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41 斉藤先生の学級会

 智子は教室の後方でクラスメイトと楽しげにおしゃべりをする涼香のことを見て

いた。


「なあ、浜本ってクラスメイトと上手くやってるよな?」


 智子は側にいた真美に問い掛けた。


「涼香ちゃんですか? はい、仲良くやってると思いますよ」

「なんか悪い噂とか聞かない? 誰か特定の人間とは険悪だとか……」

「いやー……聞かないよね?」


 真美は周りにいた女子たちに聞いたが誰もが首を捻るだけであった。


「そうか。ならいいんだがな。クラス替えの時にちょっと気になることがあったけ

ど、自分で解決したのかもな」

「気になることってなんですか?」

「もしかして、去年のカッター事件ですか?」

「カッター事件?」


 愛梨の言葉にその場にいた女子たちは注目した。


「ともちゃん先生は聞いてますか?」

「ああ、クラス決めの時に話題になったのがそれだ。『5年1組カッター事件』」

 

 それは5年1組だった生徒以外には知られていない出来事であった。


「私、同じクラスだったから知ってるんだけど、涼香ちゃん去年クラスでカッター

ナイフを男子に対して振り回したことがあったの」


 その話を初めて聞いた真美たちは心底驚いた。涼香がそんなことをするとは思え

なかったからだ。


「いじめられてたってこと?」

「うん、一部の男子たちからは休み時間の度にちょっかいを出されてた。かわいそ

うだなって思ったけど、私助けてあげられなかった……」


 そう言って愛梨は下を向いた。


「能勢が責任を感じる必要はないぞ。悪いのはいじめた加害者の男子たちであり、

さらには問題を放置し続けた担任なんだからな」

「うん……」


 智子に励まされたものの、愛梨の表情は晴れなかった。


「それって、学級会にはならなかったの?」

「なったよ」

「それでもいじめはなくならなかったのか……」

「学級会は、涼香ちゃんがカッターを振り回した時にだけ行われたの」

「ん? いじめは? そもそもはいじめが原因だろ?」


 智子は愛梨に聞き返した。


「カッターを振り回した時だけ終わりの会で問題になったの。そもそも1組の担任

だった斎藤先生って学級会が好きじゃなかったから」


(3組の赤瀬先生は無類の学級会好きで、1組の斉藤先生はその逆だったのか)


「カッターを振り回したのは悪かっただろうけど、ちゃんと原因追及まで行われた

んだろ? そこから、いじめ問題に議題は移ったんだろ?」

「いえ、そうはなりませんでした」


(だろうな……)


 継続的に行われているいじめを見過ごすような教師にまともなクラス運営など期

待できようはずもないと智子は思った。


「で、その学級会はどんな結論になったんだ?」

「『浜本さんが次またカッターを振り回したら、その時はみんなで無視をする』と

いうことになりました」

「ちょっ!?」


 あまりにも意外な結論に智子は目を丸くした。周りの女子たちも同様だった。


「それマジで!?」

「はい」

「斎藤先生は教室にはいたんだよな?」

「はい」

「その結論になんにも言わなかったのか?」

「はい」

「えー……。斎藤先生、本当にそれでその日は解散したの?」

「はい」

「酷いな……」


 智子は昨年は3年生のクラス担任をしていた。斎藤とは同じ学年を受け持ったこ

とは1度もなく、彼女は昨年度をもって寿退職をしていた。なので智子は斎藤のこ

とをあまりよく知らない。


(浜本にとっては辛い1年だったろうな)


 智子たちが涼香の方を見ると、1人で暇を持て余すように掲示板に貼られた誰か

の作文を読んでいた。


「お前ら、浜本が暇そうにしてるぞ。行ってやった方がいいんじゃないか?」


「「はい!」」



 女子たちは教室後方にいる涼香の元へ駆けていった。


 子供は親や教師次第で性格も人生も変わる、そのことを改めて思い知った智子で

あった。

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