第85話 【イエティ】
今更ですが、本作上では、神話の怪物や伝承の妖怪、
未確認動物などの正体が、何らかの古生物である、
等というように、独自に解釈していますが、
あくまで独自の解釈に過ぎません。念の為。
四人は、軍用潜水艦に乗って、無人大陸へと向かう。
これなら、洋上で豚野郎共と交戦した場合でも、
問題なく応戦できるだろう。この軍用潜水艦は、
ネメシス・ダムドの超音波で、周囲を探索できる。
また、軍用潜水艦には、兵糧として、携帯食料が積んであり、
その在庫を確認しつつ、無理をしない範囲で、
調査することになるだろう。
潜水艦の内部では、弓削青年が郡山青年に話し掛ける。
「『アフンルパラ』は、アイヌ語で『冥界への入口』、
『ポクナモシリ』は、アイヌ語で『冥界』という意味だ。
これは、以前も話したよな。」
「ああ。」
良く覚えている。郡山青年が、初めて、
この世界の蝦夷共和国に遠征したとき。
十年前の相棒との再会、仇敵との邂逅。
あれから、かなりの時間が経ったような気もする。
「『ポクナモシリ』の原義は、『下方の世界』だが、
『あの世』は、昼夜や夏冬が逆という点を除けば、
靈達は、『この世』と同じような世界で生活しているらしい。」
「ふ~ん。昼夜や夏冬が逆ねぇ。」
「君もこれを聞いて、思い当たる節があるだろう?」
「昼夜が逆なのは、経度が180度違うから。
夏冬が逆なのは、北半球と南半球の違いか?」
「そうだ。『冥界への入口』から、地下深く掘っていけば、
やがては、地球の裏側へと到達するだろう、ということに、
当時のアイヌ民族は既に気付いていたのかも知れないな。」
「つまり、この無人大陸は、この世界の『ポクナモシリ』。
即ち、『冥界』ということか・・・。」
「そうだ。異界の列車で、『アフンルパラ』駅で降車せず、
そのまま乗っていたら到着する『ポクナモシリ』駅は、
もしかしたら、この無人大陸上にある可能性が高い。」
この無人大陸は、かつて滅びた五大陸の亡霊なのかも知れない・・・。
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無人大陸に着いた。
蝦夷共和国であれば「白樺」、
玖球帝国であれば「シュロ」、
といったように、気候によって植生は変わる。
無人大陸の樹木は見たことがない。
単に日本にはない植物なのかも知れないし、
或いは、世界中を探しても存在しない、
地球上の樹木とは、似て非なる植物もあるかも知れない。
「あっ、あれは。」
アロエの様な草を指して、ネメシス・ダムドが叫ぶ。
「ニセアロエ草だ。」
常井氏は、不愉快な表情を浮かべながらも冷静に返答し、
近づいて、引っこ抜くと、「ニセアロエ草」は、
アロエの様な形状をしている髪の毛が生えた、
裸の赤ん坊の様な姿をしており、
伝承にある「マンドラゴラ」の如く叫ぶ。
「ふぇえええええん!」
目を瞑り、耳を塞ぎ、でも口だけは決して閉じることはない。
「【フェーン現象】!後で、緑のフラスコだからな!」
そして、野太い声で、「バンシー」の如く、泣き叫ぶ、
「ニセアロエ草」をすり潰すと、緑のフラスコに入れた。
通常、「フェーン現象」とは、山を越えた風によって、
気温が上昇することを指すのだが、
「ニセアロエ草」の叫び声による、【フェーン現象】にも、
同様の現象を起こす、という効果があるらしい。
常井氏は、現地の植物は取扱注意。
特に、解毒能力を持つ約一名を除き、
うっかり食べたりしないようにと、
まるで、遠足の引率のように注意する。
彼の中では、これも課外授業に含まれるのだろうか?
まぁ、確かに歴史上でも新大陸の発見は伝染病を伴うし、
神話でも黄泉の世界の食物を摂取すると元の世界に
戻れなくなるというから、気を付けた方が良いのは
言うまでもあるまい。
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海岸沿いに少し進むと、豚野郎共が乗ってきた、
【瀬戸】の水軍の船が停泊していた。
「あれを奪って帰れば、連中はこの大陸に取り残されて、
現地の魔獣や魔物が連中を始末してくれるんじゃないか?」
「却下だ。ダムド。連中がこの大陸に来た目的が分からぬ以上、
現地の生態系や環境を破壊するかも知れない。
あの連中が、傘下にした現地の魔獣や魔物を率いて、
大陸の調査団が連中に襲われる危険性も鑑みれば、
ここで、連中との戦いを終わらせるか、
現地の魔獣や魔物に始末された場合でも、
その死体は、確認せねばならない。」
常井氏曰く、まさか、連中の乗ってきた船の隣に
停泊するわけにもいくまい、ということで、再び潜水し、
彼が以前来たときに見つけたという、地底湖にて浮上する。
影属性の収納術【コンテナ】から、複数の【コンテナ】を召喚して、
それらを結合して、【コンテナハウス】を生成し、野営の拠点にする。
【コンテナ】の容量は無制限ではなく、
その容積に収まらない場合は、収納できない。
【コンテナ】の容積は大体、
3[m]×4[m]×5[m]の直方体であり、
当然だが、その性質を鑑みると、
【瀬戸】の水軍の船も、軍用潜水艦も
明らかに収納できないだろう。
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地底湖から地上を目指す。洞窟の入り口は、断崖絶壁であり、
天然の要塞になっていた。常井氏はここで留守番をするという。
「蝦夷共和国で、【コンテナハウス】を仮設したまま放置すると、
オハチスエが住み着くことがあってな。」
この「オハチスエ」とは、アイヌ語で「空家の番人」という意味の
凶暴な妖怪であるが、常井氏と【幽者】ユゲタイは、
この妖怪を眷属化し、式神とした。すると、オハチスエは、
まるで、イングランドの伝承の「シルキー」の様に、
【コンテナハウス】の家事をしたりするようになったとか、
ならなかったとか・・・。どうも個体差があるようだ。
補足すると、「バンシー」と「シルキー」は、
人家に憑くという点において、少し傾向が似ている。
「バンシー」は、アイルランドやスコットランドの伝承で、
「シルキー」は、イングランドの伝承という地域的な相違点はあるが。
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【幽者】ユゲタイは、蝦夷共和国で眷属化した式神達を召喚する。
「出でよ。イソサンケカムイ、村の守り神、
オンネパシクル、ホロケウカムイ、ヤオシケプ、沖の神。」
それぞれ、エゾフクロウ、シマフクロウ、ワタリガラス、
エゾオオカミ、蜘蛛、鯱である。
エゾフクロウ、シマフクロウ、ワタリガラスは空中から偵察。
エゾオオカミは嗅覚で連中を捜索、蜘蛛は結界上の巣で覆って
拠点への侵入を防ぎ、鯱は、海上から連中が逃亡するのを防ぐ。
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ネメシス・ダムドは、マンティコア形態で、高い山の山頂へ飛ぶ。
標高が8000[m]を超えると、「デスゾーン」と呼ばれる、
酸素濃度が低い領域になり、小隊唯一の解毒能力を持つ、
彼であっても、長時間の滞在は出来ない。
「【イエティ】と思われる生物の存在を見つけた。」
偵察から帰ってきた彼の報告によると、
雪山で二足歩行の生物を発見したという。
早速、小隊の三人で現地に向かう。
そこにいたのは・・・体毛が白い羆であった。
実際、ヒマラヤ山脈に生息する未確認生物である
【イエティ】の正体は、羆ではないか、
と言われている。日本の鬼熊という妖怪や、
アメリカの「ビッグフット」も、多分似たようなものだろう。
二足歩行なら【魔人】だが、基本的には四足歩行なので【魔獣】、
人語を理解できないので【魔物】であることは確定だろう。
「袈裟懸けの時は譲ったからな。今回は俺が頂くぞ。」
酸素濃度が低いので、【九尾の火狐】は不利。
ネメシス・ダムドを憑依させた【蝙蝠山卿】は、
蝙蝠の翼と蠍の尾が生えた状態となる。
この形態での魔力の制御にも慣れていかなければならない。
「「【一酸化二水素】!!」」
「「【極低温の瘴気】!!」」
「「【直撃雷】!!」」
幹部級の豚野郎共をも圧倒した三連撃でさえ、
【イエティ】は微動だにしない。それだけでも、
この無人大陸の【魔獣】や【魔物】の強さが、
【別次元の領域】にあることが分かるだろう。
よく、反則的能力を手に入れた主人公が、
無双するという、異世界小説はあるけれども、
殆どの相手を一撃で倒すことになるだろう。
それの何が楽しいんだ?
自らに比肩しうる強敵を求めてこそ、
血湧き肉躍る、というものだろう。
好戦的なネメシス・ダムドなら、そう言うだろう。
そして、【イエティ】にとっても、久しぶりに対峙する
強敵であったらしい。こちらの動きを警戒している。
だが、帯電した魔剣【ガルバノス】を抜剣すると、
早めに決着をつけなければ危ないと悟った
魔剣【ガルバノス】をが、爪の一撃を繰り出す。
その間合いの内側に飛び込み、
脇の下から魔剣【ガルバノス】を一閃。
「グォオオオオオ!」
前足の片方を切り落とされた【イエティ】は、
もう片方の前足を振るうが、既に勝敗は決した。
四肢を全て切断された【イエティ】に、
蠍の尾を刺して毒を盛る。
瀕死になるまで体力を削って、護符に封印する。
型紙に封印された【イエティ】は、眷属化され、式神となった。
次回は専門用語が多くなる予定。
というわけで、専門用語を極力少なくするため、
更新は11月中旬から下旬の予定。




