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181 超弩級の無茶苦茶発言

 地球温暖化、地球温暖化による気候変動。


 地球規模の問題は我が国にも大きな影響を与えている。


「夏が長くなり秋を飛ばしてすぐ冬になる」ここ数年はそんなことが当たり前のよ

うに言われているが、今年はちゃんと秋がやってきたようだ。



「秋祭り、早くない?」


 10月中旬の金曜日、終わりの会で智子は「もう、うんざりなんですけど」とい

う態度で言った。


「早いってなんですか? 毎年秋祭りはこの時期だと思うんですけど」

「この間、夏祭りやったばっかりじゃん。なんでもう秋祭りなの? だるいんです

けど」

「夏祭りは7月ですよ?」

「1年は12ヶ月なんだから半年ごとにやれよ。なんで3ヶ月で2回ともやっちゃ

うんだよ」

「でも、お正月にも屋台は出ますから」

「屋台出すぎだろ! なんで神社にそんな屋台ばっかり出てるんだよ! インドか

よ!」

「インド……」 


 智子はインドに行ったことはない。


 しかし智子の頭の中ではなぜか「インド=屋台」という図式ができてしまってい

る。


「インドって屋台のイメージですか? 私にはそのイメージないんですけど……」


 戸惑いながら真美は聞く。


「YouTubeとかでインドの屋台の動画が流れてくるんだよ。見たことない?」

「まあ、たまに……」

「出刃包丁みたいなやつで玉子を叩き割って、それを丸い鉄板の上で焼くんだ。そ

れをパンに挟んで新聞紙でくるんで客に渡すの。味付けも豪快で見た目は美味そう

なんだけど、画面に映ってるもの全てが不衛生なんだよ。あんなもん食ったら多分

温室育ちのお前らの胃腸なんか即死だぞ」

「胃腸即死……」

「この国の衛生観念はインドでは通用しない。覚えておけ」

「はい。いずれインドに行くことがあったら気を付けます」


 智子のよく分からない話を真美は素直に受け入れた。


「それで、今日からの秋祭りにインドは関係あるんですか?」

「ねえよ! インドは関係ねえよ! 日本の秋祭りだよ!」

「ともちゃん先生がなにを愚痴ってるのかいまいちよく分からないんですけど」

「早すぎるの、サイクルが! 祭りなんか年に1回でいいじゃん! 夏だけにして

よ、もう!」

「それはどうしてですか?」

「見回りが面倒臭いからだよ!」


 真美の疑問に智子は答えた。


 智子は簡単に口を割る。


 きっと事件を起こしても現場で全てを白状することだろう。


「なんでちょっと前にお前らのお守りをしたばっかりなのに、また夜中に神社に行

かなくちゃならないんだよ! しかもこの時季、夜はもう寒いんだよ! やるなら

せめて夕方にやれ!」

「祭りは夜の方が風情があっていいじゃないですか」

「風情を楽しみたいなら、たこ焼きとか食ってんじゃねえ!」

「えー……」


 智子の中では「風情≠たこ焼き」なのである。 


「たこ焼きも祭りっぽくて、俺は風情あると思うけどなあ」


 朝陽が口を挟む。


「たこ焼きなんかただのソース味の小麦粉焼きだろうが! 偉そうな面すんな!」

「俺は別にたこ焼きをフォローしたわけではないんだけど……」

「じゃあ、お前もう2度と祭りのたこ焼き食うなよ! 食いたいなら家でお母さん

に焼いてもらえ!」

「俺はそもそも祭りでたこ焼き買いませんから。チョコバナナ派なんで」

「なんだよっ。ファンシーなもん食いやがってよ」  


 智子はチョコバナナをファンシーな食べ物だと位置づけていた。



「秋祭りは3日間行われる。そこで、滝小学校の生徒は1日だけに集中して行くっ

ていうのはどうだ? そうすれば見回りも1日だけでよくなる」

「全学年1日だけ? 1年生も?」

「そうだ。楽でいいだろ?」

「先生たちは楽だろうけど、俺たちは別に3日とも行っても疲れないし」

「自分のことばっかり考えてんじゃねえ! ちょっとは教師の時間外労働のことも

考えろ!」

「えー……」


 智子がこの世で最も嫌いなこと、それは「差別」と「戦争」と「時間外労働」で

ある。

 

「分かったらお前たちも上級生として責任を持って下級生を説得するように。みん

なで1日に集中するんだ。親からもらうお小遣いも3日分を1日で使え。どうだ?

わくわくするだろ?」


 智子は勝手なことを言うが生徒たちは納得がいかない顔をする。


 するとここで諒が静かに手を挙げる。


「なんだよ、桐谷。私寄りの意見じゃなければ発言は認めないぞ」


 智子は担任の権限で言論封殺を行なおうとするが諒はそれを無視して尋ねる。


「ともちゃん先生は子供の頃、祭りは1日しか参加しなかったんですか?」

「……」

「答えないってことは3日間参加してたってことですよね?」

「……」


 智子は厳しい表情で口を真一文字に結んでいる。


「自分は3日楽しんでたくせに俺たちには1日で我慢しろっていうのかよ!」

「するいぞ!」

「俺たちにも3日間参加させろ!」


 男子たちは口々に智子を責め立てる。


「別に、3日間参加してたとは言ってないし……」

「じゃあなんで黙るんだよ。黙るっていうことは都合の悪いことを隠してるってこ

とだろ」

「肯定も否定もしてないし……」


 智子は苦しい弁解をする。


「だったら答えろ!」

「答えろ!」

「諒の質問に答えろ!」


 容赦なく浴びせられる男子からの厳しい追及。


 耐えかねた智子は口を開き、そして生徒たちに答えた。


「聞いた質問が必ず答えてもらえると思うな!!」 

 


 静まり返る教室――

 

 生徒たちは唖然とした。


 智子の逆切れに唖然とした。  


 春から繰り返されてきた智子の無茶苦茶な発言の数々――その中でも超弩級の無

茶苦茶発言が今日、終わりの会で飛び出したのであった……。

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