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15 殻なしタマゴが怖くて持てない

 休み時間、教室の中央付近で生徒たちが騒いでいる。


「ともちゃん先生、国木田くんが面白いものを持ってきてるよ」

「面白いもの?」

「そうなの。ともちゃん先生も見てよ」


(面白いものって……どうせゲーム機かなんかだろ。そんなもん学校に持ってくる

なよ。面倒臭い……)


 ぶつぶつ言いながら智子は女子に手を引かれていく。


「ともちゃん先生が来たよー」

「面白いものってなんだ。見せてみろ」


 そう言いながら輪の中に入った智子が見たもの、それは蓮の手の平の上で輝く卵

だった。

 その卵には殻が無く、午前中の日の光を受けて黄金色に輝いていた。

 智子は一瞬にしてその黄金の卵に心を奪われた。


「なにそれ! 卵!? 本物!?」

「うん。3日酢に漬けると皮が溶けてこうなるんだ」

「へー……え? 皮? 殻だろ?」 

「あっそうか。殻だった」


 蓮の言い間違いに輪の中で爆笑が起こった。


「それって硬いの?」

「手で持てる程度には硬いよ。ともちゃん先生も持ってみる?」

「えー……どうだろう」


 智子は躊躇した。蓮は事もなげに手にしているが、自分が持ったらその瞬間に破

裂してしまうような気がした。


「……やめておく」


 気の弱い智子はそう呟き、蓮からの申し出を断った。


「俺がやる!」


 真っ先に立候補したのは駿だった。駿はこういう時、深く考えずに突っ走る傾向

にあるのだ。


「お前、大丈夫か? 卵潰したりしないか?」

「大丈夫だって」

「お前、その自信どこから来るんだよ。ぶしゃーってなったらお前の服だけじゃな

く、周りも汚れるんだぞ。ちゃんと分かってるか?」

「大丈夫だよ。蓮だって持ってるんだから。俺にもできるって」

「国木田はそれを作った本人だからできるんだろ? お前は今初めてそれを見たん

だろ? 今日の朝はまさかこんなことになるとは思ってなかっただろ? 心の準備

すらできてないだろ? それでもやるのか? いきなりやるのか?」

「うるさいなあ、もう」


 駿は智子の言葉を鬱陶しそうに遮った。


「だって、私はお前のためを思って……」


 智子は不安で気が気でない様子だ。 


「なあ、あれ大丈夫なの? 国木田以外が持っても大丈夫なの?」


 智子は周りの女子に意見を求めた。


「国木田くん本人が持っていいって言ってるから大丈夫だと思うよ」

「そうなの? でも北山ってお調子者だろ? そんな奴でも大丈夫なの?」

「ともちゃん先生、俺のことそんな目で見てたのかよ」


 智子の自分への評価に対して、駿は不満を口にする。


「というか、蓮が持てるのにどうして俺が持てないんだよ。別にたいしたことない

だろ、こんなの」

「お前の意見なんか誰も聞いてない、黙ってろ。それよりも国木田、本当にいいの

か? 北山が持ってもぶしゃーってならないか?」

「強く握ったりしなければ大丈夫。そこまで柔らかくはないから」

「でも……」

「ともちゃん先生、ビビりなんだよ」

「別にビビりじゃないけど……」


 智子の心配をよそに、駿は蓮の手の平にあった殻無し卵を掴み、持ち上げた。


「うおー! すげー!」


 駿は笑顔で手の平に載せた。


「次、俺!」

「俺も!」


 男子たちを中心に立候補者が続く。

 智子はそんな彼らを心配そうな目で見つめた。


「大丈夫なのか? お前ら大丈夫なのか?」


 輪の中央では黄金色の卵が、生徒たちの手の平から手の平へと渡っていく。

 

「ともちゃん先生、ほら」


 手にした生徒たちは皆、手の平に置いた卵が智子にも見えるように智子の顔の高

さにまで下げてあげた。


「うわー。タマゴだぁ」


 それを見せてもらうたび、智子はよく分からない感想を呟いた。



 2時間目の始まりを告げるチャイムが鳴った。

 興奮状態の生徒たちは、おしゃべりしながら自分の席に移動する。


「ともちゃん先生、最後に持ちますか?」


 蓮はそう言いながら、殻無し卵を智子の目の前に差し出した。


「うーん……」


 生徒たちが注目する中、智子は決断をした。


「やっぱやめておく。私が持ったら、ぶしゃーってなる気がするから……」



 生徒たちが言うように、やはり智子はビビりなのだった。

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