第98話 捌元龍(オクタニオン)
カクヨムで掲載してから、小説家になろうでの
アクセス解析が増えているのは、
あちらのサイトで読まずに、こちらで読んでいるからかな?
理由として考えられるのは、こちらには、
前書き・後書きの存在があるから?
分かりませんが、先方での掲載が追いついて以降は、同時進行予定。
相変わらず、話数と更新日は、下一桁を合わせています。
一方、その頃、郡山青年は、【肆元狼】と対峙していた。
ネメシス・ダムドを憑依させず、弓削青年とも組まずに、単独で闘うのは久しぶりだからなのか、何故か、不安だった。
相手の姿も関係しているのかも知れない。過去の心理的外傷が疼く。
―――小学生の頃、目の前で同級生が噛まれたのを見た。
―――大型犬に吠えられ、追い掛けられた恐怖。
―――狂犬病の犬に噛まれた人が死んだという、テレビのニュース。
黒、青、白、赤の4つの頭が、こちらを睥睨する。
テオブロミンを経口投与して、1つの頭を斃したとしても、残りの3つの頭には、殆ど影響がないだろう。況してや、【ジェヴォーダンの獣】と対決した際は、テオブロミンを経口投与しても、殆ど効果が無かった。
相手は【無機知性体】だという。だとしたら、【パウリ効果】は、効果があるかも知れない。問題は、どれだけ効果があるのか。1つの頭を斃せる程度なのか。
しかし、【パウリ効果】という技能が発現したことで狙われているという。使わずに斃せるのであれば、その方が良いだろう。
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弓削青年と土師青年は、応接間で雑談していた。
土師青年が、自作の土人形を召喚するには、この応接間は狭過ぎる。そこで、闘技場に土人形を召喚しようと思ったのだが、現在は先客が闘技場を使用しているため、こうして、情報交換として、雑談をしていた。
「じゃあ、今は郡山君が闘技場を使っているんだね?」
「君は彼と面識がないだろう?」
「郡山君と面識ならあるよ。というか、大学も学部・学科も同じだし。ああ、そうそう。物理学科では、成績上位者の社交場として、僕が主催している勉強会があるんだけど、彼もその一員だよ。」
「なっ、何だと?!君如きが、俺の代わりに、あいつの隣にいるだと?!ぐぬぬぬぬ……。」
「僕に嫉妬かい?僕は、双方の世界に異界渡りが可能な家系の人間として、彼を暗部の連中から護衛しているんだよ。少なくとも、大学の構内では、連中も彼に手出しは出来ない。それが、彼を我々の勢力抗争に巻き込んでしまった我々に出来るせめてもの贖いだ……。」
「もしかして、師・ブルクドルフ氏に暗部の連中の情報を提供したのも君か?!」
「ご名答。まさか師が、あんな手荒な方法で、この荒脛巾皇国に招聘するとは思わなかったけど……。それでも、彼がここにいるということは、彼にも少しは荒脛巾の民の血が流れているからだろうね。」
「或いは、十年前に俺と【血の契約】をした所為かもな。」
弓削青年が、十年前の【血の契約】について説明すると、土師青年は、呆れたように答えた。
「それじゃ、結局、君が、我々の勢力抗争に彼を巻き込んだようなものじゃないか。いや、そんな少しだけ交換した程度の量の血では有り得ないという気もするけれど……。」
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【肆元狼】と対峙していた郡山青年は、【肆元狼】が飛び掛かって襲ってきたのを躱す。そして、同時に、戦闘態勢に切り替わり、【蝙蝠山卿】となる。
「テオブロミンを経口投与!」
緑のフラスコの中身の液体を【肆元狼】に流し込むが、やはり、【ジェヴォーダンの獣】と同様か、或いは、それ以上に、テオブロミンを経口投与しても、殆ど効果が無かった。或いは、テオブロミンを経口投与し続けたために、耐性ができたのか……。
「チッ。やはり、【パウリ効果】を使うしかないか……。」
【蝙蝠山卿】が、【パウリ効果】を発動しかけたとき、頭の中に蛇語が聞こえた……と思っているうちに、足下の影から、八つの頭を持つ灰黒色の大蛇が、姿を現した。
「【パウリ効果】を使うのは少し待ち給え。」
「我々のことを忘れたか?!」
「強敵と戦うときには喚べと言っただろうが。」
「【肆元狼】は【無機知性体】だというけどさ。」
「実は、我々も【無機知性体】なんだよね。」
「確かに、我々は、【八岐大蛇】と呼ばれているが。」
「それ以外にも、【無機知性体】としての名前がある。」
「その名は、【捌元龍】!」
【肆元狼】の名前が、四元数に対応しているように、【八岐大蛇】には、八元数に対応する、【捌元龍】という、別名があったらしい。別名が人口に膾炙されていないのは、ここが【龍無き世界】だからか。
3次元コンピュータグラフィックスの廻転の計算に用いられる、四元数とは違い、八元数が使われるような状況は、素粒子場の理論など、ごく一部に限られる。
【捌元龍】は、八つの頭から各々の魔力色と同じ色の引火性の体液を吐き、それが大気中の酸素、或いは、魔素と化合することで、その擬似的な炎色反応の火炎放射となる。
しかも、【捌元龍】は自身の鱗を硬化させ、噛み付いてきた【肆元狼】の牙をもへし折って、そのまま締め上げていき、そのまま【肆元狼】は、まるで、紅茶に入れた角砂糖の如く、魔素と電子の素粒子の砂塵となって、次元の裂け目から、次元の狭間へと吸い込まれて消えていった。
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「おっ。闘技場の方では、模擬戦の決着がついたようだな。」
弓削青年は、【刻印術】によって、皮膚に直接刻み込まれた術式に流れる魔力の微妙な変化と、【八岐大蛇】の加護によって、【八岐大蛇】が参戦し、戦闘を勝利に導いたことも分かる。
「どうやらそのようだな。」
土師青年は、【無機知性体】の情報網によって、素数神【Primzahl】の眷属である、【肆元狼】が倒されたことを理解する。
そう、「斃された」のではなく、あくまで、「倒された」のである。
【無機知性体】には、記憶の相互補完機能があるため、【肆元狼】の記憶も復元することが可能なのだ。
しかも、次に復元する際は、今回の戦闘データをも伴った状態で。そうして、最適化されてゆく。ある意味では人工知能に近い。
「では、我々も闘技場に向かうか。」
「ああ。そうしよう。」
「ところで、君の存在はアイツにバレても構わないのか?」
「ああ。影から護衛するつもりだったが、【無機知性体】の介入によって、状況が変わったからな。我々の持つ情報も、ある程度は開示しないといけないだろう。」
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弓削青年と土師青年が闘技場に到着すると、郡山青年と常井氏が待っていた。
「ゑ?土師君?君が何故、ここにいるんだ?まさか、君もブルクドルフ氏に連れ去られたのか?」
「いや、僕は自力で双方の世界を転移できるんだ。」
「そうか。俺がいなくなった後、元の世界では行方不明扱いになっていたりするのか?」
「いや、向こうの世界では、時間が経っていないというか、こちらの世界とは時間の進み方が違う。だから、もし元の世界に戻るときは、転移したときの時空座標に帰還することになる筈だよ。」
「そうか。安心した。でも、元の世界に戻った際には、この世界で経験した記憶は全て消えてしまうとか?」
「それはない。【無機知性体】のように、記憶が上書きされる。油絵で上書きしても、絵の具が上書きされた痕跡は残るようにね。帰還後は、暫く意識が混濁するだろうが、やがては、白昼夢みたいな形に落ち着くだろう。」
「君の転移方法は、俺にも使えるのかな?」
「君に荒脛巾の民の血が流れていればね。教えるのは構わないが、出来れば例の豚人間共を斃してからの方がいい。連中の横槍が入って、転移を阻害され、魔素の存在しない【別次元の領域】にでも送られた場合、二度と帰還できない可能性が高い。」
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「それで、君達はこの闘技場に何をしに来たのかね?」
常井氏が弓削青年と土師青年の二人に質問をする。
「聞いて下さいよ、師匠。豚野郎共との最終決戦に向けて、情報交換をしていたら、コイツが、俺に戦力外通告をしやがったんです。」
憤慨した弓削青年が、常井氏に訴える。
「情緒不安定で、【幽体融合】した状態を統御できずに、【幽体分離】したら、宿主の【病みエルフ】に負荷が掛かり、魔力が暴走する可能性に言及しただけです。」
訴えられた土師青年も抗弁する。
「フム。確かに、土師君の【幽体分離】を危惧する主張にも一理ある。しかし、郡山君や弓削君が、連中を憎む復讐心以上に、連中の方がこの二人の抹殺に執着しているのも確か。或いは、当事者同士が決着をつけなければ、終わらないかも知れん。そして、それは連中と君達の間だけではなく、君達同士の間にも当てはまるのではないか?」
「ええ。まぁ、そういうわけなので、連中との最終決戦への参加権を賭けて、僕と弓削君とで、模擬戦をすることになりましたので、出来れば闘技場の使用許可を。」
「心得た。とはいえ、土師君の場合は、自身が出場するのではなく、後衛に徹するのであろう?すると、本日の出し物は何だ?式神か?土人形か?」
「ええ。本日の土人形には、これを使う予定です。通称、【尾張の土師真理】。」
「なっ?!何だと?!アレを使うつもりなのか?まさか殺す気ではないだろうな?」
常井氏が驚愕するほどの、凶悪な土人形を土師青年は、使うつもりらしい。
「ええ。だからこそ、闘技場を使う必要があるのですよ。」
「それはそうだが……。」
サンケベツ村での模擬戦や、玖球帝ネメシス・ダムドとの模擬戦の時と同様に、「流れ弾防止」、「漸次回復」、そして、「即死無効」の結界が、この登戸研究所の闘技場にも存在している。
「豚人間共は、当然、殺す気で襲い掛かってくる。この程度の【無機知性体】を退けることが出来ないなら、その程度の実力の者を連中と戦わせるわけにはいかない。」
土師青年は、己の影の中から、固有の亜空間に収納していた、最凶の土人形【尾張の土師真理】を闘技場に召喚した。
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闘技場に召喚された、【尾張の土師真理】は、当然、只の土人形である筈がなかった。
「何だ?この【鋼鉄の集合体】は?」
弓削青年が訝るのも無理はない。まるで、「デュラハン」とか「リビングアーマー」等の様に、装備者がいない、いわば、中の人がいない空胴の鎧が、闘技場の中央にポツンと置かれていたのだから。
「フハハハハ。人工知能で制御されている、全身が魔鉄製の駆動鎧だとでも考えてくれ給え。これなら、さしもの君とて、弓矢で貫通することは出来まい。」
しかも結構大きい。人間が装着するとしたら、2[m]以上の長身の人間だろうか。籠手や具足というよりは、義手や義足の様だ。
「オイオイ。脇腹と脚が同じ太さじゃないか?解剖学的見地から鑑みても、内蔵あるのか?って次元だぞ?解剖学的に有り得ないだろう。人型を模すのであれば、もう少しは似せる努力をだな……。」
「五月蠅いぞ。一応、説明すると、女体化しているのは、秋葉原の模型店に卸したフィギュアがモデルになっているからだ。多少は営業利益を考えなければならなかったからな。それでも、一応、原画を担当したのは高名な絵師だぞ?」
確かに、最近の萌え絵と呼ばれる人間は、脇腹と脚が同じ太さで書かれていたりすることが多く、解剖学的見地から鑑みても、内蔵あるのか?って次元であり、解剖学的に有り得ない。
況してや、アニメ絵は、顔の大きさに対して、異常に目が大きい。これをそのまま骨格標本にすると、まるでカマキリみたいになる。どう見ても、人間じゃねぇ!それを高名な絵師とやらが書いているというのだから、解剖学者も吃驚するだろう。
滑稽なやりとりとは裏腹に、今、最凶の土人形、【尾張の土師真理】は、立ち上がろうとしていた。
ガシャン。ガシャン。
「フハハハハ。さァ、起動せよ!我が最凶の土人形、【尾張の土師真理】!」
こうして、模擬戦が始まろうとしていた。
この世界での最終決戦。
文字通りの「終わりの始まり」が。
好敵手の好敵手が登場して、主人公を巻き込んで、
ドロドロの三角関係に・・・とはならない模様。




