学園生活③
誤字・脱字を発見した場合、お手数ですが教えていただけますと幸いです。
それでは本編へどうぞ。
今日の授業が全て終わり、残すは監督生が主催する生徒総会のみとなった。
監督生というのは高等部のみに置かれる役職の総称で、一般的な学校で例えるなら生徒会メンバーのような立ち位置である。
監督生はスライド組から六人、編入組から六人が選ばれ、更に選ばれた各組の監督生の内一人が監督生代表として選出される仕組みだ。
彼等は生徒会の運営だけでは無く、教師の代理人としての権限を与えられており、学園規則に違反した生徒に懲罰を与える事も可能となっている。
中でも監督生代表に与えられている権限は監督生の比では無く、学園の運営理事会への出席も認められている。
運営理事会はこの学園の最高意思決定機関であり、普通の教師はおろか、教頭や校長すら参加する権限を持っていない。
参加できるのは学園長と副学園長、そして五人の理事に、各組の監督生代表の二人だけだ。
「相変わらず凄い威圧感ですね」
「監督生が勢揃いだからな。仕方ない」
俺の隣に座っている瀬菜は落ち着かない様子だ。
ステージの左右にはそれぞれ長机と椅子が置かれており、ステージ左側に編入組の監督生達、ステージ右側にスライド組の監督生達が座っている。
幸い、ステージから俺達がいる場所までは距離がある。少し可哀想だが、今頃ステージに一番近い中等部の生徒達は身の縮む思いをしているはずだ。
「私、監督生は怖いので苦手です。綾麿君はどうですか?」
「当然嫌いだ。少し前にボコボコにされたばかりだからな」
「あら、既に餌食になっていたのですね」
「餌食って言うな。少しは反撃したんだから」
「それで誰にやられたんですか? 相手が普通の監督生なら、お父様に頼んで東京湾に沈めますけど」
「発言が過激すぎだ。あとそれ、ヤクザのやり方な」
「警察は政府お抱えのヤクザってお父様が言ってましたよ? 違うのですか?」
あのピエロ警視総監親父、自分の娘に何言ってんだ?
「……まあいいや。どのみち普通の監督生ではないからな。俺がボコられたのは我等が代表だ」
「渦砂代表にですか!? いったい何をやらかしたんですか!」
瀬菜が驚きの表情を浮かべる。
渦砂 将臣はスライド組の監督生代表だ。高等部の三年生の男子生徒で、性格は極めて真面目だが融通が聞きにくい堅物である。
渦砂は右目にモノクルを掛けているのだが、聞いた話によると、これは右目だけ視力が良過ぎるので、逆に視力を抑える目的で掛けているらしい。
「別に悪い事はしていない。大規模な喧嘩に巻き込まれそうになって、直ぐに逃げようとしたんだが手遅れだった」
「成る程、運が悪かったのですね」
「まあそんなところだ。あいつは化け物――いや、理性を持った災害だ」
「災害ですか。相手が渦砂代表なので砂嵐みたいな感じですかね?」
砂嵐か。良い例えだ。
「言い得て妙だな。あの時は五十人が一気に制圧された。正しく砂嵐に飲まれたような感じだったよ」
「ご、五十人ですか!? それだけ大規模な喧嘩なら自然と私の耳にも入って来ると思いますが……少し前にそんな事ありましたっけ?」
「そりゃ発生前に潰されたからな。後は監督生お得意の『これ以上処罰しないから他言無用』だ。おまけに情報統制も完璧ときた」
人間の到達点のような異常なスペック――
それこそが渦砂 将臣が監督生代表である所以なのだ。
そして、監督生代表はもう一人いる。
その人物はステージ左側の席から立ち上がり、ステージ中央へと進み出た。
「皆様、ごきげんよう。『専門学科』三年の花王 芽吹ですわ」
花王 芽吹。編入組の監督生代表であるこの人物は、日本の新興財閥である花王財閥のご令嬢だ。
警視総監の娘である瀬菜も気品溢れる見た目と風格を持っているが、芽吹はその比ではない。正しく格が違うのだ。
余談だが、『専門学科』と言うのは『編入組』の正式名称である。一方で『スライド組』は『特進学科』が正式な名称だ。あくまでも『スライド組』、『編入組』と言うのは生徒達が勝手に名付けた名称で、教師と会話する時や書面に記載する時は正式名称が使われている。
「本日は本総会へお越しいただきありがとう存じます。これより前期生徒総会を始めさせていただきますが、まず先に私から皆様へ転入生の方をご紹介させていただきますわ。名胡桃さん、こちらへ」
芽吹がそう言うと、左側のステージ横から一人の女子生徒が出て来た。
そして、それと同時に――
「おい、マジか……マジかッ!」
「え!? 嘘でしょ!? あれって、名胡桃 琴音!?」
「う、うおおおおおおぉぉッ!!?」
スライド組、編入組問わず、凄まじい程の歓声が大講堂内を埋め尽くした。
「うるさいな……何で皆んな騒いでるんだ?」
俺は転校生である女子生徒の事を全く知らない。これだけの歓声が上がっているので有名人なのは間違いないと思うが、何の有名人なのかはサッパリだ。
「瀬菜、あの転入生の事知ってるか?」
「……」
「瀬菜?」
「え? あっ、はい! もちろん知ってますよ!? 彼女は名胡桃 琴音さん。今大人気のアイドル兼俳優さんです。綾麿君、知らないんですか?」
「知らない。芸能関係は興味ないからな」
「そうなんですね。でも駄目ですよ、トレンドは常におさえておかないと。学園を卒業したら綾麿君は雨傘家の当主になるんですからね」
「……努力するよ」
しかし、流石はアイドル。この大歓声に動揺した様子もなく、緊張している様子もない。
琴音は芽吹の横に立つと、その場で一礼して話し始めた。
「皆さんこんにちは! 今日から――じゃなくて明日から皆さんと一緒に学ばせていただく、名胡桃 琴音です。こう見えて人見知りするタイプなので、皆さんの方からガンガン声を掛けてくれると嬉しいです。よろしくお願いします!」
琴音が話し終えると、再び大歓声が巻き起こった。
学園初の転入生、名胡桃 琴音。大人気アイドルであり、俳優でもある彼女の転入はこの学園に何をもたらすのかは未知数だ。
だが、俺にとってはどうでもいい事だ。学園全体の雰囲気が良くなろうが悪くなろうが、俺は学園生活を楽しむ気など無いのだから。
ご令嬢キャラって難しいですね。
口調など色々と調べて書いてますが、変に書いていたら申し訳ございません。