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110/217

110 頭を日射しから守る道具

 午前7時、生徒たちは授業のある日よりも1時間以上も早くに登校していた。


 林間学校当日、頭上には真夏らしい青空が広がっている。


 欠席者はおらず、既に全員が校庭に集合していた。


 生徒たちは全員が指導された通り、帽子を被りリュックを背負っているのだが、

ただ1人、2組担任の菊池だけが帽子を被らず地肌を太陽に晒している。


(なんなんだよあいつ。生徒たちはみんな学校のいうこと聞いて、ちゃんと用意し

てきてるのに。なんで担任がそれを破るんだよ!)


 智子は心の中で菊池に毒づいた。


「ともちゃん先生、なにがあったのか私は知らないけど、菊池先生のこと睨みすぎ

だよ」


 列の1番前に並んでいる瑞穂は、菊池に厳しい視線を送る智子に注意をした。


「あいつ、帽子被ってきてないんだよ」

「別にいいじゃないそれくらい。それよりも他の先生のことを『あいつ』呼ばわり

する方がどうかと思うけど」

「神田はあいつの味方なのかよ」

「なんで私があんな人の味方にならなきゃいけないの? 菊池先生って、学年の全

生徒から嫌われてるんだよ?」

「そうなの?」


 瑞穂から告げられた事実に智子は驚きの声を上げる。


「全員から? あいつ、そんな悪いことしたの?」

「とにかく一部の女子に対しての依怙贔屓が酷いの。しかも、贔屓する女子のこと

をいやらしい目で見てくる」

「……今日の晩から大丈夫かなあ。あいつ、女子のテントに夜這いに行ったりしな

いよな」

「えっ、そんなことあるの!?」


 智子の心配に瑞穂は跳びあがらんばかりに驚いた。


「だって、これから行くところは田舎の方だから、夜這いの文化とかまだ残ってそ

うだし……」

「菊池先生はその田舎の人ではないから、そこで泊まってもその文化は関係ないで

しょ!?」

「そうなの?」

「そうだよ。先生たちもテントで寝るんだよね?」

「うん」

「なんでその地方の文化がテントの中にまで入ってくるの! ウィルスじゃないん

だから、そんなことありえないです!」


 瑞穂の説を聞き、智子はちょっと安心した。


「よかった。これでお前たちもあいつに襲われずに済みそうだな」

「さすがに襲われる心配まではしてないけど」



 ほっと一息ついた智子は改めて菊池を見る。


 すると菊池は鞄から畳まれた布を取り出した。


「ハンカチ? それにしては大きいな」

「バンダナかなあ」


 それは瑞穂の言う通り、プランクトンの描かれた青いバンダナであった。


「なんでプランクトン柄なんだろうな」

「さあ……好きなんじゃないの、プランクトン」

「そんなやついねえよ」


 瑞穂の意見を智子は一蹴した。


 するとバンダナを広げた菊池はそれを頭に巻き始めたではないか。


「バンダナだ! あいつ、帽子じゃなくてバンダナ派なんだ!」



 それはまさかの事実であった。


 キャンプで頭を日射しから守る道具が帽子以外にもあっただなんて。


(禿げた頭頂部から流れる汗を吸収するには、あのバンダナが1番都合がいいのか

もしれないなあ……) 


 智子は全く似合わないバンダナ姿の菊池のことを、離れた場所から見つめるので

あった。 

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