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ワンルーム

作者: 緑川 雨
掲載日:2022/05/22


 その部屋は、私たちにとって狭すぎたし、広すぎたんだ。




 彼とは高校時代の同級生でそこそこ仲のいい友達だった。


 東京に上京してきたというから連絡を取り合って、いつしか、たった0.2秒の振動を待つようになっていた。


 会う約束をした。


 新宿にある小洒落たバーの店で。


 木目のバーカウンターは、私の心とは裏腹にささくれ一つなくて羨ましかった。


 彼はウイスキーのロック。私は店長おすすめのカクテルを。


 私たちも、もう大人。それはわかっていた。


 彼は、飲みすぎた私を連れて自分の家に向かった。


 そこで彼は私にキスをした。


 初めてした時より、温かくて幸せを感じた。私にはそれだけで充分だったのかも・・・。


 天井のシミを数える間に、終わるってよく言うでしょ。


 そんなの嘘よ。


 私はあるはずもないシミを必死に数えてた。


 朝。目が覚めたら、彼はベランダで煙草をふかしてた。


 Seven Stars


 椎名林檎の「罪と罰」に影響されたんだって。


「煙草吸ってると、健康に悪いんだよ」


「煙草を吸うのは、ため息を吐くことを誤魔化せるからなんだよ」


 一本差しだして、


「吸ってみる?」


「うん」


 生ぬるい煙が私の肺を満たして、


「なんか、変な感じ」


 吐いた煙は、雲一つない空に雲を作った。




 私はいつしかこのワンルームで暮らすようになった。


 告白とかそういうのは全くないけど。




 朝起きて、支度をして、この部屋から会社に向かう。


「いってきまーす」


「いってらっしゃい」


 それから彼も仕事に向かう。




 なにもかも優しかった。


 なにもかも許してくれた。


 なにもかも温かかった。


 こんな部屋に、彼に甘えていた。




 そんな生活を一年と半年。




「私ね、好きな人が出来たの」


「よかったね」


「だから、この部屋からも出ていくね」


「・・・・・・」


 彼はそっとベランダに出て、煙草をふかした。




 私こんな生活ではダメだって気付いたの。


 だから、最後に嘘をついて出ていく私を許してね。


 最後のわがままだから




「鍵は返すね」


「・・・・・・」


「お互い、幸せになろうね」


「・・・・・・」


「じゃあ、また・・・」


 彼は何も言わず、私を送り出してくれた。


 声をかけられるのをほんの少し待っている私に気付いて。


 最後まで優しくてありがとう。




 なによりも温かくて、


 なによりも許してくれて、


 なによりも優しかった、


 この部屋に、彼に甘えていた私に、




 さよなら。




 (終)


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