学園生活①
私立・日城学園。
この学校は日本一の名門校と呼ばれており、在籍している生徒もその名に恥じぬ逸材ばかりだ。
男女共学の中高一貫校で、全寮制。定員は中等部だと百五十名、高等部の場合は三百名となっている。
この定員数の差は中等部から在籍していた『スライド組』と呼ばれる生徒達に、新たに高等部から編入して来た生徒達――『編入組』が加わる為なのだが、この編入システムのせいで校内では毎日争いが絶えないのが現状だ。
とは言え、俺は二勢力の争いに興味は無い。喧嘩は苦手ではないが、面倒事に巻き込まれるのはごめんだ。なので争いが発生すれば俺は即座に離脱するし、同じスライド組の生徒から助力を求められても完全に無視をしている。
まあ、そのせいでスライド組の生徒達からも敬遠されているし、当然ながら編入組の生徒達からも嫌われている。
要は一匹狼――それがこの学校における俺の立ち位置だ。
しかし、そんな嫌われ者の俺にも仲の良い人物がいた。
その人物は相良 凛という名前で、俺にとっては同じ児童養護施設で育った幼馴染であり家族だった。
しかし、凛はもうこの世界にはいない。
去年のクリスマスの日、学外へと外出していた彼女は何者かに襲われて殺害されたのだ。
事件現場は相当凄惨だったようで、警察もマスコミに対して言葉を濁していたのを今でも覚えている。そして凛を惨殺した犯人だが、残念なことに特定すらできていない。
俺はこの一報を聞いた時、この身を焦がすような怒りと絶望を味わった。いつか必ず凛の仇を取る――犯人に復讐する――そう思って俺は今という日常を過ごしている。
「……凛」
宿題をしていた手が止まり、自然に口から言葉が漏れた。
自分しか居ない寮の1人部屋。何を言っても誰にも聞かれる事は無いが、妙に恥ずかしい。
「駄目だな。今日はもう寝るか」
こんな日は何やっても思考が止まってしまう。宿題など明日の朝やればいい。
俺は椅子から立ち上がると、部屋の電気を消してベッドに倒れ込んだ。
***
「やっと終わった」
俺はそう言うと手に持っていたシャープペンシルを机に置いて、椅子に座ったままゆっくりと背伸びをした。
一仕事終えた気分だが、実際のところマイナスをゼロに戻しただけ――昨日の夜に後回しににした宿題を今終わらせただけである。
「さてと、着替えるか」
時刻は朝の六時。そろそろ寮の食堂が開く時間だ。
俺は椅子から立ち上がり、壁に掛けてある制服一式を手に取った。
白いワイシャツ。金色の刺繍が施された緑色のネクタイ。紺色のブレザーに、グレーの長ズボン。靴は部屋の玄関に置いてある茶色いローファーだ。
この制服一式は男子用だが、基本的に女子用の制服もほぼ同じスタイルである。唯一違うのは長ズボンでは無く、スカートであるという点くらいだ。
俺は手早く制服を身に付け、鏡の前に立った。
鏡に写る自分の姿。黒髪の癖っ毛に年相応の顔立ち。身長は高校一年生男子の平均くらいなのだが、体格は平均よりもやや細身だ。
「もっと鍛えないとな駄目だな」
自分の貧相な身体付きに思わず愚痴がこぼれる。
俺は凛が殺害されてから毎日欠かさずにトレーニングを行なっている。
そう、全ては復讐の為だ。
凛を殺した犯人を見つけ、必ずこの手で殺す……ただそれだけが今の俺の行動原理と言っていい。
児童養護施設の職員達には申し訳ないと思っている。だが、もう決めた事だ。協力者だって既にいる。
俺はもう、引き返す事は絶対に無い。