学園生活⑤
誤字脱字があればお知らせ下さい。
次の話から物語が大きく動きます。
お楽しみに。
「ッ……お前、まだ立てたのか! いいねぇ! そう来ないとなあぁ!」
男子生徒が拳を振り下ろしたが、その拳は俺に当たる事無く空を切った。
「チッ! ヒョロいから当たらないか!」
「違う。お前の攻撃が緩いんだよ」
「緩いだと!? 一度倒された分際で調子に乗るなよなぁ!」
馬鹿にされた事が余程悔しかったのだろう。今にも掴みかからんばかりの形相で俺を睨み、男子生徒は怒りの咆哮をあげる。
ストレート、フック、アッパー、キック、回し蹴り……男子生徒は次々と激しい攻撃を繰り出してくる。
だが、どの攻撃も俺に当たる事は無かった。
「ゼェ……ゼェ……ちくしょう! 何故当たらない!?」
「悪いな、お前のお陰で目が覚めたよ。やっぱり喧嘩は手を抜くものじゃないな」
「ああ!? どう言う意味だ!?」
「そのまんまの意味だよ。俺は昔から動体視力と反射神経はいいんだ。その気になればお前のショボい攻撃とかまず当たらない」
「……ぶっ殺す!」
男子生徒が目を見開いて一気に駆け出す。その姿はまるで猛獣だ。
「――くたばりやがれ! 日本人!」
「――遅いんだよ! アメリカ人!」
俺の視線と男子生徒の視線がぶつかる。
そして――決着は一瞬だった。
俺は男子生徒の渾身の一撃をサラリと避け、再び鳩尾に狙いを定めると、全体重を乗せた強力な一撃を思いっきり打ち込んだ。
「――がっ!?」
今回の一撃はかなり効いたようで、男子生徒は悶絶しながら膝を地面に付けた。
「……くっ、俺はまだ――!」
「中々タフな奴だな。でも、もう終わりみたいだぞ」
「ああ!? 俺はまだ負けてねえ!」
「そうじゃない。監督生が来てる」
***
遅かれ早かれ監督生が来る事は分かっていた。
今は部活動が行われている時間だが、この場に生徒がいない訳では無い。誰かが俺達の喧嘩を見て監督生を呼んだのだ。
俺と男子生徒はその場で正座をさせられ、三人の監督生から取り調べを受ける事になった。
「結城君、貴方は全く懲りて無いようですね。以前は代表に怒られ、今回は私ですか。あまりにも生活態度が酷いとお尻ぺんぺんしちゃいますからね」
ツインテールの監督生が言った。
彼女は歌津 初音という名前で、監督生と保健委員の副委員長を兼任している人物だ。スライド組の二学年に在籍しており、基本的に一癖二癖あるスライド組の監督生達の中で数少ない常識人である。
「ぷっ! お尻ぺんぺんとかギャグかよ!? スライド組の監督生は発言が幼稚だ――へぐっ!?」
男子生徒が暴言を吐いた瞬間、赤い髪の監督生が彼の顔に膝蹴りを入れた。
「楽しそうだな、ジェームズ。俺さ、この前言ったよな? これ以上揉め事起こすなって」
「うるせえ! 喧嘩は江戸の花だろうが!」
「ここ、絶妙に埼玉県な」
「サイのたま県? 何か卑猥な名前だな!」
「よーし、お前の罰が決まった。今日から一ヶ月間、校舎内にある全ての男子トイレ掃除だ」
俺は監督生、特に編入組の方はよく知らないが、見ている限りではスライド組の監督生もそれなりに大変そうだ。
「結城君、貴方への罰則は私の手伝いです。期間は今日から来週までの一週間とします」
男子生徒……確か名前はジェームズだったか? あいつより俺の罰則が軽いのは情状酌量の余地があったからだろうか?
「相変わらず身内には甘々みたいね。そんな態度とってると生徒達に舐められるわよ、歌津 初音さん」
背の低いボブカットの監督生が、歌津先輩に嫌味ったらしく言う。
「あ、六波羅ちゃん居たんだー。小さいからてっきり中等部の子かと思ってたー」
「ウザっ! その口縫い付けてやろうかしら!? 私、家庭科の裁縫は最高評価だったのよね」
「ふーん、良かったね。料理の方は壊滅的だった見たいだけど」
どうやら歌津先輩とボブカットの監督生は仲が悪いようだ。
ともあれ、監督生の介入によって俺とジェームズの喧嘩は終わった。この脳筋アメリカ人とは今後一切会話する事は無いだろう。
「おい日本人……綾麿。いい戦いだった。また喧嘩しようぜ!」
……どうやら会話云々よりも、ジェームズには近寄らない方が良さそうだ。