第76話 「良かろう。武闘家として相手してやる。」
小説を書き始める前は、「まだ、小説を書き始めるには、
勉強が足りない。もっと、勉強してから小説を書こう。」
と思っている人は多いと思います。
また、作者自身は、論説文みたいに、
自分の主張や、それと対立する主張を書き、
それを作中の登場人物に代弁させるだけ、
と考えてもいました。
でも、いつかどこかで何かの作者が
「作中の登場人物が各々の意思で勝手に動き始めてくれる」
と言っていた記憶がありますが、
実際に書き始めてみると、まさにその通りで、
自分の世界観を、その世界の登場人物達と共同で
築き上げてゆく過程なのだと気付かされます。
というわけで、まだ小説を書き始めることに
二の足を踏んでいる方は、まずはとにかく、
書き始めてみましょう。
「科挙」の二次試験は模擬戦形式の実技試験。
郡山青年は、ボルゾ・イぞい将軍を撃破し、二次試験を突破した。
一方その頃、弓削青年は、警備員のケヴィンと対峙していた。
ボルゾ・イぞいは、狗族出身の将軍である。ここで、突然だが、異世界小説で、主人公が魔物使いの場合について、少し分析してみよう。
概ね、一番目と二番目に仲間になるのは、順番が前後することこそあれど、「狼・犬系」と「スライム系」であることが多い。その際、三番目に加入するのが、「小動物」か「飛行能力持ち」、或いはその両方の特性を持つ。更に、四番目に加入するのが、「西洋竜」であることが多い。最近の定番なのか、そういう流れの小説を数作品は挙げられよう。
まあ、PCブラウザゲームに、「戦国時代」や「三国志」を題材とした作品が溢れているのと似たようなものか。音楽だって楽譜の数箇所変えただけの、似たような曲が出てくる。誰か一人がその分野で成功すると、細部だけを変えた二番煎じが流行るのは世の常なのか、それとも思考停止だろうか。
話が逸れてしまったな。神話・伝説も新旧や洋の東西を問わず、似通ってくる。「狼・犬系」ということで例を挙げれば、
・ギリシャ神話の三頭犬「Κερβερος」、双頭犬「Ορθρος」
・北欧神話の「フェンリル」
・エジプト神話の「アヌビス」
・古代中国の四凶の一つである、「渾沌」
・モンゴルの「蒼き狼」
・アイヌの「狩猟の神」
・フランスの「ジェヴォーダンの獣」
最後の例だけは、実際の獣害事件であり、その正体は、「オオカミ」、「ハイエナ」、「ナマエグマ」、「フクロオオカミ」、「アンドリューサルクス」等の説がある。
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警備員のケヴィンは、偶蹄族出身の、牛頭の戦士であると名乗ったが、牛に関する神話・伝説も、例えば、
・牛鬼:西日本に伝わる妖怪で、胴体は鬼だったり、蜘蛛だったり。
・牛頭天王:素戔嗚と同一視されている?
・牛頭馬頭/牛頭鬼馬頭鬼:獄卒。閻魔大王の側近?
・ギリシャ神話の「Μινωταυρος」
・中国の西遊記の「牛魔王」
・インドの「クジャタ」
の様に、具体例には、枚挙に暇が無い。
警備員のケヴィンは、玖球帝から貸与された、【牛骨の冠】を装備し、赤い襟巻きを巻いて、闘争心を増幅させている。【牛骨の冠】の角を避雷針として、雷属性を帯びた赤い魔力を纏いながら。
普段は、【活力吸鬼】が用いている、通称「斧鎌」等と呼ばれる武器をよく使うのだが、今日は【大鎚】と呼ばれる大きな金槌を上段に振りかぶって、唐竹気味に振り下ろす。
弓削青年は、影属性の魔術によって、剣術の継ぎ足・歩み足・送り足・開き足といった足捌きを技として昇華させた、【蜃気楼】、【逃げ水】、【陽炎】、【不知火】、【縮地】を使って、悉く躱してゆく。その残像は、恰も影分身をしているように見える。
ケヴィンは、確かに牛頭に相応しい、屈強な筋肉を有しているが、それでも何度も【大鎚】を振り下ろしていれば、疲労が蓄積されて、疲弊してくる。
だから、必然的に、弓削青年の残像を【大鎚】で横薙ぎにして、一気呵成に決着をつけようとしてくるが……既に彼はそこにはいない。
「弱点は、その巨体を支えている足だ。」
弓削青年が、ケヴィンの背後に回り込み、相撲の「裾払い」という技で、その足を刈ると、【大鎚】を振り回していた勢いが余って、ケヴィンは倒された。
「おめでとう。二次試験合格だ。」
武闘会の時もそうだったが、ケヴィンは適度に手を抜き、余力を温存しておく性格だ。二次試験において、受験者の実力や適性は、既に見極めた。必要以上に争えば、無駄な血を流すことになる。
「では、最終試験の会場までご案内しよう。」
そして、その後は警備員としての定常業務に戻る。彼にとっては、晴れの日よりも、ケの日の方が大切なのだ。
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受験者用の控え室。
弓削青年が、警備員のケヴィンに連れられて入ってくると、既に、郡山青年は、二次試験を突破して待っていた。
「よォ。少し時間が掛かったみたいだったから、不合格になったかと心配したよ。」
「まさか。君が早すぎただけだろう。」
さァ、謁見の時間だ。いざ、玉座の間へ。
玉座に座って待ち構えていた獅子の獣人は、蝙蝠の翼と蠍の尾を持ち、黒に限りなく近い、焦げ茶色の鬣のような髪をしており、浅黒い皮膚は筋肉隆々だが、決して太ってはいない。
確かに、玖球帝に相応しい、王者の威厳と貫禄がある。
但し、その格好を除けば。
まず、頭上に戴く【牛骨の冠】。それはまだいい。【牛骨の冠】は、帝位に就く際、警備員のケヴィンから献上され、先程の試験のために一時的に貸与していたのだが、こうして玖球帝に返却され、彼の勇猛さと、彼が理外の民を率いる、蛮族の王であることをよく示している。
両手に装着された、【ワン公の腕甲】。これもまだ分かる。【ワン公の腕甲】は、帝位に就く際、ボルゾ・イぞい将軍から献上され、やはり、先程の試験のために一時的に貸与していたものが、返却された形となる。譬え、城の玉座の間であろうと、戦士であることへの誇りと、常在戦場の精神で装着しているのだろう。
だが、【鮫肌水着】を着ている姿は、皇帝として、如何なものか。
「よう来た、よう来た友よ。最終試験の会場へようこそ。」
郡山青年は、この声に聞き覚えがあった。この声を聞いたのは、いつの日のことであろうか。
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一方、ネメシス・ダムドは、十年前に視察目的で、思念体のみ、表の世界の日本に転移した際、憑依した少年だとは、まだ気が付いていない。もう一人が、その時に交戦した、陰陽術士の家系の少年であることも。
「貴君らのことは、荒脛巾皇国の第参皇児殿からの書簡に書かれていた通り、荒脛巾皇国と蝦夷共和国の使節代表として、この場に臨んでいることも承知している。その立場はあくまで客人として扱うから、特に畏まる必要はない。」
この魔族の魔人は、きっと根っからの戦闘民族なのだろう。早くこの強敵と闘ってみたい、という感情が渦巻いているのが分かる。
「しかし、我が盟友たる、玖球帝国都市探索協会本部長、ドンザ・ウルスからの推薦状にも書かれていたが、模擬戦の結果は、我らが玖球帝国の四天王の一角に匹敵する戦力であることを示し、しかも筆記試験は満点、という逸材だ。勿論、貴君らが望むのであればだが、是非、帝国の幹部として迎えたい。」
郡山青年は、この声の主が誰なのかを思い出す。あの頃の記憶という記憶は、脳に強く刻み込まれている。自分を棄てて、放置していったことへの嫌味を込めて、ニヤリと笑い、
「久しぶりですねぇ、師匠。」
ネメシス・ダムドは、最初、理解が追いつかなかったが、その言葉の意味に気が付いたとき、豪放磊落な態度へと変わる。
「お前、あの時の小僧かっ?!」
弓削青年も、玖球帝が、かつて十年前に郡山少年に憑依していた魔族の正体であることに気付いた。
「まさか、玖球帝が、あの時、君に憑依して、
影の中に潜んでいた魔族の正体だったとはな。」
ネメシス・ダムドも、かつて弟子兼部下―使徒―だった者の隣に立つ者が、十年前に郡山少年に憑依している自分を祓おうと決闘を仕掛けてきた、陰陽術士の末裔だと気付いた。
「そして、お前は、あの時儂を祓おうとして、決闘を仕掛けてきた少年ではないか。だが、あの当時の儂は思念体だったからな。その力は、片鱗に過ぎない。では、今度こそ見せてやろう。我が力の全容を。」
病みエルフとマンティコアノイドの濃密な魔力が重苦しい瘴気となって迸り、渦を巻く。
「二対一か。良かろう。武闘家として相手してやる。
来いッ!我と死合え!」
あ~あ。やっぱり、結局、最終試験も模擬戦になるのか……。しかも決闘紛いの模擬戦に。こうなると予想はしていたけどさ……。
第70話で予告した通り、遂に、本作の三人の主人公が揃いましたが、
影では、何やら不穏な雰囲気の何かが進行中。




