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『──花咲病の影響で人口は減少の一途を辿る中、再び、痛ましい事件が起きました』
朝食を摂りながらテレビをつけるとラヴァーソウル関連のニュースが流れ始める。
『〇〇市の山奥で花咲病を発症した三十ニ名の遺体が発見されました。その周辺には同程度の数のラヴァーソウルの遺体もあり、十年前に起きた通称、彼岸事件を模倣したものと思われています』
朝から憂鬱になる話だ。
彼岸事件とは若い自殺志願者が人目のない場所でラヴァーソウルを集め、自殺するためにラヴァーソウルを滅茶苦茶にした事件だ。
黒く染まったラヴァーソウルの土壌にいくつもの人間が赤く咲いた様子が彼岸花に見えた事から、その名がつけられた。
それと同じものが、また起きたと。
続けてテレビを眺めると脂ぎったジジイと薄禿のジジイが画面に映る。
『だからね、僕は何度も言っとるわけだよ!命を賭けてでもラヴァーソウルを駆除するしかないと!ここで決断して痛みを伴ってでもやらなければ日本は終わりだ!』
『誰が手を挙げると言うんです』
『何のために国防に高い金を払っているというんだ!これはラヴァーソウルの立派な侵略行為だ、神風の精神を甦らせねばならん!』
『それで仮にラヴァーソウルを滅ぼせたとして、再び現れない保証はないでしょ。それよりもね、今回の問題は若者が日本の未来に希望を持てないから自殺なんて道を選んだわけで。才能も金もない若者が生きていてもいいと思える社会を作って、自暴自棄にならずラヴァーソウルなんて必要ない環境を作らないといけない』
『そんな悠長な事を言っている間にも、ラヴァーソウルに人間が殺されているんだぞ!』
そんな所で頭でっかちのジジイらが言い争っても乖離し閉じた世界で生きる若者には届かないだろう。
しかし、そんな事はどうでもいい。
皆、諦めているのだ。
テレビで叫ぶ彼らも代弁者となり視聴者の溜飲を下げ、変わらない日常に誘導するための雇われた役者に過ぎない。
私と同じ考えを持った誰かがやってくれる、だから不満を抱えていても何もせず決められたルーティンをこなすだけ、そういった思想が蔓延り、何も変わらない。
これが今の世の中の姿だ。
行き過ぎた多様性と個人主義によりもたらされた毒は人々に快楽を与え根元をじわじわと腐らせる。
誰も見ようとはしない、治療しようとはしない。
それにより発生する痛みに、安定した社会の揺籠に揺られ続け貧弱になった現代人には耐えられないから。
俺たちはもう、絶対的な滅びに向かい、どれだけ痛みを感じない馬鹿になれるかを求める事でしか救われないのだ。
そして、俺もまた変わらない日々を過ごすために職場に向かうのだった。