表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
別次元の領域(2021年版)  作者: 草茅危言
第捌章 無人大陸編
87/120

第87話 【ジェヴォーダンの獣】

「ジェヴォーダンの獣」の正体は、定かではありませんが、

ここでは、その考証を目的としているわけではないので、

異世界の生物と考えても構いません。

 体力の消耗を鑑み、一行は拠点である地底湖へと帰還する。


 仮設した【コンテナハウス】は、常井氏の改造によって、実験室(ラボ)と化していた。


「貴様、何をしている?」


「ああ、ダムドか。緑のフラスコに入れた【ニセアロエ草】をすり潰したものに、色々と添加物を加えて、連中が使っていた【テッタイン】について、解析していたのだ。」


「無人大陸に来ても、その本質は学者・研究者のまま、というわけか・・・。」


「ダムド殿が、無人大陸に来ても、戦闘狂であることに何ら変わりないのと同様ですな。それでは、情報交換も兼ねて、本日の成果についての報告をされては如何かな?」


 まずは、ネメシス・ダムドの報告から。


「デスゾーンから俯瞰していたら、雪山で【イエティ】を見つけたのでな。戦って式神にしたが、少し強いぐらいか?」


「戦闘狂は自重というものを知らないようですな。」


 常井氏は呆れていた。続いて、【幽者】ユゲタイが報告する。


「偵察に出していた式神の情報より、タールの沼地にて、古生物の『スミロドン』と『エラスモテリウム』と思しき、両者が交戦中にタールの沼に沈みそうだったので、保護を兼ねて、調査のため、式神化しました。」


「古生物の『スミロドン』と『エラスモテリウム』だと?やはり、無人大陸の生態系は、荒脛巾(アラハバキ)皇国(おうこく)や、蝦夷(えぞ)共和国、玖球(クーゲル)帝国のいずれとも異なるか・・・。明日以降も引き続き調査を続けてみよう。」


 新たな式神の回復にも時間を要するため、本日はこれにて解散となった。


――――――――――――――――――――――――――――――


 翌日。地底湖の拠点を出て、再び、昨日のタールの沼地へと向かうのだが・・・。


「オイ。競走(レース)しようぜ。」


 【幽者】ユゲタイは、タールの沼で眷属化したエラスモテリウムを召喚し、鞍と手綱を装備させて、騎乗しながら、想像の斜め上の発言をした。


「何を言っているんだ?俺は馬なんて持っていないぞ?」


 エラスモテリウムは、ユニコーンの伝説の元ネタとなった、巨大な角を持つ(サイ)であり、馬ではないが、ウマ、バク、サイは同じ奇蹄目に属する。


「そうだな。君の場合は、ネメシスさんにマンティコアに変身してもらって、乗せてもらえば良くね?」


 マンティコアは、中国語では「蝎獅」といい、これは、中国語で「(サソリ)」を意味する「蝎」と、「獅子」の「獅」を組み合わせたものである。

 また、蝙蝠の翼は、近年のゲーム等の創作の影響とされている。


 マンティコアは「獅子」、要するに、「猫」である。それは、猫に騎乗するようなものではないか?


「儂を馬か何かと勘違いしているのではないか?【幽者】よ。」


 ほら、本人も怒りと困惑を隠せない。


「へぇ~?ネメシスさんともあろう者が、闘う前から諦めるんだ?」


 ゑ?そこで、何故に挑発するという選択肢が?


「良かろう。競走者(レーサー)として相手してやる。」


 挑発されたネメシス・ダムドは、発言を180度、(ひるがえ)した。


 オイ、それでいいのか?


 元・玖球(クーゲル)帝の誇りは、何処へ行った?


「いや、アンタは武闘家だろう?」


 思わず、郡山青年も指摘する。


「考えてみれば、この無人大陸では、以前のように、気軽に模擬戦をやる、というわけにもいくまい。だが、馴れ合うだけでは、好敵手(ライバル)としての存在意義(レーゾンデートル)が、なまってしまうだろう。」


「君は、そこまで考えてッ・・・。」


「模擬戦だけが、好敵手(ライバル)としての在り方ではないということさ。で、どうする?特に、不利益(ペナルティ)とかはないと思うけど。」


 既に、ネメシス・ダムドは、マンティコアに変身していた。


「いいだろう。受けて立とう。では、目標地点(ゴール)に早く到着した方が、次の魔獣や魔物と戦闘する際に、優先権を得る、というのはどうだ?」


「いいぜ。最初の目標は、昨日のタールの沼地だ。いつも通り、競走(レース)開始(スタート)の合図には、この登戸研究所謹製の『風船爆弾』を使わせて貰うぜ。行くぜ、ミ~カ~ン~の~皮~♪」


 天然ゴム製の風船にミカンの皮を搾ってかけると、ミカンの皮に含まれる「リモネン」という物質が、天然ゴムと化学反応して、風船を割る、という仕組みだ。


 バンッ!


競走(レース)開始(スタート)ッ!」


――――――――――――――――――――――――――――――


 競走(レース)の途中で、【幽者】ユゲタイのエラスモテリウムが、明らかにこの世界の住人ではない、緑色の小鬼(ゴブリン)と思われる生物(クリーチャー)を轢き殺したが、それ以外は特に問題は発生せずに、目標地点(ゴール)である、昨日のタールの沼地へと向かっていた。


 だが、近付くにつれて、異常な量の瘴気が漂い、【幽者】ユゲタイは、エラスモテリウムを減速させた。


「どうした?何故、減速した?」


「明らかに瘴気の量が異常だろうが。」


「そういえば、少し息苦しいな。だが、これはタールの臭いではないのか?」


「そうか。君は、憑依の影響で、瘴気への耐性が上昇しているのかもな。よし。それなら、競走(レース)の勝ちは譲ってやるから、先行して偵察してきてくれ。俺も後からすぐに追いつく。」


 郡山青年とネメシス・ダムドが、タールの沼地に到着すると、現地の生態系には明らかな異常が発生していた。


 タールの沼からは、黄土色のネバネバした粘液で構成された、巨大な手が生えており、現地の生物(クリーチャー)をタールの沼へと引きずり込んでいた。


 但し、タールの沼へと引きずり込む生物(クリーチャー)は、決して何でも良いというわけではないらしく、黄土色の粘液でできた巨大な手は、「フクロオオカミ」と「アンドリューサルクス」を選んで、タールの沼へと引きずり込んでおり、どうやら、この黄土色の粘液の手には、一定の知性があるようだ。


 ネメシス・ダムドを憑依させた郡山青年は、【蝙蝠山卿】となり、黄土色の粘液の手が、「フクロオオカミ」と「アンドリューサルクス」をタールの沼へと引きずり込み、現地の生態系を破壊するのを阻止するべく、近付いて行った。


 すると、黄土色の粘液の手は、その動きを止め、明らかにこちらに気づいた様子で、警戒を始めた。


 やがて、しばらく時間が経つと、黄土色の粘液の手は、不毛な睨み合いを止めて、自らタールの沼へと沈んでいった。


 そして、黄土色の粘液の手と入れ替わるようにして、タールの沼から浮上する形で、(おびただ)しい量の禍々(まがまが)しい瘴気を纏った魔獣が出現した。


 それは、牛ぐらいの大きさがあり、背中に黒くて長い縞模様がある、赤茶色の体毛に長いふさふさした尻尾のオオカミに似た、魔獣であった。


 大きさ以外は「フクロオオカミ」とその身体的特徴が全て一致する。だが、その大きさは、大型化したオオカミと言っても過言ではない。或いは、ハイエナには、縞模様や赤褐色の個体もいるので、(むし)ろ、ハイエナの方が似ているかもしれない。


 また、「史上最大級の陸生肉食獣」と呼ばれた、「アンドリューサルクス」は、動物の死骸を食べる腐肉食獣(スカヴェンジャー)だったという説もあり、その場合、大きなハイエナの様な姿をしていたともいわれている。


 謎の魔獣と、蝙蝠の翼と蠍の尾が生えた黒衣の青年が対峙する。


 まるで、闘技場(コロシアム)内で猛獣と対峙する剣闘士の様に。


 そこに、この天然の闘技場(コロシアム)を見下ろすように、岩山の崖の上から、例の連中の不愉快で下品な声が聞こえてくる。


「どうだ?俺達の作品はよォ!かつて人間を喰いまくった、【ジェヴォーダンの獣】っていう獣の魂を降靈(ダウンロード)するための媒体として、魔獣を合成してみたんだが。その名も【ベート】さんだァ!さァ、頼みますよォ、センセェ!」


 この意地汚い豚野郎(オーク)共は、食人繋がりで、三毛別羆事件の【袈裟懸け】に続き、かつて、フランスのジェヴォーダン地方で起きた獣害事件、「ジェヴォーダンの獣」の【ベート】を再現しやがった。


 「ジェヴォーダンの獣」の正体は、「オオカミ」、「ハイエナ」、「ナマケグマ」、「フクロオオカミ」、「アンドリューサルクス」等の説がある。


 要するに、「フクロオオカミ」と「アンドリューサルクス」を選んで、タールの沼へと引きずり込んだのは、【ジェヴォーダンの獣】を召喚するための生贄だったのか。


 そして、恐らく、巨大な手を構成していた、黄土色の粘液の正体は、【汚泥(ヘドロ)スライム】だろう。


 これ以上、連中にこの無人大陸の生態系を破壊させるわけにはいかない。


 ()してや、あの化け物を現世に解き放つわけにはいかない。


 貴様らの命運ごと、ここで終わらせてやる!

小隊パーティを組んだことで、好敵手ライバルとしての

存在意義レーゾンデートルが、なまってしまうような

気がして書いたのが今回の話。


模擬戦だけが、好敵手ライバルとしての在り方ではない。

競走レースという発想。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ