51 参観日の態度
「2組の菊池先生、授業参観の時だけスーツ着てたってさ」
2組から仕入れた昨日の授業参観での話を拓海は始めた。
「黒板の字も普段は読めないくらい汚いのに昨日だけきれいだったって。あと、生
徒のことも、『○○くん』『○○さん』って呼んでたって」
「うわー、最悪だ」
2組担任の菊池が生徒たちから評判が悪いのは智子も気が付いていた。
教師の評判が悪い場合、その理由は大概「一部の生徒を贔屓するから」である。
菊池の場合も例外ではなかった。一部の女子生徒を過剰に贔屓し、男子生徒に対
しては気に入らないことがあると周りが驚くほどの冷たい態度で接した。
菊池は教師の間でも同じようにすることがあり、特に教頭や校長に対しての召使
いかのような態度は智子は見ていて吐き気がする思いだった。
「赤瀬先生もそうだったよな」
「あー……でも、赤瀬先生は贔屓とかしなかったし」
進介の発言に、朝陽はなんとなく赤瀬のことをフォローした。
「赤瀬先生も菊池先生みたいに授業参観の時は態度が違ったのか?」
智子は進介に聞いた。
「はい。参観日だけスーツを着てたし、その日だけは絶対に呼び捨てはしなかった
です。字は普段から読み易かったので、それは変わらなかったです」
「そうか」
赤瀬は菊池と違い、生徒からも同僚からも評判のいい教師だった。だからなのか
あまり悪い評判というのは表に出てこない。
「同じようなことをしても、菊池先生は批判されて赤瀬先生はそうはならないんで
すよね。日頃の行いって大事なんですね」
(赤瀬先生は怒りっぽかったから高平とはあまりうまくいかなかったのかもしれな
いな……)
若くて情熱的な赤瀬はPTAからも評判のいい教師だった。
しかしだからといって全ての生徒から慕われているわけではない……そんな当た
り前のことを再認識した智子なのであった。




