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恋愛相談 in ラジオ

作者: ひとり

   一週目


「だから駄目なんだって君は。年長者の話は素直に聞かないと」

「はは、分かりましたって。それでは次のお便りに参りましょうか」

「言っている側から話を逸らしているじゃん。そういう所は本当に逞しいよね」

「いや普通に時間が押しているのでね。ほら僕の立場上、コミさんだけじゃなくディレクターの話も聞かないといけないので」

「俺よりディレクターを取るんだ。へぇ、そうなんだ」

「そんな面倒臭い恋人みたいになっているコミさんには打って付けの内容ですよ。次のお便りは恋愛相談、ペンネーム:フライドチキンさんから」

「確かにお誂え向きだね。この愛の伝道師にお任せあれ」

「ええっと〝僕は最近学校で気になる女の子が出来ましたが、今まで殆ど話した事が無いので何とか接点を作りたいです。アドバイスをお願いします〟と」

「おお少年、良い青春を送っているねぇ」

「コミさんにもそんな時代あったんですか」

「そりゃああったよ、ありましたよ。当然でしょうに」

「いや生まれて直ぐその姿かと思っていました」

「おっさんやないかい! って言うかこれを産む母親がまずどうなっとんねん!」

「そしたらご自身の経験を踏まえてアドバイスを、愛の伝道師さん」

「馬鹿にしているでしょ君。ええっとね、接点が無いのなら自分で作れば良いんだよ。例えば面白いラジオ番組とか共通の話題を見付けるんだ」

「然りげに此の番組の宣伝……、いや何でも有りません。どうぞ続けて下さい」

「結局のところ学生の分際で高度な口説き文句とか難しい訳よ。不自然に話を合わせるみたいにするより、自分が無理なく出来る話題で勝負しないと」

「確かに。僕もコミさんと興味ない話題で喋り続けるの辛いですもん」

「こら、君は仕事なんだから頑張りなさい。まあ取り敢えず普段からその子と友達の話にでも聞き耳を立てておいて、自分でも知っている話題が出てきたら参加してみる事だね」

「そうやってコミさんも射止めたんですか、今の奥さんを」

「いや違う……って君知っていて態と言っているだろ!」

「あはは。そんな訳でフライドチキンさん、余り真に受けないで参考にしてみて下さい」

「君の成功を祈っているよ。俺みたいになるなよ」

「その言葉、今日一で心に響きましたよ」

「本当に嫌な奴だな君は!」


   二週目


「成る程ねぇ。ちょっと俺も忘れない内に実践してみようかな」

「はい、では次のお便りは恋愛相談です。ペンネーム:フライドチキンさんから」

「あれれ」

「どうしましたコミさん?」

「それって確か、先週も送ってきた人じゃなかったっけ」

「あ、覚えていましたね。どうかなと思って敢えて触れなかったんですけど」

「君そう言うの本当に良くないよ。まだまだ仕事に関する記憶力は健在だから」

「でも最近は共演者の顔とか覚え難いって言っていたじゃないですか。良いリハビリですよ」

「俺の事はもう良いから。で、お便りの中身は」

「〝アドバイスに従ったら意中の子と仲良くなれました〟と」

「俺、どんなアドバイスをしたんだっけ。っていうかどんな相談だっけ」

「やっぱり忘れているじゃないですか(笑)。好きな子とお近付きになりたいって相談が来て、それにコミさんが共通の話題を持ち掛けろって言ったやつですよ」

「ああ、ああ、そうだった、思い出した。上手くいったのなら良かったじゃん!」

「流石は恋愛マスターを自称するコミさんですね」

「絶対にそう思っていないよね君。あと恋愛マスターじゃなくて愛の伝道師だって言った事もちゃんと覚えているから」

「あはは。で、まだお便りには続きがありまして」

「何だよ。俺を揶揄う事に夢中になって仕事を疎かにしなさんな」

「はいはい。ええと〝でも急に親しくしたせいか、僕とその子が話しているとクラスメイトに揶揄われる様になりました〟ですって」

「ああ、分かるぅ。子供の時ってさ、何でか知らないけど恋愛とか恥ずかしがるんだよね」

「コミさん子供だった時期があるんですか」

「それ先週も言ったよな。もうリハビリは良いから!」

「へへ、でも恋愛が恥ずいのは僕も分かります。それで大人になってから苦労するやつ」

「だから少年も気にしない事だね。唯の思春期特有の僻みだから」

「確かに。今思うと子供って大人なら何とも思わない事を揶揄ったりしましたよね」

「代表的なのが恋愛絡みと、それから校舎内トイレだよな。汚いけど大きい方の」

「ああ、分かります。そんで自分が使う時だけはコソコソするやつね」

「って事で周りに構うなよ少年。寧ろこれを乗り越えれば愛が育まれるから!」

「流石は愛の伝道師。言う事が違います」


   三週目


「はい、次のお便りは恋愛相談です。ペンネーム:フライドチキンさんから」

「お、また来たね少年」

「今回はすんなり分かりましたね。記憶術の成果ですか」

「あ、その件はもう結構なので」

「はいはい。まず〝コミさんのアドバイスに従って周りの目を気にしない様にしました〟」

「どんなアドバイス送ったんだっけ」

「あ、その件はもう結構なので」

「君は自分には甘くて人に厳しいなぁ。そんでそんで?」

「〝そしたら今度はその好きな子本人にも嫌がられてしまいました。何でも恥ずかしいそうで、ここは一旦身を引くべきしょうか〟と」

「へぇ、男を見せたけど女の子の方が躊躇っちゃったのか」

「コミさんに感化されたんですね。良くも悪くも」

「いやね、やっぱりこう素直に応えてくれる子にはアドバイスする甲斐があるってもんだよね。割と居るじゃん、助言を求めている振りして自分語りしたいだけの奴」

「お陰で連続ドラマみたいな展開にもなってきましたしね。それで今回はどうします?」

「いや俺は寧ろグイグイ行くべきだと思うね」

「ほほう。それは何でまた」

「いやだってさ、わざわざ止めてって言うのは向こうも意識している証拠じゃん。嫌よ嫌よも好きの内ってね」

「コミさんセンス古! 大丈夫ですか、本当に現代の恋愛感覚にアップデート出来てます?」

「嬉しそうに人を馬鹿にするなぁ君は」

「いえいえ。それで具体的にはどうするんですか」

「そうだな。いっそクラスメイト全員が見ている前で告白とかってどうよ」

「いやぁ、それは余りに大胆過ぎません? それこそドラマじゃないんだから」

「でもさ、それでオーケーされたら公認カップルになる訳でしょ。その瞬間だけ耐えれば後は堂々とイチャイチャし放題になるんだから、俺は博打に出る価値があると思う」

「そんな事を言って、ぶっちゃけ早く進展が見たいコミさんの願望ですよね? 僕的にはもう少し慎重に行った方が良いと思いますけど」

「君の意見は聞いていないの。良いから当たって砕けろの精神だぞ少年、結果報告を楽しみにしているよ!」

「完全に煽ってますやん。どうなっても知りませんよ」


   四週目


「はい、次のお便りは恋愛相談です。ペンネーム:フライドチキンさんから」

「お、結果報告キタコレ?」

「いや、それなんですがね」

「何さ。その思わせ振りな感じ」

「ちょっと内容的には余り、まあ現実はそう甘くないって感じで、この和気藹々とした番組にはそぐわないかなぁ」

「でもまあ先週言っちゃったし、多分結果を待っているリスナーさんも少なからず居るからさ」

「分かりました。〝アドバイスに従って教室で告白したら大勢の前で泣かれてしまい、交際も断られました。それ以来、自分はクラスメイトから弄られ続けています〟」

「いや駄目だったかぁ、残念!」

「全くもう、コミさんのせいですよ」

「いや俺、割とマジで行けると思ったんだけどなぁ」

「今更の話なんですけど、そのコミさんの自信って一体何を根拠にしているんですか」

「君ねぇ、一々自信に根拠とか要らないの。肝心なのは気持ちの問題なんだから!」

「精神論じゃないですか。それで此のフライドチキンさんですけど、これから先はどうすれば良いんですかね」

「そこは自分で考えて頑張れ、少年!」

「え、ここで突き放すの酷くないですか(笑)」

「いやいや突き放してなんか居ないって。これで一つの恋が終わったんだから次行こ、次!」

「マジすかそれ」

「駄目だった事を下手に粘るより、割り切って新しい事に取り組んだ方が良いに決まっている。これは俺の経験則ね」

「学生さんの初な恋愛とコミさんの恋愛遍歴を一緒にしたら不味いでしょ」

「良いの良いの。俺だって色々な経験を積んで今があるし、これを糧にして頑張るのだ!」

「ええ〜。そんな適当に締めようとして無責任じゃないですか」

「いやまあ真面目な話をするとだな、そんな子供の頃の失敗なんて大人になってからの人生に大して影響しないのよ。その内に周りの連中も忘れていくから大丈夫」

「本当ですか? 子供時代の黒歴史って自分は割と残る方ですけど」

「良いから次行け次! もし新しい恋が始まったらまたアドバイスするからさ」

「いや僕ならコミさんは二度と頼らないですね。そう言う意味じゃ教訓になりましたけど」

「何でだよ、年上の話は聞くもんだって何時も言っているだろうに!」


   五週目


「はい、次のお便りは恋愛相談ですが……」

「どうしたの。そんなチワワみたいな目で俺を見て」

「いや本当に読むんですか。やっぱり僕は止めておいた方が良いと思うんですけど」

「ダメダメ、こう言うのは黙っていると付け上がって酷くなるから」

「はぁ。ではペンネーム:フライドチキンさんから」

「ん」

「〝僕が告白した子が登校拒否になってしまいました。そのせいで僕はクラス中から虐められ、先生とも面談する事になってしまいました〟。いやぁキツイっすよこれ」

「良いから続けて」

「……〝それもこれもアドバイスに従ったせいです。どう責任を取ってくれるんですか〟」

「これねぇ、いや俺も番組でこんな事は言いたくないんだけど」

「じゃあ言わなきゃ良いんじゃないですか(笑)」

「いや言う。これは他のリスナーさんにも聞いておいて貰いたいからね」

「はい。じゃあどうぞ」

「此処ってあくまで相談コーナーに過ぎないからね。俺はこうした方が良いって遠慮なく言うけど、絶対にこうしろと命令した覚えはない」

「本当ですかそれ。素直に従ってくれるのは嬉しいとか言って煽ってませんでした?」

「五月蝿いな。俺のアドバイスは一意見でしか無く、それを受け取るか否かは本人次第だよ」

「ええぇ、今更ぁ〜?」

「元より望む結果が得られないからって他人に責任を押し付けるの、俺はどうかと思うんだよ。だってさ、じゃあ逆に上手くいったからって俺に報酬が払われる訳でもないじゃん。そりゃあお金を貰ってアドバイスするなら相応の責任は生じるかも知れないけど」

「めっちゃ早口で喋りますやん。コミさん苛々していらっしゃる」

「正直ちょっとね」

「でもコミさんが原因の一つって点は間違っていないでしょ」

「いやいや、別に俺は自分の発言を取り消したりはしないよ。だからこそ今もこうやって律儀にお便りを読んでいる訳でね」

「そんな急に真面目振っても色々と遅いですよ」

「じゃあもう別に俺を恨むなとは言わないよ、嫌ってくれたって構わないさ。それでも少年は前を向いて生きるべきなんだ!」

「どうにか無理矢理にでも納得させようとしていますね」


   六週目


「はい、次のお便りは恋愛相談です。ペンネーム:赤面女子さんから」

「お、ようやく別の人に交代だ。最近ずっと同じ子だったからね」

「そりゃそうでしょ。先週あれだけ言われて普通にまた送ってきたら怖いですよ」

「やっぱり若者にはガツンと言わないと分からないよね。じゃあ気を取り直していこうか」

「はい。ええっと〝私は気になるクラスメイトから告白されたのですが、教室でしかも大勢の前だったので思わず泣いて断ってしまいました〟」

「ふむふむ、うん?」

「〝その時の事が恥ずかしくて学校も休んでしまったのですが、どうにかまた平気な顔で登校して、告白してくれた子と仲直りしたいと思っています。アドバイスを頂けませんか〟」

「ちょちょ、ちょっと待ってよ、これってもしかして」

「何ですかコミさん?」

「いや例の少年の相手じゃないの!? ほらドナルドダック、じゃなかったフライドチキン!」

「どうですかねぇ。確かに送られてきた内容的には一致しますけど」

「ええ、マジ、マジ!? 俺のアドバイス、めっちゃ当たっていたじゃん!」

「だから紹介したくなかったんですよ。絶対こうやって調子に乗るから」

「いやいや、ちょっと聞いているかい先週の少年、俺のアドバイスは間違っていなかったんだ。家宝は寝て待てって事だったんだよ!」

「聞いてくれていますかね。あんな風に叱られたら今後は関わらないと思いますよ」

「嘘だろ。あ、待って、そしたら今回お便りをくれた子に言って貰えば良い。たぶん文面からして先週までの事を知らなそうだけど、直ぐに学校へ行って仲直りして!」

「コミさんって本当にいい加減ですよね」

「だってさぁ、まさかこんな展開になるとは思わないじゃん。でも俺の手柄だろ?」

「それじゃあ何の話か分からないかも知れない赤面女子さんの為に、ここで先週まで投書してくれたフライドチキンさんの事を今一度……」

「あれ、ちょ何で電気が消えたの。え、何?」

「このタイミングでまさかの停電ですか。いやでも他の機材は動いているな」

「ん、今の何の音、何?」

「よく見えないな。ディレクターさ、えげぇ」

「ちょ、何、えっ、何が起きているの」

「……っ」

「お、お前、誰っ、何っ、け、警備員、警備……!」


   *


「次のニュースです。昨日、都内の学校に通う高校生の少年がラジオ局に侵入し、番組収録を行なっていたタレントの古見仁さんと綾辻登さんを殺害、また居合わせたディレクターの男性を含め計5人のスタッフに重軽傷を負わせた事件の続報です。容疑者の少年は警察の事情聴取に対し〝人生を無茶苦茶にされたので、後始末を付けようと思った〟と供述しており、これについて古見さんの所属事務所は――」

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