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学園生活②

 朝食と授業の支度を済ませた俺は、そのまま登校せずに寮を出て直ぐのベンチに座った。


 そう、待ち合わせである。


 その相手は雨傘あまがさ 瀬菜せなという名前の女子生徒で、現役の警視総監の娘であり、《俺のフィアンセ》でもある相手だ。


 高校一年生の、それも友達もいない奴が何を言ってるんだ? という感じだが、別に嘘は言っていない。


 今から3ヶ月程前。俺は凛が惨殺された事件の最新情報を知りたいが為に、瀬菜の父親であり、現役の警視総監でもある雨傘あまがさ じゅんに直談判しに行った。


 俺からの要求は一つだったが、流石は警視総監というべきか、潤は情報を提供する見返りに六つの条件を俺に突きつけて来たのだ。


 ◆条件一。学園を卒業したら直ちに雨傘家に婿入りする事。もちろん結婚相手は瀬菜である。


 ◆条件二。婿入り後は瀬菜を愛し、子を儲け、一生添い遂げる事。


 ◆条件三。瀬菜の頼みには可能な限り応える事。


 ◆条件四。知り得た情報は一切他言無用である事。


 ◆条件五。俺が犯人を殺害した場合、雨傘家の指示を仰ぐ事。拒否や反抗行為は認めない。


 ◆条件六。俺と一緒に捨てられていた名前入りの木札を雨傘家に預ける事。


 中々に重い内容ばかりだったが、俺は全て承諾した。俺に身内はいないし、何より俺の人生は既に壊れている。これから先の人生がどうなろうが、どうでも良かったからだ。


「おはようございます、綾麿君」


 長い栗色の髪の女子生徒が話しかけて来た。

 

 綺麗に整った顔に、男性が理想とするプロポーション。フワッとした雰囲気を纏っているが、妙に気品を放っている。


「すみません、待たせてしまいましたね」


「……おはようございます。俺も今さっき来たばかりなので気にしなくていいですよ」


 俺はそう言ってベンチから立ち上がり、彼女から鞄を受け取った。


「ふふっ、綾麿君はいつも優しいですね。私は鞄を持ってなど一言も言ってませんのに」


 瀬菜が微笑みながら言う。


「昔から凛に持たされてたので癖になっているみたいですね」


「成る程、凛さんの影響なのですね。ちょっと不謹慎かも知れませんが、お二人の関係には少し妬けてしまいます」


「……貴方がどこまで本音で言ってるのかは分かりませんが、俺と凛の関係は妬けるようなものではありませんよ。恋人というよりも家族――それも兄妹みたいな感じでしたから」


「ふーん、兄妹ですか。まあいいです。それと綾麿君、私が言っているのは全部本音ですよ」


 瀬名はそう言っているが、出会って数ヶ月が経過した今でも彼女の腹の底が見えない。恐らくあの父親の影響もあるのだろう。たった一度会っただけなのだが、あの人は瀬菜以上に分からない。まさに道化を演じるピエロ……そのような感じの人物だった。


「……そうでしたか。それは失礼しました」


「むぅ……その感じ、さては信じていませんね? 綾麿君がお望みなら、私は婚前交渉しても一向に構いませんよ? 愛していますので」


「っ!? ……お前、そういう事は公の場で言わない方がいいぞ。変な目で見られるからな」


「あっ、話し方が変わりましたね! 敬語で話す綾麿君も素敵ですが、砕けた話し方も全然アリです! 私達の精神的距離が近くなって……その……とてもいい感じです!」


 今日は瀬菜のテンションが異様に高い気がする。いつもはクールでお淑やかな感じなのだ。もしかしたらストレスでも溜まっているのかも知れない。


「そうですか。だったら暴言吐きまくるけど普通に喋った方がいいですかね?」


「そうですね。暴言は嫌ですが、私はありのままの綾麿君と一緒にいたいです」


「っ!?」


 瀬菜は真っ直ぐ俺の目を見つめている。まるで『私を信じて欲しい!』と、目で訴えかけているかのようだ。


「……分かったよ。暴言は言わないように努力する。……ほら、ニヤけて無いでさっさと行くぞ」


「はい、何処までもついて行きます」


「だからそう言うの辞めろって、恥ずかしいから」


 怒りと運動以外で身体が熱くなったのはいつ以来だろうか? もしかしたら凛が死んでから初めての事かも知れない。


「ふふっ、耳が赤くなってますよ?」


「これは寒いからだ」


「あら、今は5月ですよ? ……あ、5月で思い出しました。どうやら今日から転入生が来るみたいですよ」


「転入生? この学園は転入受け入れしないはずだろ?」


 この学園は中学入学時と高校入学時で合格した生徒以外は、例え欠員が出ても補充はしない。なので転入生など有り得ないのだ。


「はい。ですが今回はその……凛さんがお亡くなりになられたので……」


 瀬菜が口を噤む。


「別に気を使わなくていいよ。要するに凛が死んでスライド組の枠が空いたから、生徒を追加で入れたって事だろ」


 瀬菜がコクリと頷く。


「だけど時期がおかしくないか? 凛が死んだのが去年の十二月の後半で、編入組の入試は二月だろ? だったら二月の試験で一人多く取れば良かったはずだ」


「どうやら理事会の方針が急に変わったようですね。私も気になってお父様に電話で聞いたのですが、裏で国が圧力をかけただのだろうと言ってました」


 国からの圧力……どうやら今回の転入生の件は闇が深いようだ。


「そうか。何にせよ俺が転入生に関わる事は無いな」


「そうですね。転入生が女性なら百パーセント無いですね」


「……あのさ、さっきから気になってる事があるだが」


「はい、何でしょう?」


「もしかして、ストレス溜まってる?」

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