175 小池とジャミロクワイ
智子は皮膚科に来ていた。
アレルギー体質の智子は2週間に1回ここを訪れ、飲み薬と必要であれば塗り薬
をもらうことにしている。
皮膚科といってもそれ専門ではなく整形外科も行っており、カーテンで仕切られ
た別の部屋ではリハビリ治療が行われていた。
待合室での読書に集中できなくなった智子は本を鞄の中にしまい、床に届かない
足をぶらぶらさせて自分の順番がくるのを待っていた。
智子の右側にはカーテンがあり、その奥で整形外科の治療が行われている。
カーテンが開け閉めされるタイミングで覗いてみると、どうやら中にはベッドや
リハビリ用の器具が置かれているらしい。
呼ばれるのはほとんどが高齢者であるが、たまに若い人も入っていく。
中からは患者に指示を出したり励ましたりする理学療法士の声が聞こえてくる。
「小池さん、どうぞー」
看護師に呼ばれた患者がカーテンへと向かう。
小池と呼ばれた20代くらいの小太りの女性は、智子の左側からゆっくりと歩い
てくる。
智子はあまりじろじろ見ないように、控え目に彼女のことを観察した。
パッと見た感じだとどこが悪いのかは分からないほど彼女は悠然と歩いている。
体型からして腰か膝かと思ったが、まだ若いしそれは偏見であろうと智子は反省
する。
見た目はちっちゃなお相撲さんみたいだが、もしかしたら絵の描き過ぎで手首を
痛めているのかもしれない。
彼女は長ズボンを穿いているが、上は半袖のTシャツ1枚である。
季節は秋、周りを見回してももう半袖だけで過ごしている者などいない。
「小池はでぶだから体感温度が他人とは違うんだろうなあ」と智子は思った。
小池の着ているシャツは紺色で表面に艶があった。
(おしゃれなTシャツだなあ)
智子は、左胸にワンポイントでシンプルなデザインが施されているそのシャツを
見て「いいなあ」と思った。
小池が智子の前をゆっくりと通り過ぎる。
目が合う可能性がなくなったため、智子は小池の身体をしっかりと見つめた、す
ると――
(ジャミロクワイだ!!)
小池の背中にはあの有名なシルエットがプリントされていた。
音楽に疎い智子ですら知っているあの曲を歌った白人歌手のあのロゴマーク、そ
れが小池の広い背中の真ん中にでかでかとプリントされていた。
(小池、ジャミロクワイが好きなのか……)
でぶの小池はおそらく膝が悪い。
そんな小池にもジャミロクワイを好きになる資格はある。
(ジャミロクワイ、あのサイズのTシャツも展開してるのか……)
小池の服のセンスにとどまらず、ジャミロクワイ側の商品展開にまで思いを及ば
せる智子なのであった。




