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47 女の子の顔面

 朝陽を中心にした男子グループから笑い声が起こる。


 朝陽、蓮、陸斗、駿、進介、颯介。いつもの6人だ。


 仲良さそうにしているかと思いきや、よく見ると笑っているのは蓮以外の5人だ

けで、蓮はあからさまに不機嫌そうな表情をしている。


「どうした? お前らは喧嘩じゃないよな?」


 智子は6人に声をかけた。


「大丈夫ですよ。ちょっと蓮が、『思い出し怒り』をしてるだけですから」

「なんだよその思い出し怒りって」


 笑顔の朝陽に智子は聞いた。


「思い出し笑いの怒り版です。こいつ、3年の時のことを定期的に思い出して怒る

んですよ」

「そうなの? 3年経っても許せないようなことなの?」

「蓮、ともちゃん先生にも話してみたら?」

「なになに? 聞きたいんだけど」


 智子は好奇心で前のめりになる。蓮は口を開いた。


「3年の時に担任だった楢崎先生にめっちゃ怒られたんです」

「理不尽な怒られ方だったから納得がいかないってこと?」

「そうです」

「なに? どんな理由でめっちゃ怒られたの? 教えて?」

「俺が神田の顔面を蹴ったんです。そしたらめっちゃ怒られたんですよ!」 

「へえ……」

「なんで俺が怒られるんだよ!」

「ごめん、それ私でも怒ると思う」

「違う! 違うんですよ!」


 そう言うと蓮は3年前の事件の詳細を語り始めた――。



 それは冬の日のことだった。


 空は雲で覆われ僅かながらも風があり、体感温度は実際の気温を遥かに下回って

いる、そんな寒い日に行われた体育の授業中に事件は起こった。


 その日の体育はサッカーだった。寒さもあり生徒たちは試合開始からボールを追

いかけ右に左に走り回っていた。 


 もちろんそれは蓮にとっても同じことだった。サッカーの楽しさよりも寒さを忘

れるために必死でボールを追いかけ、シュートした。


 それはどこにでもよくあるごく普通の小学校の体育の授業風景のはずであった。


 事件が起きたのは授業が終了する10分前のことだった。


 ゴム製のサッカーボールは両軍の間をほぼ均等に行ったり来たりしていた。レベ

ルの低い子供のサッカーながらも、白熱した好試合であった。


 しかし、生徒の中にはサッカーが苦手な者もいる。それ以前に運動そのものが得

意ではなく、毛嫌いしている者さえいる。


 では、そんな人間が寒い中、長時間校庭でサッカーをやらされたらどうなるので

あろうか。当時9才の神田瑞穂は1つの答を導き出した。それは、「ゴール前の密

集地でしゃがみ込む」であった。


 スポーツが好きで尚且つ負けず嫌いな性格の蓮は、時間を忘れボールを追った。


 もはや寒さを感じることなどなく、蓮の集中力は極限にまで達していた。


 蓮の前にボールがこぼれてくる。


 蓮は細かなステップで歩幅を合わせシュートの体勢に入る。


 しかし、蓮より先に敵軍の選手の足がボールに触れる。


 目当てのボールを失った蓮の右足が空を切る。


 勢い余った蓮の身体が回転をする。


 空を切り回転をした蓮の右足が、その場でしゃがみ込んでいた瑞穂の顔面に直撃

をする。



 瑞穂は声も出さずに倒れ込んだ。


 蓮はなぜ瑞穂がそんなところにしゃがみ込んでいたのか理解ができなかった。


 茫然と立ち尽くす蓮に、担任の楢崎は怒鳴り声を上げた。


「女の子の顔面を蹴ってはいけません!!」




「これって俺が悪いのか!?」

「うーん……」

「悪くないだろ! あいつサッカーの試合中にしゃがみ込んでたんだぞ!」

「それは気付かなかったの?」

「ゴール前で密集してたから見えなかったよ! というか、せめてボールが来たら

自分で立って避けろよ!」



 熱くなる蓮を他の5人は、にやにやしながら眺めている。きっとこれがいつもの

ことなんだろうと智子は思い、それ以上はなにも言わないことにした。


「『女の子の顔面を蹴ってはいけません』ってなんだよ! 男の子の顔なら蹴って

もいいのかよ! あいつら! あいつら!」



 蓮の怒りが瑞穂から楢崎へと移っていくのを智子は黙って見守るのであった。

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