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別次元の領域(2021年版)  作者: 草茅危言
第漆章 帝都ニライカナイ編
77/120

第77話 「さあ、降りて来いチャンピオン!」

同じ小説を読んでも、人によって感想は違うと思います。

とりわけ、作者の感性は他の人から言わせると、

極端に変わっているらしいです。


だから、中学受験の国語の問題で、

「この登場人物の気持ちを記述しなさい」系の問題は、

本当に反吐へどが出るほど嫌いでした。


原作者さえ、問題の模範解答に異議を唱えることもあるぐらいなのに、

作問者の考え―妄想と言った方が適切かも―なんて、

分かるわけないわ・・・読心系の超能力者でもあるまいし。

 玖球(クーゲル)帝ネメシス・ダムド。この玖球(クーゲル)帝国の四天王の頂点に君臨する、豪放磊落な豪傑は、挑戦者を前にして、哄笑する。


「【陰陽術】、【魔導科学】、どんな技でも好きなだけ使え。」


 玉座の間にいた、側近達は、退出していく。何故か、


「新し~い餌が来た♪所望の餌~が♪」


と歌っていたが、これには、玉座の間を結界化する効果があり、サンケベツ村での模擬戦の際、三重詠唱によって生成された、障壁結界と同様に、結界内では、

・流れ弾によって、玉座の間が破壊されないようにする

・負傷しても漸次回復する、所謂(いわゆる)「リジェネ」効果を付与

・「即死」する確率を大幅に減少

という効果がある。


 弓削青年は、【幽者】ユゲタイとして、挑発する。


「さあ、降りて来いチャンピオン!」


 玖球(クーゲル)帝は、武闘会の優勝者(チャンピオン)でもあるので、彼との模擬戦の際には、この台詞を放つのが恒例だという。


 ネメシス・ダムドは、玉座から立ち上がり、数段の階段を飛び越え、体操選手みたいに宙返りしながら、着地を決めた。


「凄い筋肉だな……。」


「ああ。キョウジンだな。」


 玖球(クーゲル)帝国内には、【掛詞(かけことば)】という、「洒落」の伝統があるのだが、この「キョウジン」は、「強靭」と「狂人」を掛けており、しっかり、【掛詞(かけことば)】になっているのは、凄い。


 どうやら、【幽者】ユゲタイは、玖球(クーゲル)帝国の文化に馴染んでいるようだ……。


「儂にとって、『狂っている』は、褒め言葉だな。その『キョウジン』は、確かに褒め言葉として、受け取っておこう。」


 ああ、この人にとって、「狂っている」や「狂人」は、褒め言葉でしかないのか。「型破り」、「破天荒」、「異端児」等と言われ続けた末に到達する、ある意味、俺達と同じ側のそういう人種にはよくある傾向だ。


――――――――――――――――――――――――――――――


 【幽者】ユゲタイは、自らの眷属として式神を召喚する。取り敢えず、最初はあくまで【陰陽術士】として、立ち回るつもりのようだ。


「出でよ、【餓者髑髏】!」


 【餓者髑髏】を召喚する【幽者】ユゲタイに対して、ネメシス・ダムドは、齧歯族から献上された武器を【コンテナ】から取り出す。


「顕現せよ、妖刀【骨無双】―真打―!」


 そして、【縮地】で【餓者髑髏】の眼前に現れ、


「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前!」


 バシク、バシカラ、バシク、バシカリ、バシ!バシキ、バシカル、バシケレ、バシカレ!


 九字護身法の呪文とともに、妖刀【骨無双】―真打―を振るい、【一気呵成】に乱打を叩き込む。【餓者髑髏】は、耐えられず、魔素の粒子の塵となって、【幽者】ユゲタイの型紙に戻ってゆく。


「つ、強い……。」


 小細工なしの真っ向勝負。それも瞬殺である。さしもの【幽者】ユゲタイでさえ、恐懼し、戦慄を覚えるのだった……。


――――――――――――――――――――――――――――――


「もっと攻めて来い……。どうした?もっと、攻めて、来い!」


 怯んでしまった【幽者】ユゲタイに代わり、今度は、郡山青年が、【蝙蝠山卿】として、そう呼ばれる所以(ゆえん)となった元凶と対峙する。


「出でよ、【代田(だいた)ラボッチ】!」


 召喚された、サイクロプスの様な一つ目の巨人がその姿を現す。【代田(だいた)ラボッチ】は、地縛霊みたいな存在であるため、内地(ホーム)である、【代田(だいた)】を離れている場合は、顕現させ続けるための消費魔力が増大する。


 だが、同時に、郡山少年との在りし日の契約が有効なため、ネメシス・ダムドの魔力もごっそりと持って行かれる。


「まさか、儂の魔力を吸収されている……?」


 しかし、膨大な魔力を有するマンティコアノイドにとって、この程度の魔力消費など、微々たるもので、「少しだるい」ぐらいだろうか……。


 ネメシス・ダムドは、妖刀【骨無双】―真打―が骨に届く前に、【代田(だいた)ラボッチ】の筋肉の鎧で受け止められてしまうだろう、と判断し、妖刀【骨無双】―真打―を納刀して、再び【コンテナ】へと収納する。


 そして、ネメシス・ダムドは、【縮地】を使い、【代田(だいた)ラボッチ】の懐深くに潜り込む。そして、両者は、四つに組んで、互いに一歩も引かない。


「がっはっは!まるで相撲だな。」


 ネメシス・ダムドは、豪放磊落に哄笑し、【代田(だいた)ラボッチ】の重心が変化した一瞬に、その脇の下に潜り込んで、投げ飛ばす。


「くっ、屈強だなっ……。」


 そして、何度も繰り返し投げ飛ばされ、遂に、【代田(だいた)ラボッチ】は、顕現させ続けることが可能な時間を超えてしまい、魔素の粒子の塵となって、【蝙蝠山卿】の型紙に戻ってゆく。


 一方、ネメシス・ダムドは、汗一つ無く涼しい顔で、


「良い準備運動になった。」


等と発言していることから、その強さは、今までに戦闘してきた、どの相手と比較しても、逸脱した、別格で、規格外であることが分かる。


――――――――――――――――――――――――――――――


 【蝙蝠山卿】が魔力を回復する間、再び、【幽者】ユゲタイに代わる。この二人の連携は、【両面宿儺(りょうめんすくな)】の加護の賜物である。


 続いて、【幽者】ユゲタイは、切り札を召喚する。文字通りの意味で。


「出でよ、【袈裟懸け】。」


 召喚された羆【袈裟懸け】は、後ろ足で立ち上がる。並の人間ならば、恐怖に射竦められ、怯んでしまうかも知れない。


「オッホ、いいぞ。実にいい。」


 だが、ネメシス・ダムドの闘志は、この【袈裟懸け】という強敵を前にしても、全く怯まず、(むし)ろ逆に燃え上がる。


 【袈裟懸け】は、ネメシス・ダムドを相手に、爪の一撃を繰り出す。その威力は、ネメシス・ダムドでさえ、無視できないため、ネメシス・ダムドは、飛翔し、【袈裟懸け】から距離をとる。


「凄まじい膂力だが、儂には通用しない。【渾沌昇華】!」


 紫と黄色の魔力色をした炎が、まるで床屋のサインポールの如く、ネメシス・ダムドの周囲を、二重螺旋を描きながら上昇していく。


「【二重魔軸】だと?!」


 【幽者】ユゲタイは驚愕する。


「【二重魔軸】って?」


「複数色の魔力色を軸として組み合わせることを一般に【多重魔軸】と呼ぶんだが、それが二色なら【二重魔軸】、三色なら【三重魔軸】。当然、魔力色の種類が増えるほど、術式は複雑になる。」


 【蝙蝠山卿】は、多重振り子の運動方程式を思い浮かべる。単振り子の時と比較して、二重振り子の運動方程式は、屡々(しばしば)、カオス理論の例として挙げられるが、その計算量は、トンネル効果の透過率の式を導出するのと同等程度と、かなり複雑になる。勿論、三重振り子の運動方程式の場合は、更に複雑になる。複数色の魔力を操作するのも、それと似たようなものだろうか。


 次に、ネメシス・ダムドは、【コンテナ】の亜空間に収納されていた、聖剣【電動鎖鋸(チェーンソー)】を己の影から取り出す。


 紫と黄色の魔力色をした炎は、紫電と黄色の稲妻に変わる。


「この聖剣【電動鎖鋸(チェーンソー)】には、ペルチェ素子が使われている。故に、ゼーベック効果により、火属性も(いかずち)属性に変換される。つまり、単純に魔力を(いかずち)属性に帯電させるよりも、魔道具(マジックアイテム)としての性能を向上させ、威力の上昇に寄与するのだ。」


 ゼーベック効果は、熱を電気に変換する、「熱電効果」であり、地熱資源の豊富な日本にとっては、エネルギー問題を考える上でも非常に有用なのだが、変換効率に難があった気がする。


「フハハハハ。儂がセイケンをとったからには~(たと)え、山の神(キムンカムイ)(いえど)も、その威力には抗えまい!さァ、魔素の粒子の塵となれぇ!【シシ切断】!」


 この聖剣【電動鎖鋸(チェーンソー)】は、足踏み式の電動ミシン同様、(いかずち)属性の魔力を流している間のみ起動しているため、キックバックの心配は無い。


 また、【シシ切断】の「シシ」は、マンティコアノイドの「獅子」と、両手両足の「四肢」のを掛けている。その奥義には、蝦夷(えぞ)共和国の最終(ラス)ボスさえ、耐えられず、【袈裟懸け】は、四肢を切断され、魔素の粒子の塵となって、【幽者】ユゲタイの型紙に戻ってゆく。


――――――――――――――――――――――――――――――


 だが、【袈裟懸け】を葬ったこの瞬間、ネメシス・ダムドは、確かに油断していたのだろう。【蝙蝠山卿】の反則級技能(チートスキル)が炸裂する。


「ここだ、ここだここだ、ここだここだここだ!聖剣【電動鎖鋸(チェーンソー)】を対象として、【パウリ効果】を発動!!」


 すると、聖剣【電動鎖鋸(チェーンソー)】の魔道具(マジックアイテム)としての機能を構成する術式は崩壊し、廻転が停止した。


 ここに「セイケン」は崩壊し、その機能を停止したのである。


「は?」


 ネメシス・ダムドは、一瞬、その思考を停止した。


 「セイケン」は、「聖剣」と「政権」を掛けているので、聖剣の崩壊は、政権の崩壊と同義でもある。つまり、突然だが、帝政はここに終わりを告げたのだ。


 武闘会の優勝者(チャンピオン)は、聖剣を抜く権利を得る。そして、聖剣を手にすることが出来れば、帝位に就いて、政権をとることが出来る。


 つまり、聖剣を(うしな)った玖球(クーゲル)帝は、ただの武闘会の優勝者(チャンピオン)に戻るのだ。


「まだだ。まだ、終われねぇんだよぉおおおおお!」


 それでも、ネメシス・ダムドの闘志は、消えていない。再び飛翔し、空中に魔力を固めた魔方陣の足場を生成し、その上に立って、挑戦者二人を睥睨する。


 今度は、かつてネメシス・ダムドの使徒―弟子兼部下―だった、【蝙蝠山卿】が彼を見上げて、叫ぶ。


「さあ、降りて来いチャンピオン!」

次回更新は、10月以降を予定。

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