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 月の花 ボヤージュ201  作者: 柩星ウサギ
9/9

 第八話 気になる女子を夏祭りに誘おう! 命名:網野


 東北地方、宮城県かささぎ市は都会要素が強めの田舎のような場所で、東京で例えるならば町田らしい。ちなみにこれは東京からの転校生による評価だ。大きめの商業施設やホテル、繁華街は常に賑わいを見せていて、おかげで街の市の治安は日本でもトップクラスに良い。あるデータでは家庭内暴力発生率がなんと十年連続でゼロだったこともあるし、夜間も常に昼間のように強い灯りがある闇のない都市と言われ、海外からの注目も高い。


 そんな我が地元の一大イベントは夏の七夕祭り『かささぎ渡り祝夏祭(しゅうかさい)』だ。

 JRかささぎ駅の裏手にある渡星山(わたりぼしやま)の麓から始まるかささぎ星神社の長い参道すべてが出店で賑わい、二本松や秋田の提灯に引けを取らないほどの煌めく提灯で夜を彩り、今年も夏を迎えられたことを夜空の星々と地球に感謝し、織姫と彦星の幸福を祈るというお祭りだ。

 さすがは闇のない都市を代表する祭りなだけあって、この祭りの時は日本でかささぎ市が最も明るい夜となる。かつてTVの特集で上空から祝夏祭が中継されたことがあるのだが京都の送り火が都市規模になったという感じで、都市そのものが火になったようだった。俺は生まれた日がちょうど七夕なので誕生日祝いがてら毎年この祭りに参加している。


 ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


 「私も言村くんと一緒に七夕の日に出かけないか、と?」


 「ん。もちろん無理強いはしない。予定が合って灰宮がいいと思うんならってことだ。いやほら、女の子だから男におでかけの誘いとかされたら怖いだろうし?特に俺はこんなんだし」


 網野に提案されてからすぐの月曜日の放課後、俺はいつものように第二美術室に来て、灰宮に週末の七夕祭りへのお誘いをしていた。

 こういうのは相手の予定のことも考えて早めにした方がいい。誘った側の俺は内心でめちゃくちゃに緊張していた。

 俺は187センチという高身長、そしてこの刀のような目つきのせいでただ歩いてるだけでも男女問わず俺を見かけると怯まれてしまう。

 怯まれるだけならばまだマシで中には俺を見かけただけで失神してしまう人もいたほどだ。一体俺が何をした。


 そんな外見の話だけでなく、今回の誘いは女の子一人に男の子が二人という男子側の品性が問われるような内容だ。


 普通に考えていくら好意的に見ている相手だとしても体格と筋力で勝る男子から夜間にかけての外出の誘いならば警戒して当然だ。俺は誓って自分からは女性に無体を働かないし、そういうことをするにしても相手の同意はちゃんと取るべきだと思うから。網野もそういうのに嫌悪感を抱くタイプなので一応は安心して欲しいのだが、それを決めるのは他ならぬ灰宮だ。


 「うーん」


 ‥‥灰宮は少し考え込んでいる。でもそこに俺達との外出への懸念のような色は見られなくて、どちらかというと予定が合うかどうかを考えているような感じだ。

 やがて口元を隠すようにしていた指を下ろすと彼女は答えた。

 「私でよければ喜んで。一緒に行きたいです。ーーーお祭りは行ったことがなくて、誰かと一緒に行くのもはじめてです」


 春の花の蕾のようにはにかみながら彼女は俺の誘いに肯定を返した。彼女から少なくとも信頼してもらえたということだろうか。


 「!そうか。急な誘いだったのに乗ってくれてありがとうな。あ、集合の時間帯はどうする?安全とかそういうのも考慮して日が落ち切らない時間がいいと思うんだけど‥‥」

 

 「心配しいさんなんですねぇ。でも、そういうところは美点ですよ。ーーーそうですねぇ、私はその日特に用事もないし、天気予報ではその日はあんまり暑くなくて日も長いそうですから夕方の5時半ぐらいならばまだ明るくて暑さもほとんどないでしょうから、そのくらいが良いのでは?」


 5時半か、確かにその時間帯ならばまだまだ日も高いし人通りも多すぎず少なすぎず。逆にそれより早かったりしたら熱中症の問題が出てくるし、遅かったら祭りに向かう人でごった返してお互い見つけられなくなる上に暗くなってくるせいで女の子にとっては治安の問題になってくる。5時半ならばどちらもあんまり懸念する心配はなくなってくるから中々に良い時間帯だと思う。


 「決まりですね。では、今週末の5時半にかささぎ星神社の参道入口近くで集合、ということですね」


 「ん。それなら心配の種のほとんどもあんまり気にしなくていい時間帯だろうし」


 「ふふふ。誰かと夏祭りに行くだなんて、まだ知らない楽しそうなことで胸一杯になってきます」


 「俺も。家族や網野以外、しかも女の子と出かけるだなんてのははじめてだから嬉しさと緊張で身一杯だ」


 灰宮が胸の中一杯に俺達と行く七夕祭りを楽しみにしてくれているように、俺は嬉しさと緊張で187センチの身体が満たされてしまっている。


 そうして約束を取り付けた後、まだまだ日のある時間帯に俺と灰宮は学校を出て家路に着いた。他愛ないことを話しながら。

 三駅先の街に用事がある俺は灰宮とJRかささぎ駅で別れて、電車に乗った。


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