健太、朝陽、蓮、駿が手を挙げた。


「下ろして。では、松田は本気で苦しんでいると思う人?」


 颯介、進介、春馬、陸斗が手を挙げた。


「なんと! 4対4か? えっそうなの? もっと大差で決着するのかと思った」


 智子は驚きの声を上げた。


「もう1回、とりなおす?」

「いや、それは意味ないだろ」


 智子は駿の言葉を一蹴し続ける。


「私の1票がまだ入ってないぞ」

「ともちゃん先生は女だから分からないんでしょ?」

「そうだけど仕方ないだろ。私が入れなきゃ決まらないんだから」

「そうかー。それもそうだ」


 8人は納得した。


「私は――『松田の苦しみは大袈裟』に1票だ!」


「「おおー」」


 8人は感嘆の声を上げた。


「いくら股間が男の弱点とは言っても、泡吹いて倒れるのは過剰だ。まあ、子供ら

しいっちゃらしいけどな」


 昼休みの終了を告げるチャイムが校庭に鳴り響く。


「5時間目が始まるから急いで戻れよー」

「ともちゃん先生は?」

「私は一旦職員室だ」

「昌巳がまだ寝てますけど?」

「なにっ?」


 智子は立ち止まり振り返った。


 昌巳が砂場の前でこちらに背を向けて寝転んでいる。


 そんな昌巳に向かって智子は心を込めて言った。

 


「迫真だな」

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