3
「黒崎、今日からお前に新人がつく事となった」
「……いきなりですか?」
朝一番、職場で高橋課長に告げられた一言。
彼女の隣には見慣れない顔が一つ。
この職場に似つかわしくない、派手な金髪のショートヘアをした若い女性。
まさか。
「人手不足なんだ、ベテラン二人で動いてもらう訳にはいかん。異論は認めん」
「せめて、事前に話してくれたら良かったのに」
「田中、退職じゃなくて殉職だからな。即戦力が必要だったんだ」
これはもう、俺が何を言ったところで覆る事はなさそうだ。
それならせめて、まともな新人であってくれと願うばかり。
「おい、松嶋。さっき話したが、コイツがお前の先輩だ。挨拶しろ」
「あたし、松嶋璃莉華っていいます!センパイ、これからよろしくお願いします!」
緊張を感じさせないハキハキとした挨拶に思わずたじろぐ。
俺はこの手の人間が苦手だ。
しかし、ここで極端な反応をしてしまえば裏目に出るのは経験済み。
社会人の面の皮を貼り付けよう。
「黒崎だ。よろしく頼む」
「わお!クール系っすね!」
「……あ、あの、課長」
「認めんぞ」
課長は俺の意見を受け入れる気はないらしい。
耐えろ。
この仕事を一度でも経験すれば、こんな軽薄な態度、すぐに消え去るだろう。
「今日も今日とて仕事は山積みだ。早速、始めてくれ」
「はい!行ってきます!」
ここは社会の落伍者か変わり者が集まる場所、彼女もすぐにここからいなくなるはずだ。
*
トラックに乗り込んだ俺たちは現在、街中を走っている。
松嶋は運転免許を持っていないようで、当分は俺が運転を担当する事になりそうだ。
「あの、今更なんですけど、研修とかやんなくて良かったんですかね?あたし、何もしてないんですけど」
「ああ。主な仕事はラヴァーソウルの遺体を運ぶだけだからな」
「それならいいっすけど」
「まぁ、強いて言えば運転免許を取ってくれると有り難いんだが」
何故か松嶋は嫌な顔をする。
「いやいやいや、運転なんて無理ですよ。こんな鉄の塊が何台も高速で行き来しているんですから、あたしには無理です。それにあたし、抜けてる部分があるんで絶対に人を轢いちゃいますもん」
「確かに、そんな感じはするな」
「ちょっとぉ、酷くないっすかぁ」
何故か松嶋は少し嬉しそうにニヤニヤする。
「それで、あたしの初仕事はどんなのなんですか?」
「それは」
唐突な質問に思わず俺は言葉に詰まってしまう。
その原因は課長から社用スマホのチャットツールに送信された一件目の仕事内容にある。
それは、ラヴァーソウルの損壊した遺体が放棄されている、といった内容だった。
別の職員に対応してもらうよう頼んだのだが、松嶋がこの仕事に向いているかを測るチャンスだと、これで駄目なら今後も駄目だと。
「どうしたんすか?」
「何でもない。一件目は商社ビルの裏路地に捨てられたラヴァーソウルの回収だ。記念するようなものでもない」
「へ〜。こんな田舎でそんな所に遺棄するなんて珍しいっすねぇ」
ラヴァーソウルは人が多い場所に集まる習性がある。
そのため、都会ではそこら中にラヴァーソウルがいる上、あちこちに花が咲いている光景が普通となっている。
しかし、ここは人口三万人ほどの中途半端な田舎だ。
基本、人々は閉鎖的な狭い街で白い目で見られないように山などの人気のない場所にラヴァーソウルを捨てるため、街中で損壊した遺体が見つかる事は少ない。
「……そういえば松嶋、お前、ラヴァーソウルの遺体を見た事はあるか」
「急にどうしたんすか。今の時代、見た事ない方が珍しいでしょ」
「それも、そうだな」
一抹の不安を抱えながらも、刻一刻と現場へ近づいていく。
何事もなければいいが。