第75話 「カイテンの時間だァ!!」
「科挙」の筆記試験問題の内容に関しては、
あまり詳しくは述べませんが、大学院入試や、
四年制大学卒の技術職の地方公務員試験相当の
難易度を想定しています。主人公組は、
殆ど試験対策なしの状態で挑んでいますが・・・。
「さァ、カイテンの時間だァ!!」
「廻転」と「開店」を掛けた咆吼と共に、ドンザ・ウルスは、盾を変形させて、中から八方手裏剣のようにも、血滴子のようにも見える暗器、廻転鋸が出てきた。
扇風機の羽のように廻転する刃が襲い掛かってきたが、郡山青年はそれを黒キ楯で受け止める。
ドンザ・ウルスは、尻尾を第三の足の様に使い、飛び退くと、口から体液を吐き、それが空気中で引火する。所謂、火炎放射が黒キ楯を熱する。
熱くなった、アダマンタイト製の楯を持ち続けることは出来ない。【収納術】で、亜空間の【コンテナ】に収納するが、冷却に時間を要するため、直ぐには再度取り出すことも出来ない。
同時に、もう片手の槍で弓削青年の方にも対処していた。ドンザ・ウルスは、武闘会の決勝戦に残っていただけあって、かなり強い。
――――――――――――――――――――――――――――――
「くっ、あの廻転鋸は、結構厄介だな……。君なら、どう攻略する?」
「あの廻転鋸は、機械っぽいから、水でも掛けて刃を錆びさせるぐらいしか思いつかないが……。」
「機械?そうか!なら、一瞬でいい。あの刃の廻転を止められるか?」
「何か策があるのか?まぁ、一瞬なら……。でも、本当に一瞬しか止められないぞ。」
弓削青年は、影の中からヒヒイロカネの鎖を生成し、廻転鋸に巻き付けて動きを封じるが、直ぐに廻転鋸の刃の廻転によって、ヒヒイロカネの鎖が断ち切られる。
「【一酸化二水素】!!」
続いて、水を掛けて刃を錆びさせることを試みるが、廻転鋸の刃の廻転によって、周囲に風が渦巻き、水を弾き飛ばしてしまう。こちらの技は何も通用しないかと思われたのだが・・・。
「【パウリ効果】を発動!!」
すると、ドンザ・ウルスの廻転鋸の廻転が止まり、ドンザ・ウルスは投了した。
――――――――――――――――――――――――――――――
【パウリ効果】:無機知性体に対し、所有者の知力に比例した損傷を与える。
――――――――――――――――――――――――――――――
物理には、理論と実験があり、実験屋は手先が器用だが、理論屋は手先が不器用なことが多く、利口であればあるほど、その傾向が強い。
極端な場合は、近づいただけで機械が壊れることがあるという。それが、【パウリ効果】だ。
郡山青年の名は、「俊英」だが、「俊英」とも読み、その名の通り、大学でもその成績は上位である。
そして確かに、廻転鋸の仕組みは、機械仕掛けであり、ここに、【パウリ効果】の発動条件が揃ったのである。
「まさか、形而上学的な力が、覚醒するとは・・・。」
形而上学―metaphysics―。物理学―physics―よりも、高次の―meta―力とされ、物理法則を超えて、造物主によって組み込まれた法則。
好敵手が、自分に発現した力を使いこなせるようになったことは、戦力増強という意味では、祝福するべきなのかも知れないが、それでも、弓削青年が羨むのも無理はないだろう。
――――――――――――――――――――――――――――――
翌日。ドンザ・ウルスは、
「カイテンの時間だァ!!」
と言って、いつも通り、鉢巻きを巻いて、食堂の店長となる。
ノワール般若は、猫族の自治区へと帰省した。
二人は、「科挙」という役人の登用試験を受けに行く。
受験料は、銀貨5枚。
現在の残高は、金貨82枚、銀貨24枚、銅貨10枚。
頻繁に「科挙」が行われる背景には、玖球帝閣下が、模擬戦の度に配下を病院送りにするので、慢性的な人手不足に陥っていることが、挙げられるという。
一次試験は筆記試験。分野毎の選択問題形式となっている。
郡山青年は、「数学・物理」を選択。内容を要約すると、以下の様な感じだ。
・二重振り子の運動方程式を求めよ。
・トンネル効果の透過率を求めよ。
・ディラック行列とディラック方程式について。
・フーリエ級数展開とパーセバルの等式について。
・パウリ行列と四元数の関係について。
・β関数、Γ関数、ζ関数、η関数の関係について。
・ベルヌーイ数とベルヌーイ多項式の関係について。
・クーポンコレクター問題
……etc.何だ、この問題は?俺のサイトに載せていた範囲じゃないか……。楽勝だな……。
弓削青年は、「化学」を選択。小学生の頃、既に「危険物」の試験勉強をしていた彼にとって、これも必然の選択だろうか。
・次の文章の正誤を判定し、誤りがある部分は修正せよ。
「フッ化水素酸は、ガラスをも溶かす強酸である。」
→これは、簡単だな。フッ化水素酸は、「強酸」ではなく、「弱酸」だ。
・金剛石よりも硬い物質を挙げよ。
→ロンズデーライト。別名、六方晶金剛石。他にもウルツ鉱型窒化ホウ素が挙げられる。これは、常井学長の講義で出てきたな。
・トリカブト由来のアコニチンとフグ毒由来のテトロドトキシンを同時に摂取した場合、どうなるか述べよ。
→どちらも即死級の毒だが、拮抗作用により相殺され、遅効性の毒になる。これも、常井学長の講義で出てきたな。
・超臨界水による、ポリエチレンテレフタレート
の分解について述べよ。
→アルコールである、エチレングリコールと、カルボン酸である、テレフタル酸のエステルなので、高温高圧にして、超臨界状態という液体と気体の性質を併せ持った水により加水分解される。常井学長の講義の的中率ヤバいな。
――――――――――――――――――――――――――――――
「なっ?!満点だと?!しかも二人・・・。」
一次試験の筆記試験を採点していた文官は驚いた。学歴には、どちらも、荒脛巾皇国の登戸研究所の付属校で、研究生をしている、と書いてある。
「あそこ、こんなに基礎学力高かったっけ?」
「我々の知らないうちに、基礎学力が上がっていたのだな。」
「あの第参皇児、相当なキレ者であるに違いない。」
「しかも、ドンザ・ウルス殿の推薦状を持参していたのだが、その中には、二人掛かりとはいえ、我らが玖球帝国の四天王、その一角を無力化した、と書いてある。」
「味方にすれば、これほど頼もしい者はいないだろうが、出来れば、敵に回したくはないな。」
「敵味方関係なく、玖球帝閣下は、強敵と闘えることを悦んで愉しむのだろうが・・・。」
そして、沈黙が支配する。誰もがその光景を容易に思い描くことが出来たからである。
――――――――――――――――――――――――――――――
二次試験の実技試験は、模擬戦形式である。
彼等の相手は、特別な試験官が担うことになった。
「私が、玖球帝国・四天王の一角、狗族のボルゾ・イぞい、だ。普段は、将軍をしている。」
「俺は警備員のケヴィン。偶蹄族出身で、牛頭の戦士だ。」
試験官二人は、かつて玖球帝に捧げた装備、ボルゾ・イぞい将軍は、【ワン公の腕甲】を、警備員のケヴィンは、【牛骨の冠】を、それぞれ貸与されており、一次試験の筆記試験を満点で突破した受験者達を逃すまいという、玖球帝の強い思いを感じる。
「「よろしくお願いします。」」
狗族の方が、ボルゾ・イぞい将軍で、郡山青年の相手を担い、牛頭の方が、警備員のケヴィンで、弓削青年と対峙する。
――――――――――――――――――――――――――――――
「どうした、若いの。来ないのなら、こちらから行くぞ。【犬から狗へ】!」
【狗族】の「ボルゾ・イぞい」将軍は、「犬獣人」や「人狼」の様に、普段の彼は、犬面人であるが、技能【犬から狗へ】により、獣形態として、【人面犬】になる。
だが、それは失策だった。郡山青年は、子供の頃に吠えられた、追い掛けてくる、目の前で同級生が噛まれた、狂犬病が怖い、自宅の前に糞を放置された、等の理由で、どちらかといえば、犬は嫌い。故に、次の手段を行使することに躊躇いはない。
「テオブロミンを経口投与!」
【コンテナ】に収納されていた、緑のフラスコ。その中に入っていた液体を、ボルゾ・イぞい将軍の口内に流し込む。
ボルゾ・イぞい将軍は、のたうち回って、獣形態が解除されて、獣人に戻る。
ボルゾ・イぞい将軍、戦闘不能により、郡山青年は二次試験を突破した。
ボルゾ・イぞい将軍、撃破。
玖球帝国・四天王の一角が瞬殺されたことにより、「科挙」の運営委員会に激震が走ったことは言うまでもあるまい。
漸く、反則級技能に目覚めた主人公。
機械には【パウリ効果】、狗族・猫族には、「テオブロミンを経口投与!」。
また、ブックマークが増えたようで、有り難い限り。
ここまでの読了への感謝を込めて。




