第72話 ねぇ、どんな神経しているの?
主人公は聖人君子でなければならない、という決まりはない、
と思いますが、作中の国家においては、法律の範疇とはいえ、
今回はかなり過激な対処をしているので、苦手な方はご注意下さい。
でも、自分を題材にした創作物が、自分の許可無く出回っていたら、
この主人公達でなくても、キレる理由にはなるかもしれない・・・。
郡山青年と弓削青年は、登戸研究所の付属校にて、ブルクドルフ氏による、言語学の特別講義を受講していた。
荒脛巾皇国の公用語は、荒脛巾語である。荒脛巾語は、日本語と概ね同じだが、例えば、以下に挙げた点のように、幾つかの相違点がある。
・文字は7種類以上:
日本語では、「ひらがな」、「カタカナ」、「漢字」、「ラテンアルファベット」、「アラビア数字」の5種類が使われている。
数学や物理学では、これらに加え、「ギリシャ文字のアルファベット」が使われることがあるが、荒脛巾語では、これらも自家薬籠中のものとして扱われる。
更に、荒脛巾語では、「キリル文字のアルファベット」と、印刷物のみ、独逸の旧字体である、「フラクトゥール」も使われ、一部の業界のみではあるが、ヒエログリフや、梵字や悉曇文字と呼ばれる、サンスクリット語の文字もある。
・旧字体が使われている:
表の世界の日本における「旧字体」が普通に使われており、日本人が普段使っている「新字体」は、その略字として使われている。
・アイヌ語、琉球語由来の単語:
前者は、【蝦夷共和国】で用いられている蝦夷語が、アイヌ語と殆ど同じであり、後者は、【玖球帝国】で用いられている玖球語が琉球語と殆ど同じであるため、【蝦夷共和国】や【玖球帝国】との交易の際は、必須となる。
・名詞に性がある:
ブルクドルフ氏が、母国語の独逸語から導入したという。殆どの単語は、『無性名詞』であるが、例えば、『歩』、『カオル』、『ジュン』、『マコト』、『ユウキ』、といった名前は、男女両方に用いられるということで、『中性名詞』、或いは、『両性名詞』と呼ばれる。
他にも、『剣』、『深夜』、『傭兵』、『猟』等は、『男性名詞』に、『秋』、『網』、『襟』、『鉋』、『波』、『皆』、『床』、『雪』、『弓』等は、『女性名詞』となる。 ゑ?法則が不明だって?そういう場合は、カタカナに直して、それを人名だと思ってみよう。ほら、法則が見えてきただろう?
……何言ってんだ?この爺さんは……。
因みに、大皇が気付いて、「舶来かぶれが。けしからんよ!」と言った時には、既に人口に膾炙しており、後の祭りだったらしい……。
そのブルクドルフ爺さんから、冗句紛いの試験問題が出題された。その内容は以下の通りである。
【問題】部屋の中に、独逸語と、アイヌ語―北海道アイヌ語とする―の母語話者がいる。この二人は、互いの言語を解しないものとする。貴方は、この部屋に入り、自分の名前を名乗ることなく、自己紹介を行い給え。但し、二人に対し、別々の名前を名乗ること。
……。は?実に、意味不明な問題であるが、解答例は以下の様になるらしい。
まず、独逸語による自己紹介は、「Mein Name ist 【自分の名前】.」である。
一方、北海道アイヌ語での自己紹介は、「【自分の名前】 sekor ku=rehe an.」である。
従って、模範解答は、「Mein Name ist sekor ku=rehe an.」となるそうだ。
要するに、独逸語話者には、「私の名前は、セコロ・クレヘ・アンです。」と聞こえ、北海道アイヌ語話者には、「私の名前は、マイン・ナーメ・イストです。」と聞こえるというわけだ。
……本当に何言ってんだ?この爺さんは……。
また、【玖球帝国】内では、【掛詞】とかいう「洒落」の伝統があるらしい……。
……ねぇ、どんな神経しているの?この世界の人々は……。
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また、二人は常井学長が、初等・中等学校向けに地理の特別講義をするというので、研究生として参加する。
本日の講義の主題は、【玖球帝国】。
常井学長は、「【玖球帝国】の名物は何か?」と板書し、生徒に挙手させて、【玖球帝国】の名物を挙げさせ、黒板に列挙していく。
・薩摩芋
・紫芋
・日向夏
・平実檸檬
・ちんすこう
・サーターアンダーギー
・
・
・
etc.……って、殆ど食べ物じゃないか!
これから近い内に【玖球帝国】に行くことになるから参考になるだろう、と言われたから受講したのに……我々は観光が目的で行くわけじゃないぞ!常井君?
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登戸研究所での出来事は、まだ続くぞ……。
常井学長が編集した、郡山青年と弓削青年のサンケベツ村での決闘紛いの模擬戦の映像が、【決闘術】の教材として公開されると、多くの反響があった。
特に、大皇は、
「背中合わせになって、互いの背を守りながら戦う、まるで生き別れの双子のような、二人の友情と絆に感動した!」
「とある神話級の存在に紹介状を書いてやろう!」
とか言い出したらしく、ブルクドルフ氏が、既にその人物?の下へと【転移の鳥居】を繋げていた。
いや、「まるで生き別れの双子のようだ!」とか言われても……。
【転移の鳥居】で転移した先にいたのは、【両面宿儺】だった。医学的見地からは、「結合双生児」で説明できる。
そして、この人達?は、確かに双子ではあるけれども……。
大皇からの紹介状を【両面宿儺】は、二人に加護を与えてくれるという。加護の内容としては、二人の連携攻撃の威力が上がるらしい。
こうして、二人は【両面宿儺】の加護を得たのだった……。
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模擬戦の映像に影響を受けた者は他にもいた。
堀田少年は、普通に感動して、武術の修行を熱心に行うようになっただけなので、まだよしとしよう。
ノワール般若は、何を思ったのか、二人の模擬戦をネタにして、所謂「薄い本」を書いて売り始めたのである。
「オキシトシンが分泌されるニャ~。」
こっちは、ストレスで反オキシトシンが排出されそうだよ……。
……ねぇ、どんな神経しているの?この猫は……。
ノワール般若は、猫の獣人だが、人間がネコ耳を付けている、といった感じではなく、直立二足歩行している、般若顔の黒猫の着ぐるみといった方が近い。中身はウザイが、見た目だけなら結構不気味だ。
このウザイ猫の奇行に【幽者】ユゲタイは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の猫を除かなければならぬと決意した。
彼が【幽離】するほどにキレた理由は、本人曰く、荒脛巾皇国の法律では、要するに、肖像権侵害とか、名誉毀損に相当するから、だと。
新たに研究生になったばかりの弓削青年であったが、それ故に、舐められているのだろう、と考え……【幽者】ユゲタイとして、ノワール般若に決闘を挑んだ。
【縮地】という神速の瞬動によって、零距離に飛び込んだ【幽者】ユゲタイは、ノワール般若の奥襟代わりに、【電気首輪】を掴んで、その機構に侵入し、雷属性の奥義【ガルバノ】で、高圧電流を印加した。
「あばばばば。激しいニャ!激しいニャ!激しいニャア~!」
気絶したノワール般若が目覚めた後に述べた感想として、本人曰く、白銀の髪に真紅の眼となった、【幽者】ユゲタイは、
「常井センセや、帝王サマの十倍は怖いニャ。」
とのことなので、もう二度と二人の模擬戦をネタにして、「薄い本」を書いたり売ったりすることはないだろう。
因みに、「薄い本」は、文字通り薄いので、背表紙からビリビリと破って、ノワール般若の眼前で地面に叩き付けてやった。
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常井氏から、【玖球帝国】に入国する準備が整った、という連絡があった。ノワール般若が祖国に帰省するついでに、案内人として同行する、ということになったのだが……。
「カリフラワー怖いニャ!」
直前に決闘でボコボコにしている所為で、ノワール般若は、弓削青年に怯えているようだ。
敢えて言うなら、学内の推薦枠を競って、ギスギスした大学の同窓と会社で同僚になったときのような気まずさだろうか?
まぁ、怯えていてもウザイのは相変わらずだが。
「今日のキセイは痛いぞ~」
ホラそこ、煽らない。「帰省」に「寄生」する形で、しっかり、【掛詞】になっており、さらに、「薄い本」を書いたり売ったりすることへの「規制」も重ねているのかも知れない……のは確かに凄いが、自分が社交性に乏しい方だという自覚がある、郡山青年にとって、郡山青年にとって、この旅の間ずっと、仲裁役を続けるのは胃が痛くなるので、出来れば避けたい。
「アタイは、コーリヤマを尊敬するニャ。こんなに怖いカリフラワーと仲良くできるなんて、改めてその凄さを認識したニャ。」
「君は少し、黙っていろ!」
ノワール般若からの呼び名が、「研究生」から「コーリヤマ」に昇格した理由は、本猫曰く、二人とも研究生なので紛らわしいから、ということらしいが、敬意の欠片も無いのは相変わらずなので、ただただ非常にウザイ。
こんな調子で【玖球帝国】に出発するのであった。
創作物を執筆する際は、ノワール般若のようにならないように、
反面教師にしましょう。ところで、歴史上の人物が女体化したり
している創作物を本人が見たらどう思うんでしょうねぇ。
普通に斬り捨てられたりするんじゃないかなぁ・・・。




