第97話 尾張(おわり)の土師(はじ)真理(まり)
カクヨムでも掲載中ですが、年末に★が増えて年始に★が減った。
何か皆同じ動きをしている。一部読んだだけで★付けているのかな?
執筆意欲を萎えさせる陰謀?或いは、時間制限で消えるシステムの仕様?
ドロドロに溶融した魔漆の樹液を3Dプリンターで合成しているようだ。
【肆元狼】の記憶を降臨するための媒体を魔法陣が生成するのには、もう少し時間が掛かるらしい。
常井氏は、講義を続ける。
「『4』に関する話だが、この世界でも四色ボールペンは普及している。特に登戸研究所の付属校では、文庫本や単行本サイズの無地のノートや、方眼ノートなどとともに、必携の学用品となっている。何故だか分かるかね?」
「四色必要な授業があるから?」
「いや、寧ろ、四色あれば充分なのだ。何故なら、四色定理により、どんな白地図も、四色あれば塗り分けられることが証明されている点が大きい。地図の出版社などは、このことを証明などせずとも、直観的に理解していたようであるがな。」
この四色定理の証明は、計算機を用いた力業による証明であるが、それを直観的に理解していた、地図の出版社は、慧眼であるといえるだろう。四色定理の簡易版ともいえる、五色定理は、「どんな白地図も、五色あれば塗り分けられる」という定理だが、こちらは、オイラーの多面体定理を用いた、グラフ理論により、証明できる。
「【肆元狼】は、素数神【Primzahl】の眷属だ。【楯椅子鉋】は、【QWERTY】の分身らしい。【QWERTY】は、組版神【ETAOIN SHRDLU】の眷属だという。【無機知性体】には、他にもラプラスの魔とか、マクスウェルの魔もいるらしい。」
ラプラスの魔もマクスウェルの魔も量子力学を用いれば、容易に否定できるのだが、魔素の存在するこの世界では、果たして、如何なる存在であろうか?
「【無機知性体】が登戸研究所に現れた理由は?」
「この世界の術理では、【パウリ効果】が【無機知性体】の弱点となるらしい。故に、【パウリ効果】という技能が発現し、その所有者となった君が、敵なのか否かを確認するための偵察に来た、と解釈している。」
「こちらに危害を加えられない限り、敵対するつもりはありませんけどね。」
「我々の師・ブルクドルフは、素数神【Primzahl】と契約している。そこで、模擬戦を行うことを提案したそうだ。郡山君にとっても、いい修行になるだろう、と。」
「模擬戦?」
「ああ。1対1で死合うことになろう。頭の数は1対4と少し不利かも知れんが。」
「俺は?」
「実は、弓削君には、本校の卒業生が興味があるらしくて、面会を希望しているのだが……。」
「OB訪問?俺はいずれ、表の日本に戻るつもりですが、それでも良ければ、構いませんが……。」
「殆ど接点も無い筈の君に、興味を抱いた理由は不明だが、単純に【蝦夷エルフ】や【病みエルフ】という種族に対する興味か、或いは、表大和での知己かね?」
「我々の他にも、表の世界の日本から転移した者がいるのでしょうか?」
「分からん。数年前に、本校を首席で卒業しているが、年齢は君達と同じだと言っていた。但し、面会の時まで、名は伏せておいてほしい、とも言っていたが……。」
「年齢が同じというのが確かなら、連中の仲間ではないだろうから、会ってみましょうか。少し怪しい気もするけど。」
「それでは、師・ブルクドルフが今、面会の準備をしているから、早く行くといい。」
ブルクドルフ氏が、常井氏に闘技場の件を任せたのは、その間に、この卒業生との面会準備をしていたから、らしい。まぁ、あの人が関わる以上、この卒業生も只者ではないだろうし、面倒な事態に陥る可能性は、決して否めないだろう……。
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こうして、弓削青年は、面会希望の首席卒業生と会うことになった。
「き、君は……。土師真理か?」
「やぁ、久しぶりだねぇ。弓削泰斗。物部一門主催の社交場で会って以来だね。」
弓削氏は、道鏡や陰陽師を輩出している、名門の家系であるが、日本史に登場する物部氏の傍系であり、弓削少年も幼い頃から、英才教育を施され、帝王学を学んでいた。
そして、この一門の総帥にして、大黒柱である、物部氏は、ニギハヤヒの末裔である、と云われている。ニギハヤヒは、日本の初代天皇である、神武天皇の曾祖伯父であるとか、大叔父であるとか、諸説あるが、伊邪那岐の曾孫か玄孫に相当する。
また、土師氏も、伊邪那岐の子、天照の次男の子孫であり、相撲の始祖である、野見宿禰を祖先とする。さらに、土師氏は、菅原氏の前身であり、四大怨靈から、学問の神へと昇華した、菅原道真を輩出している、名門の家系である。
現在の物部一門は、物部氏の名前の通り、「モノづくり」を啓蒙する団体、というのが表の顔で、弓の製作に由来する弓削氏や、埴輪を造っていたことに由来する土師氏も、その構成員となっている。
だが、何時の時代にも、妖や怪異、或いはそれに憑依された者が、日本を牛耳ろうと暗躍しているのが世の常であり、この団体は、裏では、そうした勢力と水面下で抗争しているのである。
「君が何故、この荒脛巾皇国にいる?」
「それはね。ここが、日本から転移で行ける、異界のうちの一つだからね。或いは、魂だけ転移して、それを仮の肉体に憑依させたり出来るのさ。まぁ、君の場合は後者のようだけどね。」
「異界に転移だと?!初耳なんだが?」
「限られた氏族の一族の間で、一子相伝の口伝で、伝わってきているみたいだよ。但し、荒脛巾の民の血を継承している者以外は、転移出来ないらしいけど。多分、君の一族でも、ある程度の年齢に達したら、伝えていたんじゃない?」
「それで?君がこの世界に転移してきた目的は?」
「君達は既に交戦したと聞いているが、日本を腐敗させようと企んでいる勢力がある。例の豚人間共を憑依させた宿主である、没落貴族の外道共だよ。僕が荒脛巾皇国に転移してきた目的は勿論、連中の粛清ということになる。」
「ほう?では、連中のことは何処まで情報を得ている?」
「没落貴族の外道共は、平安時代の国司の末裔で、明治維新の頃の先祖が貴族院の議員と遠い親戚関係だったらしいが、現在は凋落している。連中は、邪法に手を染め、異界から、豚人間共を召喚して、自らの肉体を宿主として、憑依させた。」
「その程度の情報であれば、こちらも既に得ている。補足すると、その豚人間共の出身となる異界では、欲望のままに強姦だの虐殺だの食人だのといった、悪事を繰り返したため、現地の住人に討伐された個体らしい。完全なる逆恨みだが、人族への強い敵性を有しており、更生は到底望めないだろう。」
「そうか。連中は、大森とか馬込の辺りに拠点を持ち、『七辻』を経由して、黄昏の逢魔刻に、異界渡りをしているらしい。」
「その情報も既知だな。既に、こちら側の世界の『七辻』で、転移出来るか否か検証してみたが、再現には至っていない。」
「どうやら、連中が異界渡りで双方の世界を転移出来る理由に関しては、特定できていないようだな。」
「連中は、独立して塾を立ち上げたとき、『七人の侍』とか、呼ばれていたそうだが、まさか、それと関係でもあるのか?」
「相変わらず勘が鋭いねぇ、君は。その通り。実は、その後も塾の職員の数自体は増員している。塾の創設者である『七人の侍』が不在でも、運営に支障は無いぐらいだ。しかし、その一方で、豚人間共を憑依させて、異界渡りをするのは、『七人の侍』のみ。君ならこの意味にも気付いているだろう?」
「『七辻』の七叉路のそれぞれに、『七人の侍』の各々が、対応するように、異界渡りの術式を組んでいるということか。」
「言い換えれば、連中の側は、簡単に増援を呼ぶことは出来ない、ということさ。勿論、欠員が出れば、豚人間を憑依させる儀式を行って、補充をするだろうから、『七人の侍』の全員は、同時に撃破することが望ましい。」
連中の異界渡りの方法は暴いたが、同時に勝利条件には、七体全員の同時撃破という、高難易度を要求されることになった。
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「それで、君は、俺に共闘することを要請しに来た、というわけか。」
「いや。僕は君に戦力外通告に来たんだ。【幽者】ユゲタイは、情緒不安定で、【幽合】した状態を統御することが出来なければ、【幽離】してしまう。宿主となっている、【病みエルフ】の状態を鑑みるに、次に【幽離】した際には、その負荷によっては、行き場を失った魔力が暴走する可能性もある。」
「戦力外通告ねぇ。へぇ~、そんなこと言うんだ?物部一門の共同訓練で、模擬戦したとき、俺の弩による射撃が、君の土人形を貫通して粉砕したこと、忘・れって・ない↑?」
かつて、弓を製作していた弓削氏は、現在は弩を製作し、かつて、埴輪を造っていた土師氏は、現在は、所謂、フィギュアの造形に携わる工房を営んで、射撃訓練の的となる土人形を造っている。
「『忘・れって・ない↑?』だと?!寧ろ、絶対に忘れるものか!僕が一所懸命に造った特製土人形を訓練だからとはいえ、あっさり壊しやがって!」
「寧ろ、そのことを根に持って、戦力外通告に来たんだ?へぇ~。」
「戦力外通告に来たのは、君が煽り技能は高いくせに、煽り耐性は低くて、情緒不安定だからだろうが。『ブロッコリー、年をとったらカリフラワー』。いや、寧ろ、『ブロッコリー、キレたらカリフラワー』の方がこの場合は適切か?」
幼少期から英才教育や帝王学を学ばされ、暗部の連中のせいで、精神のみ異界に渡り、別の肉体を宿主として、また修行の日々。そういった育ち方が、彼の歪な人格を形成していったのだ。
「黙れ、『中性名詞』。君こそ相撲の始祖である、野見宿禰を祖先とするなら、造っている土人形ばかりじゃなく、偶には、自分自身が模擬戦に出て来いよ!」
解説しよう。土師真理の「マコト」という名前は、「誠」や「麻琴」の様に、男女両方に用いられる。他にも、
・歩
・カオル:「薫」とか「香」とか
・ジュン:「準」とか「純」とか
・ユウキ
といった名前は、男女両方に用いられるということで、小学生の間では、『中性名詞』という渾名がついたりすることがある。小学生は、独逸語も仏蘭西語も習っていない筈なのに。
「ククク。いいだろう。僕との模擬戦に勝てたら、戦力外通告を取り消してやってもいい。但し、君が闘うのは、僕の最新作にして、最高傑作の土人形だ。こいつは、現役力士の動きを模倣している【無機知性体】でもあるからな。君が『中性名詞』と呼んだ、僕の名前をも冠し、愛知県からやって来た土人形の名は、【尾張の土師真理】。さァ、最終楽章を奏でようじゃないか。」
実在の人物や団体には一切関係ないけれど、
参考文献として、「日本神話」や「日本の氏族」で
調べてみると、今回の話の背景が見えてくるかも。




