第99話 「湿気(しけ)った土は、最高だろう?」
一年近く小説を執筆し続けてきたけど、
展開が斬新すぎたのか、或いは、設定が難解すぎるのか、
思ったよりも評価が芳しくないまま、
物語は終盤に進もうとしています。
次回作の構想とか、どうしようかな・・・。
【幽者】ユゲタイは、【尾張の土師真理】と対峙していた。
ガシャン。ガシャン。
この土人形というよりは、寧ろ、【鋼鉄の集合体】とでも呼ぶべき何かは、【幽者】ユゲタイの方へとにじり寄ってくる。
この【鋼鉄の集合体】は、薄らと緑色の魔力色を帯びていた。恐らく、土師青年の魔力色が緑色なのだろう。
【幽者】ユゲタイは、【尾張の土師真理】に【祟りの凶杖】を向ける。
「【誘導放出光の増幅】!」
「Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation」のの頭文字をとって、「Laser」。和訳すると、「誘導放出光の増幅」。
【祟りの凶杖】から出た、クラス4の青いレーザー光が、魔鉄製土人形の脚と太さが同じ脇腹を狙い、その上半身と下半身を分断しようと放たれる。
「はじき返せ!」
土人形の表面の魔鉄が、ミスリルの膜で覆われ、クラス4の青いレーザー光は、反射される。クラス4なので、当たれば、反射光でも失明するだろうが、【幽者】ユゲタイは、悠々と足捌きでこれを躱してみせる。
「おお、危ねぇ、危ねぇ。なら、これはどうかな。」
【幽者】ユゲタイは、漆黒の弩、【痛矢串】を取り出して矢を番え、土人形に向けて放つ。
「無駄だァ。【尾張の土師真理】は、魔鉄製だ。弩で、放った矢如きが貫通することはない!」
「そんな事は承知している。だが、狙いはそこではない。」
【痛矢串】から放たれた矢には、引火性の液体と、火属性の青白い魔力が付与されていた。
蒼炎が【尾張の土師真理】を焼き尽くさんと、その全身を覆うが、緑色の魔力色が、更にその表面の青白い魔力を覆う。魔力版「窒息消火」といったところだろうか?
「チッ。その土人形は不燃性だったか……。」
「何を驚くことがある?僕は土師氏の出身だぞ?土を掛けて火を消すのは、自明だろう?」
ガシャン。ガシャン。
にじり寄ってくる【尾張の土師真理】。
だが、その足音を聞いた【幽者】ユゲタイは、ニヤリと嗤って、再び【祟りの凶杖】を構えた。
「【一酸化二水素】!」
前進してくる土人形の足下を狙っての放水。その行動は、土師青年には予想外だった。
「どこを狙っているんだ?仮にも弓作りの職人が狙いを外すのか?自分の名前に泥を塗るとはね。恥を知れ!」
「わざと外したのが分からないのかね?おっと、そろそろだな。」
その時、闘技場は、泥沼と化した。
土人形は自重で、泥の中へと沈んでゆく。
「くっ、これが狙いか。」
「そう。泥を塗られたのは、君の土人形だよ。君こそ恥を、いや、土師を知れ!」
「誰が上手いことを言えと……。」
「湿気った土は、最高だろう?ゑ?土師君よォ!だが、これで終わりじゃないぜ。【極低温の瘴気】!」
急冷された泥が固まり、土人形は、下半身が泥の中に沈み、上半身のみが地上に出た状態で、動きを拘束される。
「卑怯だぞ。正面から正々堂々と勝負しろ!」
【幽者】ユゲタイは、激昂する土師青年など、歯牙にもかけず、嘲笑いながら、土人形に【祟りの凶杖】を向けた。
「トドメだ。【高圧電流印加】!」
「雷属性の奥義か!極低温下での超伝導状態を狙ったのだろうが、残念だったな。僕の土人形は、絶縁体でね。」
ドヤ顔で、余裕を見せる土師青年に対して、【幽者】ユゲタイは、哄笑する。
「『雨垂れ石を穿つ』って言葉は、勿論知っているよな?」
「一滴一滴の雨の力は小さいが、それが積み重なれば、やがて、石を削って、穴を穿つように、小さなことでも、根気よく続けていれば、いつか成果が得られる、って意味だろ?それがどうした?」
「同様に、譬え、絶縁体であっても、印加する電圧を上げていけば、やがて電流が流れる。そう、【絶縁破壊】が起こるのさ!」
「【絶縁破壊】を発生させる程の放電には、譬え、【病みエルフ】であっても、膨大な魔力が必要な筈だ。」
「では、若し、俺が【蝙蝠山卿】に、事前に魔剣【ガルバノス】を【使用許諾】して貰っていたとしたら?」
「魔剣【ガルバノス】の技能による【絶縁破壊】か……。だが、君は、魔剣【ガルバノス】を持っていないじゃないか。」
「俺は、互いの皮膚に【刻印術】で術式を刻み込んで、十年前の【血の契約】を上書きして、この【アンダの誓い】へと昇華させた。」
【アンダの誓い】として、【刻印術】で刻み込まれた術式。そこから、【蝙蝠山卿】の魔力が伝播し、相乗効果によって、印加する電圧が上昇してゆく。
「【絶縁破壊】!!」
印加された高圧電流によって、ここに【尾張の土師真理】は倒された。
「【尾張の土師真理】撃破!」
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一方、その頃。
ネメシス・ダムドは、大皇との謁見を終えて、登戸研究所の方へと向かっていた。
【無機知性体】の楯椅子鉋と闘った模擬戦も、消化不良だったので、謁見時に、常井氏から、強いと聞いていた、彼の双子の兄である、大臣と大連に駄目元で模擬戦を申し込んだのだが、案の定、執務中だからという理由で、断られてしまった。
とはいえ、模擬戦を断ったお詫び代わりに、魔導科学博物館の入場券を貰ったのだが……。
すると突然、登戸研究所の方へと向かうネメシス・ダムドの前に、次元の裂け目が生じ、次元の狭間から機影が現れ、彼の前に立ちはだかった。
「コノ前ハ、ヨクモヤッテクレタナ。」
蜘蛛の如く、複数の単眼が光る頭部の先端は、戦闘機の機首の様に、尖った嘴。胴体は、戦車や重機の様に、キャタピラ。
頭と胴体を繋ぐ、百足みたいな数珠繋ぎの節から、蜘蛛や百足の脚の如く生えた、機械仕掛けの義手は、様々な武器を持っていた。
「誰だ?以前どこかで会ったか?」
「我ガ名ハ、QWERTY。楯椅子鉋ハ、我ガ人造人間。モウ忘レタトデモ言ウノカ?」
「適当に超音波をぶっ放していたら、勝手に溶けて退場した奴か。あれは消化不良だったからな。再試合の申し込みなら、歓迎するぞ?」
「デハ、オ手合ワセ願オウカ。」
「まずは、小手調べといこうか。【玉響】ッ!」
「我々ハ学習スルノダ。音ハ空気ヲ媒質トシテ伝播スル。ソノ対策ハコウスレバイイ。【真空領域】!」
「ああ。自分の周囲を真空にしたのか。では、雷属性の奥義を使おうか。喰らえ、【高圧電流印加】ッ!」
「無駄ダ。私ノ機体ハ、絶縁体デ出来テイル。」
「【無機知性体】は、『雨垂れ石を穿つ』という言葉を知っているか?努力教徒共が好んで使いそうな言葉だが、この技能も同様でな。印加する電圧を上げていけば、譬え、絶縁体であっても、やがて電流が流れるってわけだ。【絶縁破壊】!」
「ダガ、【絶縁破壊】ヲ発生サセル程ノ放電ニハ、膨大ナ魔力ガ必要ナ筈ダ……。譬エ、【マンティコアノイド】と雖モ、ソウ簡単ニハ……。」
「だから、こうするのだよ。【二重魔軸】ッ!」
紫と黄色の魔力色をした炎が、まるで床屋のサインポールの如く、ネメシス・ダムドの周囲を、二重螺旋を描きながら上昇していく。
「何ィッ?!【二重魔軸】ダトォ?!」
ドンガラガッシャン。QWERTYは倒れた。
「【パウリ効果】を使わずとも、音属性の技能で共振現象を発生させる以外にも、高圧電流を印加して、絶縁破壊を起こしても、【無機知性体】は破壊できるようだな。」
強い。強過ぎる。しかし、これでも理不尽な暴力ではない。何故なら、音属性の技能で共振現象を発生させるにしても、高圧電流を印加して、絶縁破壊を起こすにしても、原理というものが存在するからだ。
【パウリ効果】は、形而上学―metaphysics―的な、いわば、物理学―physics―よりも、高次の―meta―力。
即ち、【パウリ効果】は、【理外の術】なのだ。
造物主が、【無機知性体】が暴走した際の抑止力として、【パウリ効果】を設定したとか、していないとか。
我々、神代ならざる者には、知る由もなく、ただ、推し量るのみである。
次回は、本章のまとめを予定。




