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別次元の領域(2021年版)  作者: 草茅危言
第玖章 無機知性体編
99/120

第99話 「湿気(しけ)った土は、最高だろう?」

一年近く小説を執筆し続けてきたけど、

展開が斬新すぎたのか、或いは、設定が難解すぎるのか、

思ったよりも評価が芳しくないまま、

物語は終盤に進もうとしています。


次回作の構想とか、どうしようかな・・・。

 【幽者】ユゲタイは、【尾張(おわり)土師(はじ)真理(まり)】と対峙していた。


 ガシャン。ガシャン。


 この土人形(ゴーレム)というよりは、(むし)ろ、【鋼鉄の集合体】とでも呼ぶべき何かは、【幽者】ユゲタイの方へとにじり寄ってくる。


 この【鋼鉄の集合体】は、薄らと緑色の魔力色(オーラ)を帯びていた。恐らく、土師(はじ)青年の魔力色(オーラ)が緑色なのだろう。


 【幽者】ユゲタイは、【尾張(おわり)土師(はじ)真理(まり)】に【祟りの凶杖】を向ける。


「【誘導放出光の増幅】!」


「Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation」のの頭文字をとって、「Laser(レーザー)」。和訳すると、「誘導放出光の増幅」。


 【祟りの凶杖】から出た、クラス4の青いレーザー光が、魔鉄(アダマンタイト)土人形(ゴーレム)の脚と太さが同じ脇腹を狙い、その上半身と下半身を分断しようと放たれる。


「はじき返せ!」


 土人形(ゴーレム)の表面の魔鉄(アダマンタイト)が、ミスリルの膜で覆われ、クラス4の青いレーザー光は、反射される。クラス4なので、当たれば、反射光でも失明するだろうが、【幽者】ユゲタイは、悠々と足捌きでこれを(かわ)してみせる。


「おお、危ねぇ、危ねぇ。なら、これはどうかな。」


 【幽者】ユゲタイは、漆黒の(クロスボウ)、【痛矢串】を取り出して矢を(つが)え、土人形(ゴーレム)に向けて放つ。


「無駄だァ。【尾張(おわり)土師(はじ)真理(まり)】は、魔鉄(アダマンタイト)製だ。(クロスボウ)で、放った矢如きが貫通することはない!」


「そんな事は承知している。だが、狙いはそこではない。」


 【痛矢串】から放たれた矢には、引火性の液体と、火属性の青白い魔力が付与されていた。


 蒼炎が【尾張(おわり)土師(はじ)真理(まり)】を焼き尽くさんと、その全身を覆うが、緑色の魔力色(オーラ)が、更にその表面の青白い魔力を覆う。魔力版「窒息消火」といったところだろうか?


「チッ。その土人形(ゴーレム)は不燃性だったか……。」


「何を驚くことがある?僕は土師(はじ)氏の出身だぞ?土を掛けて火を消すのは、自明だろう?」


 ガシャン。ガシャン。


 にじり寄ってくる【尾張(おわり)土師(はじ)真理(まり)】。


 だが、その足音を聞いた【幽者】ユゲタイは、ニヤリと(わら)って、再び【祟りの凶杖】を構えた。


「【一酸化二水素ジヒドロゲンモノオキシド】!」


 前進してくる土人形(ゴーレム)の足下を狙っての放水。その行動は、土師(はじ)青年には予想外だった。


「どこを狙っているんだ?仮にも弓作りの職人が狙いを外すのか?自分の名前に泥を塗るとはね。恥を知れ!」


「わざと外したのが分からないのかね?おっと、そろそろだな。」


 その時、闘技場は、泥沼と化した。


 土人形(ゴーレム)自重(じじゅう)で、泥の中へと沈んでゆく。


「くっ、これが狙いか。」


「そう。泥を塗られたのは、君の土人形(ゴーレム)だよ。君こそ恥を、いや、土師(はじ)を知れ!」


「誰が上手いことを言えと……。」


湿気(しけ)った土は、最高だろう?ゑ?土師(はじ)君よォ!だが、これで終わりじゃないぜ。【極低温の瘴気(クライオ)】!」


 急冷された泥が固まり、土人形(ゴーレム)は、下半身が泥の中に沈み、上半身のみが地上に出た状態で、動きを拘束される。


「卑怯だぞ。正面から正々堂々と勝負しろ!」


 【幽者】ユゲタイは、激昂する土師(はじ)青年など、歯牙にもかけず、嘲笑いながら、土人形(ゴーレム)に【祟りの凶杖】を向けた。


「トドメだ。【高圧電流印加(ガルバノ)】!」


(いかずち)属性の奥義か!極低温下での超伝導状態を狙ったのだろうが、残念だったな。僕の土人形(ゴーレム)は、絶縁体でね。」


 ドヤ顔で、余裕を見せる土師(はじ)青年に対して、【幽者】ユゲタイは、哄笑する。


「『雨垂れ石を穿(うが)つ』って言葉は、勿論知っているよな?」


「一滴一滴の雨の力は小さいが、それが積み重なれば、やがて、石を削って、穴を穿(うが)つように、小さなことでも、根気よく続けていれば、いつか成果が得られる、って意味だろ?それがどうした?」


「同様に、(たと)え、絶縁体であっても、印加する電圧を上げていけば、やがて電流が流れる。そう、【絶縁破壊】が起こるのさ!」


「【絶縁破壊】を発生させる程の放電には、(たと)え、【病みエルフ】であっても、膨大な魔力が必要な(はず)だ。」


「では、()し、俺が【蝙蝠山卿】に、事前に魔剣【ガルバノス】を【使用許諾(アンロック)】して貰っていたとしたら?」


「魔剣【ガルバノス】の技能(スキル)による【絶縁破壊】か……。だが、君は、魔剣【ガルバノス】を持っていないじゃないか。」


「俺は、互いの皮膚に【刻印術】で術式を刻み込んで、十年前の【血の契約】を上書きして、この【アンダの誓い】へと昇華させた。」


 【アンダの誓い】として、【刻印術】で刻み込まれた術式。そこから、【蝙蝠山卿】の魔力が伝播し、相乗効果によって、印加する電圧が上昇してゆく。


「【絶縁破壊】!!」


 印加された高圧電流によって、ここに【尾張(おわり)土師(はじ)真理(まり)】は倒された。


「【尾張(おわり)土師(はじ)真理(まり)】撃破!」


――――――――――――――――――――――――――――――


 一方、その頃。


 ネメシス・ダムドは、大皇(おおきみ)との謁見を終えて、登戸研究所の方へと向かっていた。


 【無機知性体】の楯椅子鉋(たていすかんな)と闘った模擬戦も、消化不良だったので、謁見時に、常井氏から、強いと聞いていた、彼の双子の兄である、大臣(おおおみ)大連(おおむらじ)に駄目元で模擬戦を申し込んだのだが、案の定、執務中だからという理由で、断られてしまった。


 とはいえ、模擬戦を断ったお詫び代わりに、魔導科学博物館の入場券を貰ったのだが……。


 すると突然、登戸研究所の方へと向かうネメシス・ダムドの前に、次元の裂け目が生じ、次元の狭間から機影が現れ、彼の前に立ちはだかった。


「コノ前ハ、ヨクモヤッテクレタナ。」


 蜘蛛の如く、複数の単眼が光る頭部の先端は、戦闘機の機首(コクピット)の様に、尖った嘴。胴体は、戦車や重機の様に、キャタピラ。


 頭と胴体を繋ぐ、百足(ムカデ)みたいな数珠繋ぎの節から、蜘蛛や百足(ムカデ)の脚の如く生えた、機械仕掛けの義手は、様々な武器を持っていた。


「誰だ?以前どこかで会ったか?」


「我ガ名ハ、QWERTY(クォーティ)楯椅子鉋(たていすかんな)ハ、我ガ人造人間(ホムンクルス)。モウ忘レタトデモ言ウノカ?」


「適当に超音波をぶっ放していたら、勝手に溶けて退場した奴か。あれは消化不良だったからな。再試合(リターンマッチ)の申し込みなら、歓迎するぞ?」


「デハ、オ手合ワセ願オウカ。」


「まずは、小手調べといこうか。【玉響(たまゆら)】ッ!」


「我々ハ学習スルノダ。音ハ空気ヲ媒質トシテ伝播スル。ソノ対策ハコウスレバイイ。【真空領域】!」


「ああ。自分の周囲を真空にしたのか。では、(いかずち)属性の奥義を使おうか。喰らえ、【高圧電流印加(ガルバノ)】ッ!」


「無駄ダ。私ノ機体ハ、絶縁体デ出来テイル。」


「【無機知性体】は、『雨垂れ石を穿(うが)つ』という言葉を知っているか?努力教徒共が好んで使いそうな言葉だが、この技能(スキル)も同様でな。印加する電圧を上げていけば、(たと)え、絶縁体であっても、やがて電流が流れるってわけだ。【絶縁破壊】!」


「ダガ、【絶縁破壊】ヲ発生サセル程ノ放電ニハ、膨大ナ魔力ガ必要ナ(ハズ)ダ……。(タト)エ、【マンティコアノイド】と(イエド)モ、ソウ簡単ニハ……。」


「だから、こうするのだよ。【二重魔軸】ッ!」


 紫と黄色の魔力色をした炎が、まるで床屋のサインポールの如く、ネメシス・ダムドの周囲を、二重螺旋を描きながら上昇していく。


「何ィッ?!【二重魔軸】ダトォ?!」


 ドンガラガッシャン。QWERTY(クォーティ)は倒れた。


「【パウリ効果】を使わずとも、音属性の技能(スキル)で共振現象を発生させる以外にも、高圧電流を印加して、絶縁破壊を起こしても、【無機知性体】は破壊できるようだな。」


 強い。強過ぎる。しかし、これでも理不尽な暴力ではない。何故なら、音属性の技能(スキル)で共振現象を発生させるにしても、高圧電流を印加して、絶縁破壊を起こすにしても、原理というものが存在するからだ。


 【パウリ効果】は、形而上学―meta(メタ)physics(フィズィックス)―的な、いわば、物理学―physics(フィズィックス)―よりも、高次の―meta(メタ)―力。


 即ち、【パウリ効果】は、【理外の術】なのだ。


 造物主が、【無機知性体】が暴走した際の抑止力として、【パウリ効果】を設定したとか、していないとか。


 我々、神代(かみよ)ならざる者には、知る由もなく、ただ、推し量るのみである。

次回は、本章のまとめを予定。

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