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 月の花 ボヤージュ201  作者: 柩星ウサギ
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 第六話 言村静月の自己紹介あるいはもう一つのプロローグ


 唐突だが、俺の話をさせて欲しい。

 俺の名前は(こと)(むら)静月(しづき)

 宮城県立かささぎ第一中学に通う三年生。十五歳。

 誕生日は7月7日。七夕(たなばた)。七夕生まれの子供がかささぎの名前を持つ中学に通うだなんてある種の運命を感じてならない。

 部活動はサッカー部とバレー部に最後まで熱烈勧誘され最終的に大岡裁きでも裁ききれずに最終的にどちらの部活でも試合に駆り出されるだけの放置される助っ人みたいなポジションに収まった。

 勉強面に置いては得意科目は数学、世界史、物理、化学。

 苦手科目は美術と書道。通知表は常に3と4のみで構成された普通の成績。これが一番快適だと思う。


 家族構成は父子家庭。父は考古学者で世界中を飛び回るほど忙しくしているが別に寂しいとか思ったことは一度もない。よく父の仕事で海外に一緒に連れて行って貰ったのはいい思い出だ。俺の人格の形成のほとんどは父さんと父さんの周りの影響を受けている。


 母に関しては全く記憶がない。父さん曰く「フレデリック大王的な人」らしい。好奇心旺盛な人だったんだろうな。生きてるのかも分からないけど。

 ちなみに父さん周りの人たちからの評価は「自分自身をも研究に使いきることに躊躇いのない今や現代倫理に呑まれて消えていってしまった科学者のあるべき姿を持つ人」とのことだ。ますます分からない。

 母の記憶がないのも当然、母は俺の首が座ると同時に俺の面倒を見てくれる人、つまりは世話役を見繕ってすぐに飛び出していったという。俺がこの事を知ったのは小学生の時、お母さんは何してるの?という母親のいない家庭への配慮に欠けた家族のステレオ的価値観に支配されきった教師からの質問がきっかけだ。俺は「お母さんは仕事で忙しくて昔から家にいません」と答えた。先生も周りも今どき珍しいことじゃないからか「そうなんだ」とだけ反応した。

 別にこの質問がきっかけで俺の中のなにかや周りが劇的に変わったわけじゃない。現実はいつだってどんな大事件も微々たることとして受容するのだから。


 まぁ別に俺の父親が考古学者だからだとか母親がなんだかエキセントリックなサイエンティストの気配がする人だからといって俺自身にはなんの影響もない。俺は生物学的にオスとメスが交尾をした結果、卵子が受精して着床して胚になって勝手に母親の子宮内で母の摂取した栄養を横領して母胎外でも生きていけるまで勝手に大きくなって生まれた。いや正しくは生まれさせられた、か。俺は別に生まれたいと願ったわけじゃないし胎内記憶とかないからたぶんそんなこと考える為の自分の意思も無かった。まぁ総じて人間のみならず生物のほとんどはこの世に生まれたいのかどうかという意思を無視されて生まれさせられるのだから。たぶん生まれる前の胎児に意思確認できるような技術や魔法があるならばだいぶ違うんだろうけど。


 さて、なんでこんな自己紹介と身の上話的な話を長々としたかというと、ここからが俺自身の話に、つまりは俺の物語として明確に形になってくるからだ。

 正直、これから話すことになるお話はとんでもなく荒唐無稽で信じられないくらい現実的じゃない話だ。でもそれでも俺の身に確かに起きた出来事なのだ。


 あの日の帰り道、魔女に忠告を受けた俺が選んだ答えによって俺の身に降りかかったこのとんでもない災いは結果的に転じて俺にとって福となった。

 あまり口が上手い方ではないので上手く言えないが、俺が俺のことを話すのは、よくある自分が体験した出来事を誰かに話してみる的なサムシングだ。皆にも覚えがあると思う。決して罪悪感的なものから楽になろうとかそういうのではないし、武勇伝的に自慢するわけでもない。ただ、俺という人間が経験したこの出来事を通して俺が何を感じ、考え、選び、行動して、その果てに何を得たのかということをつらつらと話したいというだけだ。聞き流してもらって全然構わないので、どうか最後までお付き合いいただきたい。


 では、語ろうか。世にも美しすぎて愛されることにトラウマを抱える特別が苦手なお姫様とそんな彼女に生まれてはじめて心が燃えるほどの強い想いを覚えた、何事にも感情が動きにくい特別を作らない錆びついた感情の少年が特別を見つけるお話を。


 さぁ、夜空の向こうまで橋をかけてみよう。


 

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