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118 外泊炎

 キャンプファイヤーが終わり、1日目の予定は全て終了した。


 テントに戻った生徒たちは担任の指示の元、歯ブラシをリュックから取り出し

順番に歯磨きを始める。


 歯磨きが終わればトイレに行って、そのあとは寝るだけだ。


 生徒たちは森にいる間、入浴機会はゼロである。 



「ともちゃん先生」

「どうした、光井」

「キャンプファイヤーって日本語でなんて言うんですか?」

「は?」


 渋滞するトイレを後回しにし、友人たちと世間話をしていた颯介の質問に智子は

イラッとした。


「キャンプファイヤーはキャンプファイヤーだろ」

「それ絶対に英語ですよね。日本語ではなんて言うんですか?」

「チッ」

「え? 舌打ち?」


 智子の面倒臭さは時として舌打ちになって現れる。


「ともちゃん先生、生徒に舌打ちはどうかと思うな」


 朝陽の指摘に対し、智子は珍しく言い返さなかった。

 さすがにこれは自分の方が悪かったと認めざるを得なかったのだ。


「キャンプファイヤーか……こういうのはな、直訳すればいいってもんじゃないん

だよ。意味を捉えて、尚且つ語呂がよくないといけない」


 15秒かけて智子が導き出した答、それは――


「『外泊炎』だ」


 辺りに微妙な空気が流れる。


「がいはくほのお?」

「そうだ」


 智子は自信満々である。


「キャンプは外泊、ファイヤーが炎だ」

「ファイヤーが炎は分かりますけど、キャンプって外泊ですか?」

「そりゃそうだろ、キャンプが外泊じゃなきゃなんなんだよ。お前はテントを家だ

と言い張るのかよ」

「言いませんよ……」

「だったら外泊炎でいいだろ。素直に受け入れろ」

「キャンプは外泊ですけど、外泊はキャンプとは限らないじゃないですか」

「うるせえ。言語っていうのはそもそも成り立ちが違うんだよ。だから英語を全く

同じ意味の日本語に置き換えるとか無理な話なんだよ」

「だとしても……」


 颯介は納得がいかない様子である。


「せめてスマホで調べてくださいよ。もっといい訳が既にあるかもしれないじゃな

いですか」

「なんだよ……。無駄遣いして、いざという時にバッテリー切れてたらどうすんだ

よ」


 智子はぶつぶつ言いながら検索した。


「『営火』だとよ」

「えいか?」


 颯介たちは首を捻った。


「営む火で営火だ」

「営火……なんか、ぱっとしませんね」

「だろ? だから外泊炎にしとけって言ったんだよ」

「いや、外泊炎も変ですけど」

「なんでだよ!」



 智子は怒鳴った。


 林間学校の夜なのに何故自分のアイデアをこいつらは受け入れないのだと理不尽

に思った。 


 神聖な森で過ごす素敵な夜なのに自分だけが報われない……智子は果てしない自

己憐憫の闇の中に飲み込まれるのであった。

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