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190 令和の10回ゲーム

 健太と昌巳、滝小学校が誇る巨漢ツートップが教室の隅ではしゃいでいる。 


「ピザって10回言ってみて?」


(10回ゲームだ。懐かしいなあ)


 智子は自身が子供の頃に流行った遊びを久しぶりに耳にした。


 ピザと10回言わせ、「ここは?」と言いながらひじを指すとピザという言葉に

つられ思わず「ひざ」と言ってしまうという言葉遊びだ。


「――ピザ、ピザ、ピザ、ピザ!」

「ここ……」

「ひじ!!」


 昌巳は健太がひじを指すよりも早く、答を叫んだ。


「なんで分かるんだよ!」

「ネットで見た! ひゃーひゃっひゃ」


 おおはしゃぎするでぶ2人を智子は冷ややかな目で見ていた。


「お前ら恋人か?」

「え? なに?」

「どうでもいいけど、お前らちょっとは外で遊べよ。暑苦しいんだよ」

「今日はちょっと気温が高いからさあ、外に出るとしんどいんだよねー」

「しんどいんだよねーじゃねえよ。周りの迷惑も考えろよ」

「え? 俺たちって周りに迷惑かけてるの?」


 健太と昌巳は智子からの指摘に心底驚いた。


 自分たちが周りからそんな目で見られているとは想像をしたこともなかった。



 10月になって以降「気温が高い」などという言葉は暫く使っていなかった智子

だが、でぶの2人にとっては秋でも暑い日というのは存在するらしい。


「カラッとしてて最高の日じゃないか」

「でも今日は最高気温が20度もあるんだよなあ。動くと汗かくけど?」

「最後の疑問形はなんなんだよ……」


 呆れた智子はその場を立ち去ろうとするが、それを健太が引き留める。 


「ともちゃん先生も一緒にやろうぜ、10回ゲーム」

「私はいいよ。小学生の頃にやり尽くしたから」

「ともちゃん先生の小学生時代って昭和だろ? 令和の10回ゲームは進化してる

んだぜ?」

「ほんとかよ……」


 自信満々な態度の健太に挑発をされ智子は少しだけ付き合うことにした。


「入浴って10回言ってみて?」


(ニューヨークって言わせる気だな)


 智子は大人なので「入浴」と聞いただけで「ニューヨーク」に先回りできるので

ある。


「――入浴、入浴、入浴」

「アメリカの首都は?」

「ワシントンD.C.」

「ぶー! 正解はニューヨークです!」

「ともちゃん先生、引っ掛かった!」


 健太と昌巳は智子との勝負に勝ったと思いガッツポーズをしている。


「お前ら正気か?」

「え? なにが?」

「アメリカの首都はワシントンD.C.だろ」

「……ニューヨーク」

「ニューヨークってぽつりと呟くな。アメリカの首都はニューヨークじゃない。ワ

シントンD.C.だ。そうだな、本間」

「はい、そうです」


 智子はスマホで調べて2人に見せるのが面倒だったので学年一の秀才である美織

に答を確認してもらった。


「ニューヨークって首都じゃないのかよ……」

「まあ、小学生にありがちな間違いだから気にするなよ」


 智子は健太と昌巳を励ます。


「10回ゲームはこれで終わりか?」

「いや、まだある!」


 再び健太が出題する。


「豊臣秀吉って10回言ってみて?」


(これは初めて聞く問題だな)


「――豊臣秀吉、豊臣秀吉」

「大坂城を作ったのは?」

「……豊臣秀吉?」

「ぶー! 正解は大工さんです!」

「今度こそ勝ったぞ!」


 大はしゃぎをする2人であるが当然智子は納得がいかない。


「それ、おかしいだろ」

「なんで? 秀吉が作ったわけじゃないじゃん。大工さんじゃん」

「それはもう別のなぞなぞだろうが。10回ゲーム関係ないし」

「違う! 10回ゲームだぞ! 俺たちの勝ちだ!」


 勝利宣言をする健太に智子は苛立ちながらも、なんとかこの2人に泡を吹かせら

れないかと考える。


 しかし、すぐにいいアイデアは浮かんではこなかった。


「じゃあ今度は俺からな」


 上機嫌の昌巳が前に出た。


「ともちゃん先生、フライパンって10回言ってみて?」

「また変な問題じゃないだろうな」

「早く! 間を置いたら駄目なんだって!」

「ああ、そうか……」


 智子は10回ゲームの暗黙の了解に従い、深く考えずにフライパンと10回唱え

た。


「――フライパン、フライパン」

「パンはパンでも食べられないパンってなーんだ?」

「……フライパン」

「ぶー! 正解は腐ったパンでした!」

「よっしゃー!」

「よっしゃーじゃねえよ!」

「ともちゃん先生にまた勝ったー!」

「負けてねえし! フライパンも食えねえし!」

「ケーキでできたフライパンかもしれないだろ!」

「そんなのもうフライパンじゃねえよ!」 



 智子はブチ切れた。


 傍から見ると楽しく遊んでいるふうに見えたかもしれない。


 でも実際の智子は本気でキレていた。


 その証拠に智子の目にはうっすらと悔し涙が浮かんでいたのだ。


 智子の負けず嫌いが想像を絶するほどのものであることを、生徒たちはまだ知ら

ないのであった。

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