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別次元の領域(2021年版)  作者: 草茅危言
第零章 荒脛巾(アラハバキ)皇国(おうこく)編
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第9話 【き・お・く】

荒脛巾アラハバキ皇国おうこく大皇おおきみ視点です。

 2600年前。


 記憶も結構曖昧だ。あれはいつのことだったか……。


 しかし、今日亡命してきた郡山という青年は、あの日、対峙した青年に酷似していた。


 彼は、『皆で仲良くやろう』という意味である、『和』という概念を唱えた。『王は民のために、民は王のために』だと?!あの時は、青二才の描く絵空事だと(わら)い、歯牙にもかけなかった。


 彼は、(われ)を兄の仇だと、(おれ)の方がこの地の正当な継承者であると宣言した。正義の敵は、もう一つの正義である。


 彼は、烏に導かれ、(われ)を東へ東へと追ってきた。その手にした剣で、草を薙ぎながら。その執念には、敬意を表さねばなるまい。


 彼は、(われ)に対峙した時、(われ)に投降することを勧めてきた。それは、(あたか)も、勇者と魔王が対峙したようだった。両者の台詞が逆であることを除けば。


 答えは否だった。(われ)は、差し出された手を振り払い、館に火を放ち、崖から飛び降りた。骸は見つからなかった。(われ)は生きていたからだ。(われ)は地下に身を潜め、時を待った。


 (われ)は、独りで最期を迎えた。(われ)こそがこの地の正当な継承者だと呪詛を唱えながら。勝者は孤独なのだ。頂点に立つ者は孤独なのだ。(われ)は、この地に転生した。


 正義が勝つのではなく、勝った方が正義なのだ。(われ)は、史上初の朝敵と呼ばれているらしい。だが、戦ったのは、大和朝廷が成立する以前の話だ。彼は、(われ)が滅びていないとでも思ったのだろうか。


――――――――――――――――――――――――――――――


 転生後も、(われ)は、表の世界を覗くのをやめない。


 中華思想からすれば、東西南北は、東夷、西戎(せいじゅう)、南蛮、北狄(ほくてき)といった野蛮人なのだろうか。相変わらず、大陸の民共からは、『和』→『倭』、『姫巫女』→『卑弥呼』、『大和大国』→『邪馬台国』等と汚い当て字で揶揄されていた。


 約1500年前。彼の直系が途絶えた。


 約1200年前。最後の純血の荒脛巾(アラハバキ)の民も滅びた。史実では、蝦夷(えみし)阿弖流為(アテルイ)辺りが、その可能性が高い。


 約820年前。八岐大蛇(やまたのおろち)討伐時のドロップ品である、草薙剣(くさなぎのつるぎ)が壇ノ浦に沈み、喪われた。大和民族は、神器の管理すらまともに出来なかったのだろうか。


 しかも、ヒヒイロカネの製法も失伝させおって。


 他にも、政治の腐敗が四大怨霊を生んだりしたのもこれらの頃辺りか。


 約730年前。神風が吹いたらしい。この頃、異国の商人の小僧が、『黄金の国ジパング』等と呼んだ所為(せい)で、この国は未だに、異人共から、正式名称の『日本』ではなく、『邪藩(ジャパン)』等と呼ばれ、世界のATM等と揶揄され、金づるとして、搾取されているのではないか?


 約120年前。英語公用語化論なるものが浮上する。大和民族は、自らの誇りや矜恃さえ、棄て去ろうとしているのかと危惧した。


 (そもそ)も、何故、「名前・名字」の順なのだ?態々(わざわざ)、異国の慣習に合わせてしまったから、(むし)ろ、異人共の方が、日本人の氏名の順序が「そういうもの」だと認識してしまったではないか!


 数字を3桁毎に読点で区切るのも異国の慣習ではないか。この国は、万進法なのだから、4桁毎に区切らないと理に適わないではないか!


 生まれ持った黒い髪を何故茶色や金色に染める?黒は何物にも染まらぬ、究極にして完璧なる孤高の色だというのに。


 最近は、片仮名(カタカナ)英語なるものが跳梁跋扈している。技術革新の進歩の速度に追いつけないから、和訳せずにそのまま使うだと?!


 明治維新の頃、必死に翻訳してくれていた先哲の御蔭で、高度な学問を母国語で学ぶことが出来るのではないかね?


 その頃に翻訳した漢語を中国は逆輸入して使ったというが、今は、中国はIT用語を自前で訳している。何故日本はそれが出来ない?怠けているのではないかね?


 舶来かぶれも結構だが、これは明治維新の先哲の顔に泥を塗る行為ではないか!けしからんよ!


 自分達の国の言葉さえ、他国の言語の文化的侵略に抗えない。この国は堕ちるところまで堕ちてしまったようだ……。


 だが、あの日の宿敵(とも)の面影を残すあの青年との邂逅は、(われ)を熱く燃え上がらせた。このままではいけない。こうなったら、(われ)が直々に指導してやろう……。


 き:今日

 お:怒った

 く:悔しい


 この【き・お・く】は、(いにしえ)の記憶を永遠(とわ)に、永久(とこしえ)に刻むだろう……。

古代人から見た現代は、許容できる範疇を超え、怒りの臨界点を突破するだろうなぁ…。

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