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別次元の領域(2021年版)  作者: 草茅危言
第捌章 無人大陸編
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第86話 「スミロドン」と「エラスモテリウム」

前回の話の次回予告通り、今回は専門用語が多めです。

あまり詳しくは解説しませんが、小説上では、物理法則などを

異世界基準で改変したりしているので、理科や科学に興味がある場合は、

それぞれの用語にて、正しい知識を検索することをオススメします。

 【イエティ】を眷属化して、式神とした【蝙蝠山卿】だったが。


「サンケベツ村で交戦したときは、連中との戦力差を痛感した。だから、帝都ニライカナイでは、戦力を強化した。それでも、連中を逃がしてしまった。まだだ。まだ、足りないんだよォ。もっと戦力を強化しなければ・・・。」


「戦力強化の必要性に関しては一理あるが、ここは未知の領域だ。慎重に行こうぜ。無理のない範囲でな。」


 【幽者】ユゲタイは、「勇者」ではなく、「幽者」であり、そんな彼だからこそ、「勇気」と「無謀」、或いは、「蛮勇」との違いは痛感している。


「はっ。そうだったな。慎重に行かないとな。マンティコアノイドの魔力酔いの影響なのか、かなり攻撃的になっているな・・・。」


「今回は、サンケベツ村のときとは逆に、君が暴走して、俺がそれを制御するという、かつての十年前の関係に戻ったようだな。もしかして、あの頃の攻撃性も、マンティコアノイドの憑依が原因だったりするのかな?」


「あの頃の部分憑依の状態でさえ、昂ぶって統御できないことが、屡々(しばしば)あった。今回は、()してや完全憑依だからな。身体中を自分じゃない何かが蠢いているかのようだし、魔力の制御だけでも、場合によっては、全身筋肉痛みたいになる。」


 【幽者】ユゲタイは、【蝙蝠山卿】に【祟りの凶杖】を向ける。


「イミダゾールジペプチド!」


「何をしたんだ?」


「別名、イミダペプチド。渡り鳥の羽を動かすための筋肉に含まれる成分で、疲労回復に効果があるらしい。」


「悪いな。感謝するぜ。回復魔法みたいなものか。」


「濁音が多めだから、これを回復魔法の呪文として使う奴なんて、俺以外にはいないだろうがな。ククククク。」


 【幽者】ユゲタイは、物質生成用魔術の新しい詠唱の効果を試せて、ご機嫌である。


――――――――――――――――――――――――――――――


 ばさばさ、バサバサ。


 そこに、偵察に出していた、エゾフクロウ、シマフクロウ、ワタリガラスの三羽が、主のところに帰ってきた。


「おお。イソサンケカムイ、村の守り神(コタンコロカムイ)、オンネパシクルの三羽が帰ってきたようだ。」


「ホッホ、ホッホ」


「フムフム。ほぉ~。」


「いや、(フクロウ)語分かるのかよ。」


「契約している式神のものであれば、何となくはな。詳細が要る場合は、【思念共有】という技能(スキル)か、それを付与した読心(とうしん)の宝珠を使う。」


 【幽者】ユゲタイは、多少は、(フクロウ)語が分かるようだ。


「ガァ、ガァ」


「フムフム。ほぉ~。」


 さらに、彼は、(カラス)語も少し分かるようだ。


 そして、【幽者】ユゲタイは、これらの三羽を型紙に戻すと、取り敢えず、高所から平原を見てみよう、ということで、一行は、見晴らしの良さげな場所へと移動することになった。


――――――――――――――――――――――――――――――


 岩山と森林に囲まれた、楕円形の平原は、天然の闘技場(コロシアム)の様になっていた。


 そこには、地球上では絶対に見られない(はず)の生物がいた。どうして、「絶対に見られない」と断言できるのかって?何故なら、それらの生物はかつては地球上に存在したが、現在は既に絶滅しているからだ。


 例えば、第三紀―6500万~160万年前―の肉食動物である、「アンドリューサルクス」。そして、同時代の草食動物である、「インドリコテリウム」。


 他にも、第四紀―160万年前~―の肉食動物である、「スミロドン」は、剣状の歯を持ち、別名「サーベルタイガー」とも呼ばれている。或いは、同時代の草食動物である、「エラスモテリウム」。こちらは、「ユニコーン」の原型となった角を持つが、馬ではなく、(サイ)の仲間である。


 それだけではなく、近年になって絶滅した種や、現在絶滅危惧種となっている動物もいる。実際、森林には、ドードーやヤンバルクイナが歩き、岩山には(トキ)が羽を休めている。


 絶滅危惧種でさえないが、見た限りでは、アリクイ、フクロオオカミ、サソリモドキ、等々もいた。


 フクロオオカミは「タスマニアタイガー」とも呼ばれ、オオカミに似ており、オオカミとフクロオオカミの関係や、アリクイとフクロアリクイの関係は、屡々(しばしば)、収斂進化の例として挙げられることも多い。


 サソリモドキは、(サソリ)とは別系統で、(むし)ろ、蜘蛛(クモ)に近縁な系統である。尾から酢酸の混合物を噴射することから、「ビネガロン」とも呼ばれる。


――――――――――――――――――――――――――――――


 ・・・・・・。結論から先に述べると、この無人大陸の生態系は、かなり(いびつ)なものであることが明らかになった。


 まず、【イエティ】に代表される未確認生物。これはまだいい。未知の大陸なのだから、未知の生物がいたとしても不思議ではあるまい。


 だが、絶滅した動物が大量に存在しているのは何故だ?この無人大陸では、残念ながら恐竜はまだ発見されていないようだが、生きていた時代や場所も異なる古生物が共存している。


 生物の時間に、「カオシデ石」を習っただろう。そんなの知らない、と言う人のために一応書いておくと、別にそういう石があるわけではない。


カンブリア紀、オルドビス紀、シルル紀、デボン紀、石炭紀、

二畳紀、三畳紀、ジュラ紀、白亜紀、第三紀、第四紀。


という、地質年代の語呂合わせである。


 恐竜が生きていた、「三畳紀」、「ジュラ紀」、「白亜紀」は有名で、郡山少年も幼稚園の頃は恐竜図鑑を読んでいたぐらいだが、古生物は恐竜ほど知名度は高くはなく、恐竜図鑑の末尾に数頁をその説明に割いている程度だった。


 この世界が(ドラゴン)(りゅう)がいない世界だから、恐竜がいないのだろうか。


 勿論、古生物の学者や研究者ならこの状況を喜ぶかも知れないが、明らかにこの世界を作った何者かの作為を感じざるを得ない。


――――――――――――――――――――――――――――――


 一行は、見晴らしの良い、岩山の崖の上から平原を見下ろしていたが、この天然の闘技場(コロシアム)の様な平原で、動きがあった。


 「サーベルタイガー」という別名の由来となった剣状の歯を持った、「スミロドン」の一頭が、「ユニコーン」の原型となった角を持つ、(サイ)の仲間である「エラスモテリウム」に襲い掛かった。


 自然の摂理と言えば、その通りだが、今回はそれだけではなかった。両者は、戦っている間に、タールの沼の中に入っていき、身動きがとれなくなった。実際、地球上でも、「タール・ピット」に落ちた、「スミロドン」の化石が発見されている。


 タールといえば、郡山少年も弓削少年も、中学受験の理科で習った、「木タール」を思い出す。試験管の中で木片を蒸し焼きにすると、木炭と木酢液と木タールが出来るという内容だ。


 その間にも、「スミロドン」と「エラスモテリウム」の両者は、ゆっくりとタールに沈んでいく。


「悪いが、時間がないみたいだ。あの二体は両方とも頂くぞ。」


 【幽者】ユゲタイは、タールの沼で争う両者へと近づいていく。


「ゑ?二体とも?」


 郡山青年は(いぶか)るが、【幽者】ユゲタイは、振り返らず答えた。


「【イエティ】の時は譲っただろう?今度は俺の番だ。」


 【幽者】ユゲタイは、両者から少し離れた位置に立ち、まず、「スミロドン」に【祟りの凶杖】を向ける。


「【誘導放出光の増幅】!」


 すると、【祟りの凶杖】から出た青いレーザー光が、レーザーポインターの様に、「スミロドン」に照準を合わせる。(ちな)みに、「Laser(レーザー)」が「Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation」の頭文字をとったもので、「誘導放出光の増幅」という意味である。


 でも、青いレーザー光は、反射光でも失明や火傷、火災発生の危険を伴う、「クラス4」に相当するんじゃないのか?


 (いぶか)る郡山青年など、歯牙にも掛けずに、【幽者】ユゲタイは、既に次の一手を講じていた。


「テオブロミンを経口投与!」


「イェァ~オ!イェァ~オ!イェァ~~~オ!!」


 テオブロミンを経口投与された「スミロドン」は、苦しみの声を上げる。そういえば、「スミロドン」も広義には犬や猫の仲間には違いない。


 図体が大きい分、致死量は多いのだろうが、「エラスモテリウム」の背から落ちさえすれば、その後は体力が尽きる寸前で、護符を型紙として封印し、眷属化するだけ。


 そして、回復すれば、式神として使役できるようになるだろう。


――――――――――――――――――――――――――――――


 「スミロドン」を型紙に封印するという形で救出した次は、「エラスモテリウム」も同様に眷属化しようと試みる。


「臭化水素酸スコポラミン!」


 臭化水素酸スコポラミンは、常井学長の講義にも登場した物質で、昔は目薬、今は酔い止め薬に入っている成分だが、抽出し濃縮することで、睡眠薬として使える。

 しかし、普段から酔い止め薬を服用している場合には、耐性があったりもするのだが・・・。


 そして、理由は定かではないが、臭化水素酸スコポラミンは、「エラスモテリウム」に効果が無かったみたいだ・・・。

 「エラスモテリウム」は、「スミロドン」の剣歯で穿(うが)たれた傷からの出血と、自重でタールの沼に沈んで体力を奪われているとはいえ、図体が大きい分、そう簡単には型紙に封印できないと考えて間違いないだろう。


 そこで、暴れている「エラスモテリウム」を抑えるため、漆黒の(クロスボウ)、【痛矢串】を取り出して構える。

 さらに、麻酔作用のある成分を【祟りの凶杖】で生成し、【痛矢串】の矢に付与する。


 ところで、高校化学の範疇で麻酔作用のある物質を挙げるとしたら、

・ジエチルエーテル

・クロロホルム

・亜酸化窒素

の三種類辺りだろうか?


 まず、「ジエチルエーテル」だが、引火性があり、危険物第4類の特殊引火物にも指定されている。対象の「エラスモテリウム」を燃やしかねないので却下。


 次に、「クロロホルム」は少量では麻酔としての役割を果たさない。


 そして、「亜酸化窒素」は「笑気ガス」とも呼ばれ、全身麻酔にも用いられる程だが、吸入型の麻酔薬のため、矢に付与するには適さない。


 他には、高校化学の範疇を超えるが、「チオペンタール」や「サクシニルコリン」が挙げられる。これらに「塩化カリウム」を加えた薬液が「薬殺刑」に用いられる。


 「塩化カリウム」は体内で、塩化物イオンとカリウムイオンに、「サクシニルコリン」は、コリンとコハク酸に、それぞれ分解され、それらは体内にもある成分のため、時間が経てば検出しにくくなる。

 そういえば、「サクシニルコリン」は、MMOの小説でも、用いられていた気がする。


 また、「ケタミン」は、全身麻酔の麻酔薬にも、動物麻酔の麻酔銃にも用いられていたりする。


 ・・・・・・。というわけで、【幽者】ユゲタイが、「ケタミン」を付与した矢を射ると、「エラスモテリウム」は大人しくなり、型紙に封印することができたのであった。

絶滅種の動作や性質に関しては、確かめようがないので、

完全に想像ですが、それでも不自然に感じるのであれば、

似て非なる異世界の生物と考えても構いません。

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