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ミソギ

作者: 西木 草成

 仮に、Tさんとしておきましょうか。


 私、西木は大の刀好きでしてね。そういうコミュニティーに属しているわけですが、そこで仲良くなった刀の研師さんから聞いたお話を一つ語らせていただきましょう。


 その研師のTさん。自分より一回り年上の方なんですがね、先祖代々刀職関係のお仕事に付かれている方なんですが。あるとき、一振りの刀を預かったそうです。


 銘は勝光。刀を知っている人ならわからない人はいないというほど有名な刀で、それはまぁ、綺麗な刀だったそうです。もちろん刀を研いで欲しいと持ち込まれたTさん本人も『これは間違いなくいいものだ』と太鼓判を押すほど代物だったそうな。


 ですがね、その刀。ちょっと、いろんな話がある、


 いわゆる、曰く憑きってやつだったんですよ。


 まず、持ち込んだ本人。仮にKさんとしますが。Kさんも、その刀をめっぽう気に入って大事に手入れをして寝るときは枕元に置くほどだったそうです。


 ですが、いつも夜中の一時に起こされちゃう。


 原因は、何か金属がぶつかり合うようなガチャガチャといった音。


 普段は無視して寝るKさんもその日は特段酷かったものだったからふと、暗闇の中で枕を頭にしたまま横向いた瞬間、思わず声が出そうになった。


 誰もいない、


 いや。

 

 正確にはKさんしかいない寝室の枕元に、鎧具足を履いた武者が一人茫然と佇んでKさんを闇より深い黒い窪んだ目で見下ろしていたそうです。息を呑むとはまさにこのことを言うんでしょうね。とKさんはのちに語っていたとTさんは言っていました。


 そんなこんなで、その勝光を預かることになったTさん。Tさん曰く刀を研ぐと言うのは、刀を綺麗にすると言う意味合いもあるけど、同時に刀のもつ穢れや、恨み辛みを祓うみそぎの意味合いもあるそうなんです。


 さて、Tさんもまたそんな刀を持ち込まれたものだから困ったものだと思っていた時。ちょうど同じく刀職をされているTさんのお兄さんがその勝光を見てみたいと連絡を入れてきたわけですよ。そんなこんなで、刀を見せることになったTさん。一応Kさんの話をしていたそうですが、Tさんのお兄さんはどこかその話を半信半疑で聞いて刀を見て満足そうに帰って行ったそうです。


 ですが、その刀を見た日の帰り道。


 バイクで事故っちゃったんですよ、Tさんのお兄さん。怪我は骨折程度で命に別状はないものの、お兄さん曰く『誰もいなかったはずの交差点で誰かを轢きそうになった』と言っていたそうです。


 となってくるといよいよ、この勝光の刀。本当にやばいんじゃないかって、刀職関係の仲間に噂になって半分度胸試しにTさんのところ訪れるようになっちゃった。


 そして、その勝光を見たほとんどの人が、その日を境に変なものを見るようになったり、どこか怪我をしたりしていったそうな。


 いよいよ持ってまずいぞと思い始めたTさんは、その勝光を丁寧にそれは丁寧に、刀のもつ恨み辛みを祓うように砥石を当てて懸命に研いでいったそうです。その間、ほとんど外にも出なかったおかげか、Tさんに実害は全くといっていいほどなかったそうです。


 そして、刀の禊を終え研ぎ上がった日の朝。


 その持ち主というのが、そもそも県外の人間でして。Tさんはその県外の刀職仲間の仮にMさんとしておきますが、その方に勝光を預けて一仕事を終えたと、安心しながら日常に戻っていったそうです。


 ですが、その日の夜。


 MさんからTさんに連絡がありまして。その内容というのが、Mさんの工房が火事になったというものでした。


 そう、あの勝光と一緒に。


 焼け跡から、勝光らしき刀は見つからなかったという話でした。


 以上が、Tさんの語ってくれた刀の怪談でした。


 いやぁ、自分も刀を三振りほど持ってるんですが。確かに、刀って使ってこそですからね。そこにどんな想いが込められているかは分かりませんからね。それこそ、神のみぞ知るという話です。


 では、また。



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― 新着の感想 ―
∀・)ふうん。不思議なおはなしですね。興味深く読みました。 ∀・)多少の脚色が入っているのかな? ∀・)リアルなおはなしならばジャンルはエッセイでいいと思いますよ。 ∀・)そうでなくてもいいけど…
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