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別次元の領域(2021年版)  作者: 草茅危言
第玖章 無機知性体編
94/120

第94話 玉響(たまゆら)の静寂(しじま)の中へ

ここは、かつて、玖球(クーゲル)帝国の帝都であった、ニライカナイ。

屋台では、「バステトのバスケットボール」という、

ドリブルをしている招き猫の置物が売っていたり、

「空手馬」という、奇蹄族の武闘家が、蹄で瓦割りをしている。


そして、玖球(クーゲル)連合の都市探索協会本部。

より正確には、その付属の食堂【丼次郎】にて。


「カプサ~イシン!カプサ~イシン!」と唱える、

浮浪者風の吟遊詩人の様な者が歌っている、

謎の曲を背景にして・・・・・・祝勝会が行われていた。


「らっしゃい。リュウグウノツカイの刺身丼。お待ちどおおおおお。」


ドンザ・ウルス店長が、ゲテモノ?料理を運んできた。


「イミダゾールジペプチドと、アリルイソチオシアネートの

組み合わせが絶品だな。」


【幽者】ユゲタイの食レポ?も渾沌(カオス)である。

七味唐辛子、生姜、ワサビの信号機の三色に彩られているから、

それぞれの成分が、「カプサイシン」、「ショウガオール」、

「アリルイソチオシアネート」だというのは分かる。

だが、「イミダゾールジペプチド」は、鶏肉とか、

マグロの刺身に含まれているのではないのか?


「スミロドンの炭炉丼。お待ちどおおおおお。」


いや、ネメシス・ダムドさん?ねぇ、何を注文してるの?

広義には、マンティコアノイドもスミロドンも

猫族の系統だよね?共食いになるんじゃないの?

というか、無人大陸の生態系を狩ってもいいのか?


「充分火を通してあるから問題ないだろう。最悪の場合でも、

マンティコアノイドの解毒能力を使えばいい。

それに、無人大陸の調査に赴く者達のためにも、

肉食獣はある程度間引いておく必要があるからな。」


ドンザ・ウルス店長の解説によると問題ないらしい。


――――――――――――――――――――――――――――――


ドンザ・ウルス店長を経由して、登戸研究所の常井所長から、

(くだん)豚野郎(オーク)共との戦闘に関して、援軍要請があった。


「ああ、そうだ。お前さん達が(たお)した、火蟻(ヒアリ)の死体は、

玖球(クーゲル)連合の都市探索協会本部として、俺っちが、責任を持って、

買い取らせて貰う。あの第参皇児(だいさんおうじ)が無人大陸で回収していた、

『ビネガロン』とかいうサソリモドキの体液と、火蟻(ヒアリ)の体液は、

【ファイアーアントスプレー】という炎症スプレーを

【武器合成】する際の良い素材になるからな。」


一人銀貨5枚を受け取る。科挙の受験料分は回収できたことになる。

現在の残高は、金貨132枚、銀貨32枚、銅貨10枚。


登戸研究所の研究生でもある二人の青年は、

この後、常井が準備した【転移の鳥居】から、

荒脛巾(アラハバキ)皇国(おうこく)へと帰還することになる。


だが、小隊(パーティ)構成員(メンバー)として、

ネメシス・ダムドが同行すると主張してきた。


「儂も行くぞ。登戸研究所は、先端技術も発展しているらしいから、

一度、視察に訪れてみたいと思っていたからな。」


いや、今は、玖球(クーゲル)帝国から、玖球(クーゲル)連合への

移行の過渡期だろう?視察に外遊していて問題ないのか?


「フハハハハ。(むし)ろ、優秀な部下達曰く、

儂がいない方が公務が捗るらしい。それならば、

儂も、外交の使節として一定の成果が必要だろうが。」


玖球(クーゲル)連合の役人達は、かなり振り回されているようだ。

良い厄介払いになるということか。だが、遠足気分の本人が、

両国の外交関係に悪影響を与えないとも限らない。


荒脛巾(アラハバキ)皇国(おうこく)大皇(おおきみ)は、

2600年以上を生きている、海千山千の老獪な政治家。

如何に儂が戦闘狂と(いえど)も、真正面から

挑んだりするつもりはないから、安心するといい。」


(ちな)みに、外交の使節として行く以上、

謁見することになる(はず)

大皇(おおきみ)大臣(おおおみ)大連(おおむらじ)の三人からは、


「謁見しなくて構わないから、是非、登戸研究所の方へ行ってくれ。」


と言われているそうだ。彼らの中でもどういう扱いになっているのか、

末弟の常井氏に全ての面倒事を押し付けるつもりのようだ。


――――――――――――――――――――――――――――――


そういった経緯(いきさつ)で、一行は、登戸研究所に転移してきた。


常井氏は、どうしても出迎えにこれない理由がそこにあるため、

闘技場にて待っている、という。何やら不穏な気配がする。


闘技場では、ノワール般若が模擬戦をしていた。闘っている相手は、

エズという、サンケベツ村の蝦夷(えぞ)エルフのようだ。


特等席で観戦していた、常井氏が出迎える。


「ノワール般若が闘っている相手は、【無機知性体】だ。

個体名は、楯椅子鉋(たていすかんな)というらしい。」


あのノワール般若が、苦戦しているようだ。

確かに、エズという、サンケベツ村の蝦夷(えぞ)エルフは、

そこまで強くはなかっただろう。


追い詰められたノワール般若が叫ぶ。


「これでも喰らえニャ!【単槍(たんそう)】!」


ノワール般若が亜空間に収納されていた【単槍(たんそう)】を取り出す。

単槍(たんそう)】は、先端は黒曜石、柄はヒヒイロカネ製で、

郡山青年との模擬戦で使用したものと同じ槍だ。


(ちな)みに、郡山青年の使う魔槍である【葬送の双槍】は、

両端に黒曜石が付いているが、その単槍版だ。

(むし)ろ、この単槍を参考にして、

【武器合成】した魔槍が、【葬送の双槍】だったりする。


「ノワール般若の相手、かなり強いな。」


楯椅子鉋(たていすかんな)は、武闘家のネメシス・ダムドが

感心する程の手練れのようだ。


ノワール般若の方は、既に投げやりだ。

単槍(たんそう)】を投げ槍として、投擲する。


楯椅子鉋(たていすかんな)は、それを一歩も動かずに、無造作に手で掴む。

すると、まるで、紅茶に入れた角砂糖の様に、

単槍(たんそう)】が魔素と電子の素粒子の砂塵に変わる。


「【一酸化二水素ジヒドロゲンモノオキシド】!」


楯椅子鉋(たていすかんな)は、水生成の呪文を詠唱する。

次元の狭間から放たれた鉄砲水は、言靈術(げんれいじゅつ)の補正によって

強化されており、ノワール般若の顔面に当たり、弾き飛ばした。


さらに、鉄砲水による目眩ましを喰らったノワール般若は、

濡れた地面に足を滑らせてよろける。その隙に音も立てずに

接近した楯椅子鉋(たていすかんな)は、その懐に潜り込んで、

ノワール般若を投げ飛ばして地面に叩き付ける。


「激しいニャ!激しいニャ!激しいニャア~!」


喚いて騒いで、抵抗を試みるノワール般若の上に

馬乗りになった楯椅子鉋(たていすかんな)は、

拳を振り上げて、殴り続けた。


sinep(シネプ)tup(トゥプ)rep(レプ)inep(イネプ)asiknep(アシクネプ)

iwanpe(イワンペ)arawanpe(アラワンペ)tupesanpe(トゥペサンペ)、・・・」


蝦夷(えぞ)語―表世界のアイヌ語と殆ど同じ―で、1、2、3、4、5、

6、7、8、・・・と数えながら、楯椅子鉋(たていすかんな)は、ノワール般若を殴り続ける。


「|sinepesanpeシネペサンぺwanpe(ワンペ)

sinep(シネプ) ikasma(イカシマ) wanpe(ワンペ)

tup(トゥプ) ikasma(イカシマ) wanpe(ワンペ)

rep(レプ) ikasma(イカシマ) wanpe(ワンペ)

inep(イネプ) ikasma(イカシマ) wanpe(ワンペ)、・・・」


さらに、楯椅子鉋(たていすかんな)は、9、10、11、12、13、14、・・・

と数えながら、殴り続ける。


ノワール般若が抵抗する声も、段々と小さくなっていく。


「既に勝負は決している。明らかにやり過ぎだ。止めるぞ!」


そう言って、立ち上がろうとする郡山青年と弓削青年だったが、

ネメシス・ダムドがそれを手で制して止める。


「手を出すな。儂に任せておけ。」


asiknep(アシクネプ) ikasma(イカシマ) wanpe(ワンペ)

iwanpe(イワンペ) ikasma(イカシマ) wanpe(ワンペ)

arawanpe(アラワンペ) ikasma(イカシマ) wanpe(ワンペ)

tupesanpe(トゥペサンペ) ikasma(イカシマ) wanpe(ワンペ)

|sinepesanpeシネペサンぺ ikasma(イカシマ) wanpe(ワンペ)、・・・」


楯椅子鉋(たていすかんな)が15、16、17、18、19、・・・

と数えながら、殴り続けている間、ネメシス・ダムドは、

自分の固有空間に収納していた、リモコンを取り出すと、

素早く(ボタン)を押していく。


一見すると、テレビのリモコン、或いは、

携帯電話のようにも見えるが、この世界には、

テレビも携帯電話も存在しないから、

チャンネルを切り替えたり、出前を注文したり

しているわけではないだろう。


hotnep(ホッネプ)!」


楯椅子鉋(たていすかんな)が20発目の拳打を振り上げると同時に、

ノワール般若に装着されていた【電気首輪】に高圧電流が印加され、

既に気絶し、沈黙していたノワール般若が悲鳴を上げた。


「あばばばば。ギャニャ~ッ!

激しいニャ!激しいニャ!激しいニャア~!」


どうやら、ネメシス・ダムドが取り出したリモコンは、

ノワール般若の【電気首輪】に高圧電流を印加するためのものらしい。


何時(いつ)まで寝ているつもりだ?我が下僕ともあろう者が!」


ノワール般若の上に馬乗りになっていた

楯椅子鉋(たていすかんな)も、咄嗟(とっさ)に飛び退いたものの、

【電気首輪】の放電に巻き込まれ、感電したようだ。


「くっ・・・よくも邪魔をッ!」


闘技場に飛び降りたネメシス・ダムドは、蝙蝠の翼を使って減速し、

両者の間に割って入る様に着地した。


「我が下僕が随分と世話になったようだな。礼をさせて貰おうか?」


――――――――――――――――――――――――――――――


突然の乱入者に、楯椅子鉋(たていすかんな)誰何(すいか)する。


「何者だ?さては、貴様が【パウリ効果】の技能(スキル)の所有者か?」


「ほぅ・・・何故(なにゆえ)、そのように思ったのだ?」


「【パウリ効果】の所有者は、登戸研究所に所属しているらしい。

それなら、仲間を痛めつければ、耐えられずに出てくる(はず)

試しに、付属校で一番強いと自称する学生と模擬戦をしてみたが、

思った以上に手応えがなかった・・・。」


サンケベツ村の蝦夷(えぞ)エルフは、ヨッホ村長を除き、

アッシュ、ソーン、エテル、ウィン、エズの5人の実力に

大きな差は無く、常井氏曰く、実力的には、登戸研究所の

堀田針壱(しんいち)少年と互角ぐらいだという。


ノワール般若は、その堀田針壱(しんいち)少年を舎弟にしているから、

エズ本人であれば、ノワール般若の実力には及ばない(はず)だ。


郡山青年は、かつて、登戸研究所で、堀田針壱(しんいち)少年、

ノワール般若の二人と模擬戦をしたが、それは、【パウリ効果】

という、反則級技能(チートスキル)を入手する前だった。


弓削青年も、アッシュ少年、ソーン少年の二人と模擬戦をしたが、

それも、化合物の生成を補助するという能力を持った、

【祟りの凶杖】という、反則級魔道具(チートアイテム)を入手する前だった。


その後、【パウリ効果】という、反則級技能(チートスキル)

入手した郡山青年と、【祟りの凶杖】という、反則級魔道具(チートアイテム)

入手した弓削青年は、決闘紛いの模擬戦を行った。


さらに、不倶戴天の仇敵との死闘を経た二人の力は、

ノワール般若程度、瞬殺も可能であり、二人の力を合わせれば、

ネメシス・ダムドさえも凌駕するであろう。


そのネメシス・ダムドは、かつてケイカと名乗っていた頃の

ノワール般若に暗殺されそうになったが、勿論歯牙にもかけていない。

(ちな)みに、ノワール般若に【電気首輪】が装着されているのは、

その時の暗殺未遂に対する、制裁である。


「残念だが、儂は【パウリ効果】の所有者ではない。

だが、その者と闘ったことがある。

その情報が欲しければ、儂と死合え。」


「【パウリ効果】の所有者ではない?では、何故闘う?

【パウリ効果】の所有者ではない者が、

我々【無機知性体】に挑むのは、あまりにも無謀・・・。」


(いぶか)楯椅子鉋(たていすかんな)に対し、

ネメシス・ダムドは、(わら)う。


「闘う理由?そうだな。この闘いを通じて、

戦士の矜恃というものを貴様に教えてやろう。

確かに、【パウリ効果】には苦戦させられたが、

戦意を喪失した相手に追い打ちをするような貴様程度の輩、

【パウリ効果】を使わずとも、容易く蹴散らしてくれよう。」


「では、こちらは、物の道理の分からぬ者に、

自然の摂理というものを教えてやろう。」


「その前に。参狼(さぶろう)、コイツを頼めるか?」


ネメシス・ダムドは、ノワール般若の【電気首輪】を掴むと、

振り返ることなく、背後の常井氏の方に投げ渡した。


――――――――――――――――――――――――――――――


ネメシス・ダムドは、蝙蝠の様に、超音波を使って、

飛び掛かってくる楯椅子鉋(たていすかんな)の動きを先読みする。


「貴様の動きなど、読めている!【玉響(たまゆら)】ッ!」


玉響(たまゆら)】は、音属性の基礎的な技能(スキル)であり、

勾玉同士が触れ合ってたてる微かな音のこと、或いは、

そこから転じて、「一瞬」とか「瞬間」を意味する古語である。


「【重ねの響き】!」


そこに、僅かに周波数が異なる音を加えると、

「うなり」という現象が発生する。


そして、魔素を帯びた音波は、タコマ橋を崩落させた

「共振」という現象を発生させる。


実際の物理学の題材として、「音響物理学」とか「破壊力学」で、

色々と調べてみるのも一興だろうか。


(ちな)みに、「調(しら)べ」も音楽の用語に由来している。


決闘紛いの模擬戦の実況に戻ろう。ネメシス・ダムドは、

【重ねの響き】という音属性の技能(スキル)によって、

破壊をもたらす旋律を奏でていた。


それは、【無機知性体】の楯椅子鉋(たていすかんな)

無力化させる程の威力を有していたが、

さらに、ネメシス・ダムドの攻撃は続く。


「【鎮魂歌(レクイエム)】!」


鎮魂歌(レクイエム)】も音属性の基礎的な技能(スキル)であり、

特に、死靈(しりょう)に対し、効果が抜群となる。


そして今度は、【鎮魂歌(レクイエム)】の効果により、

【無機知性体】の楯椅子鉋(たていすかんな)が、ノワール般若の

単槍(たんそう)】と同様に、まるで、紅茶に入れた角砂糖の如く、

魔素と電子の素粒子の砂塵となって、闘技場の一瞬の静寂(せいじゃく)―――

玉響(たまゆら)静寂(しじま)の中へと吸い込まれていった。

アイヌ語の数体系は、20進法らしい。

あと、「響」の音読みは、「キョウ」、

「響く」は、訓読みで「ひびく」と習うけど、

その他に、「玉響」で「たまゆら」、「響もす」で「どよもす」

という読み方があるらしい。

小説書いていると、新たに学ぶことも多いですねぇ。

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