151 AIvsAI
滝小学校では水曜日の5時間目に「クラブ活動」という授業がある。
この授業に参加するのは4,5,6年生で、4月に自らが選択した活動を1年間
行うことになっている。
学校が用意したクラブは「バスケットボール」「バレーボール」「卓球」「パソ
コン」「図工」「手芸」などである。
「うちのクラスの男子はバスケットボールが多いよな」
生徒は第1希望から第3希望までを紙に書いて提出し、人数が多い場合は抽選と
なるのだが、ほぼ第1希望のクラブに所属ができていた。
「ともちゃん先生はパソコン部の顧問ですか?」
「うん。去年まではずっとバスケで今年もそうだったんだけど、4月にこの身体に
なっちゃったからパソコン部の先生と交代してもらった」
涼香の問いに智子は答えた。
「ともちゃん先生はパソコンは詳しいんですか?」
「全然」
「えっ、じゃあなんで?」
「だって、他にやれることないもん。運動部にいると危ないし、手芸も図工も得意
じゃないし」
「でも、プログラミングの授業は普通にできてますよね?」
隣にいた愛梨は聞いた。
「授業はテキスト通りだもん。それ以外のことはやってないし、困ったら本間に聞
くし」
智子は授業で困ったことがあると、迷わず美織や諒のような成績のいい生徒に助
けを求めていた。
「ともちゃん先生って、授業中でも生徒に堂々と聞きますよね」
「別にいいじゃん。私より詳しい人がクラスにいるのならそいつに頼れば。教える
と覚えもよくなるから、生徒にとってもいいんだぞ。そういう授業もあるしな」
智子は自分が楽をしたいくせに、生徒のことを思ってやっているふうを装った。
「パソコン部では教えたりはしないってことですか?」
「うん。パソコンが得意な先生がやってくれるから、私は邪魔しないように離れた
場所にいる」
「本でも読んでるんですか?」
「読まねえよ。パソコンルームだからパソコンだけはいっぱいあるんだから、それ
使ってるよ」
「一緒に勉強してるんですね?」
「うん。YouTube見てる」
「え?」
教師が授業中にYouTubeを見ているという告白に愛梨は驚いた。
「YouTubeで勉強してるってことですか?」
「勉強っちゃあ勉強かな」
「なにを見てるんですか?」
「最近はAIvsAIの将棋対決を見てる」
「それは勉強ではないですね」
愛梨は断言した。
「AIの将棋ってレベル高いんでしょ? 見てて理解はできるんですか?」
「さっぱりだな。ルールは知ってるけど戦術とかは知らないから、一体なにが凄い
んだか分からん」
「……じゃあ、なんで見るんですか?」
「なんか見ちゃう」
智子は理由にならない理由を述べた。
「それって、楽しいんですか?」
「楽しくなんかないよ。ただ、あっという間に授業終了の時間になるからな。猫が
動き続けるボールを眺めてるのと同じことだろうな」
智子はあっけらかんと自らの職務怠慢を生徒に告白した。
愛梨は、智子が職務時間中に遊んでいると言ったことよりも、自分を猫のような
知能の低い動物と同じだと言ったことが気になった。
好奇心が強く、すぐに泣く……智子は確かに猫みたいな存在なのだなあと愛梨は
ちょっとだけ納得したのであった。