第71話 【七辻】と【蛇窪遺跡】
地名について。表世界の日本の地名が『』表記、
裏世界の荒脛巾皇国の地名が【】表記。
ここ、荒脛巾皇国版の川崎市―橘樹群―は、技術官僚が統治する工業都市であり、特に、橘樹群稲毛領は、モノレール大国だ。
表の世界の日本の川崎市でも、川崎市営地下鉄計画は有名だが、これに加えて、更に遡ると8の字モノレール計画というものがあった。
こちらの世界では、件の8の字モノレールは既に運営されている。そのモノレールの名称をここでは、仮に【タウンライナー】と呼ぶことにする。
加えて、川崎市営地下鉄が、玖番道路に沿った、「川崎~日野」間と、川崎市と相模原市を結ぶ、「川崎~上溝」間という、経路があり、地下鉄ではあるが、モノレールの車両を融通しており、モノレール地下鉄という呼び方が相応しいかも知れない。
当然、モノレールや地下鉄なので踏切はないし、全駅フルスクリーン型のホームドアが完備されているので、人身事故は殆ど皆無である。
ここでは、仮に、前者を【玖番道路線】、後者を【川崎相模原線】と呼ぶことにする。
また、表の世界の日本の生田緑地と向ヶ丘遊園跡地と東高根森林公園を足し合わせたような領域に、こちらの世界では、蛇蝎森林公園がある。
そして、【稲田登戸】駅―『向ヶ丘遊園』駅に相当する―と蛇蝎森林公園には、登戸研究所関連の施設があり、両者を結ぶ、稲田登戸~蛇蝎森林公園間のモノレールが存在する。それをここでは、仮に、【登戸研究所線】と呼ぶことにする。
かつては、表の世界の日本にも、遊園地までのモノレールがあったが、今は廃線になっている。それとは、多少経路は異なるものの、概ね、同様の経路をこのモノレールは走っている。
表の世界の日本における『東名高速道路』は、その径路に多少の差異こそあれ、【上馬】←→【瀬田】←……→【犬蔵】という径路で、モノレールになっており、やがて、この【登戸研究所線】を吸収した、という経緯がある。
急行は、【瀬田】と【犬蔵】の中間を飛ばす直線的な径路を走行し、【登戸研究所線】は、これに分岐する形で蛇行し、【宿河原不動】、【稲田登戸】、【登戸研究所】を経由する。
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政治結社【草茅危言】の基地の最寄り駅である、【宿河原不動】駅から、モノレールで一駅分の【稲田登戸】駅まで、徒歩約30分前後を歩く。
【玖番道路線】下り方面:
【稲田登戸】→【生田浄水場】→【大丸】→【多摩一宮】→……
【稲田登戸】駅は、【玖番道路】と【参番道路】が交わり、登戸研究所関連の施設、及び、付属の学校が多数、これらに加えて、モノレール【登戸研究所線】が走っているという、いわば「学園都市」なのだ。
【生田浄水場】駅―表の川崎市の『土淵』付近―は、「生田浄水場」の最寄り駅だが、時系列的には、この浄水場は、表の川崎市では、やがて廃止されてしまう。
しかし、裏の川崎市では、未だ初等学校や中等学校の社会科見学の定番であり、多くの登戸研究所関連の陰陽術士や魔導科学者を擁する、現役の浄水場である。
少し離れているが、次の【大丸】駅は、現実世界の『南多摩』駅の旧名称である。
その次の【多摩一宮】駅は、現実世界の『聖蹟桜ヶ丘』駅や、未成線である、南津電気鉄道の「多摩一の宮」駅に相当する。
旅客運送は、この【多摩一宮】駅までで、以降は、日野駅まで貨物運送となっている。
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郡山青年と弓削青年の二人は、基本的には、研究生として所属している、【登戸研究所】と、宿代わりにしている、政治結社【草茅危言】の基地の間を行き来している。
勿論、【蝦夷共和国】から帰還して直ぐに、【玖球帝国】で素材の蒐集…というわけにはいかない。何故なら、国家間の関係を鑑みると、それなりに複雑な手続きを行う必要が生じるからである。
だが、【登戸研究所】は、この地の【都市探索協会】の役割を兼ねているため、薬草や鉱石などの素材蒐集や害獣駆除といった、陰陽術士や魔導科学者用の常設依頼が、構内掲示板に貼られている。
講義や実習がない時は、金策や暇潰しに、こうした依頼を受けたり、魔導科学や刻印術で、魔道具を作成したりして、日々を過ごしている。
今日は、都市探索のため、二人で荏原郡まで遠征しよう、ということになったわけである。
・【稲田登戸】駅から、【玖番道路線】上り方面:
【稲田登戸】→【溝口】→【等々力緑地】→【工業都市】→【新川崎】→【川崎】
【溝口】駅は、【玖番道路】と【肆番道路】の交差する、現実世界の川崎市の『梅林』付近に存在し、史実では未成線となった、相武電気鉄道に乗り換えることが出来る。
相武電気鉄道は、【溝口】、【馬絹】、【荏田】、【鶴川】、【淵野辺】、【上溝】となっており、史実の設置予定駅よりは、少なくなっているが、【上溝】駅にて、川崎市営地下鉄の【川崎相模原線】と合流する。また、史実の東京方面の設置予定駅のうち、【代田】駅は、【第漆號地下鉄】に吸収される形で設置された。
【等々力緑地】駅は、現実世界の川崎市の『小杉十字路』付近に存在し、こちらの世界線では、【轟闘技場】という、表の川崎市における、「等々力競技場」に相当する闘技場がある。
また、この駅から、川崎市営地下鉄の【川崎相模原線】の方面が分岐する。その駅を列挙すると、【野川】、【馬絹】、【犬蔵】、【蔵敷】、【長沢】、【新百合ヶ丘】、【黒川】、【永山】、【多摩中央】、【唐木田】、【小山田】、【相模原】、【上溝】である。
先に、【玖番道路線】上り方面の解説を終わらせてしまおう。【等々力緑地】駅の次は、【工業都市】駅である。現実世界にも同名の廃駅があるが、こちらでは現役の駅であり、【玖番道路】と【弐番道路】が交わる、表の川崎市の『市ノ坪』付近に存在する。
【工業都市】駅の次は、【新川崎】駅だが、現実世界の同名の駅とは位置が異なり、【玖番道路】と【壱番道路】が交わる場所にある。
その【新川崎】駅の次が終点【川崎】駅であるが、これも現実世界の同名の駅とは位置が異なり、【玖番道路】と【伍番道路】が交わる場所にある。史実の廃駅である、『六郷橋』駅の方が近いかも知れない。【川崎】駅以降は、延伸を検討中らしい。
続けて、今度は、【等々力緑地】駅から分岐する、【川崎相模原線】の方面の解説をしよう。【等々力緑地】駅の次は、【野川】駅で、この世界の川崎市の北部【橘樹郡稲毛領】の行政の中心である、橘の最寄駅でもある。
【野川】駅から乗り換えられる路線には、【新奥沢】、【蛇窪】、【万世橋】、【飯田町】、……と続く、行政上重要な駅を結ぶための鉄道もある。
【野川】駅の次は、【馬絹】駅となっており、史実の川崎市営地下鉄との違いは、『宮前平』駅の代わりが、この【馬絹】駅で、場所も【肆番道路】と交差する位置となっている。ここで、相武電気鉄道にも乗り換えられる。
【馬絹】駅の次は、【犬蔵】駅で、現実世界の『東名高速道路』の代わりに、モノレールが存在しており、その乗換駅でもある。さらに、【蔵敷】駅、【長沢】駅、【新百合ヶ丘】駅、【黒川】駅、【永山】駅、……と続いていくが、史実よりも駅数が減っていることに気が付くであろう。
【永山】駅の次は、【多摩中央】駅で、現実世界の『多摩センター』駅に相当する。さらに、【唐木田】駅、【小山田】駅、【相模原】駅と続き、終点の【上溝】駅に至る。
さらに、【上溝】駅以降も、【本厚木】駅まで延伸予定があり、本厚木方面からは、【本厚木】、【戸室】、【妻田】、……といったように、暫くは【肆番道路】沿いに駅が設置される予定となっているそうだ。
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今回は、【溝口】駅で降りて、【肆番道路】を北上し、【多魔川】―『多摩川』―を渡ろう。この川は、屡々、【双子玉川】―『二子玉川』―の地を襲う。
従って、裏の日本では、この地に高級住宅街が存在するなどは、有り得ないため、【第捌號地下鉄】の駅は、もう少し北上する必要があり、表の日本では、五叉路になっている『瀬田交差点』付近に、【瀬田】駅がある。
・【瀬田】駅から、【第捌號地下鉄】上り方面:
【瀬田】→【上野毛】→【新奥沢】→【新蒲田】→【蒲田】
【第捌號地下鉄】は、【捌番道路】に沿っており、【新奥沢】では【弐番道路】と、【新蒲田】では【壱番道路】と、終点【蒲田】では【伍番道路】と交わっている。但し、現実世界とは少し位置が異なっており、例えば、【新奥沢】駅は、現実世界の『田園調布』や『雪が谷大塚』辺りである。
終点【蒲田】で、【第捌號地下鉄】を降車し、【伍番道路】を南下すると、例の【七辻】という七叉路がある。ここで、夕方まで待ち、逢魔刻に異界渡りが可能か、検証してみたが、豚人間族、或いは、それが憑依した一族しか転移できないだろう、という結論に達した。
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その頃、登戸研究所では、常井学長が【決闘術】の映像教材を編集していた。
彼は、所謂動画職人である。
但し、普通の動画ファイルではなく、魔道具によって、記憶を弄るので、心得のない素人が編集するのは危険が伴うのだが。
その動画の内容とは、以前に、サンケベツ村において、郡山青年と弓削青年の二人が、決闘紛いの模擬戦をした際の映像である。
当時、ブルクドルフ氏と常井氏は、鏡の魔導具を用いて、生中継で観戦していたが、その試合は、まさに【別次元の領域】であった。
当初は、序盤にやられる一方だった郡山青年にとっても、最後に魔力切れで敗れてしまった弓削青年にとっても、あまり第三者に見せたい演武ではなかったのだが、これは、未来の陰陽術士達や魔導科学者達のため、参考資料として、大いに活用すべきであろう、と二人に力説したところ、【決闘術】の講義に教材として用いることを渋々同意した。
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一方、【七辻】での検証を終えた二人は、今度は、逆に【伍番道路】を北上し、【漆番道路】と交わった辺りで、【第漆號地下鉄】には乗車せずに、表の日本における、『大森』から『馬込』へと向かうが、連中が憑依していたという、国司の末裔の一族は住んでいなかった。表の日本の話なのか、それとも連中がついた出鱈目な嘘かも知れない。
【漆番道路】と【壱番道路】の交差している場所にある、【第漆號地下鉄】の駅の名前は、【蛇窪】駅という、表の世界の日本では、既に喪われた地名が使われており、ここが異界である、ということを改めて痛感する。
時刻は既に夜。【蛇窪】駅から【壱番道路】を北上し、【荏原三角商店街】の宿屋で一泊する。
宿屋は、晩飯と朝食込みで銀貨3枚。現在の残高は、金貨82枚、銀貨38枚、銅貨1枚。
「結局、【七辻】では転移出来なかったな。」
「連中のみの特殊能力なのか、或いは、他に何か条件があるのかも知れない。」
「国司の末裔の一族についても、真偽は不明だしな。」
「ここは、日本とは平行世界にある異界なのだろうな。元の世界では残っていない【蛇窪】という地名が使われていたりするし。」
「【蛇窪】といえば、【荏原三角商店街】のアーケード街で構成された、三角形の中心にあるダンジョン、【蛇窪遺跡】に入ったことはあるか?」
「以前、常井学長と一緒に、最初に【荏原三角商店街】に来たときは、そういう話を聞いただけで、入ったりはしなかったな。当時はまだ、この世界に来たばかりで、式神も手に入れてなかったし。」
「今は、式神を何体連れているんだ?」
「黒キ楯に吸収された、メデューサ・ゴルゴンを含めて5体かな。」
「俺も、十年間でかなりの式神を眷属化したが、確かに常日頃連れて歩いているのは、3体から5体ぐらいだな。俺達二人なら余裕だろうし、明日は探索してから帰ろうぜ。」
「そうだな。でも俺達だけじゃあの連中には敵わなかった・・・。」
「確かに、戦力不足なのは否めないな。玖球帝国では、俺達と組めそうな仲間を探してみるのもアリかもな。」
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そして翌日。【蛇窪遺跡】は、その名の通り、蛇に関する魔獣や魔物が多く出現するようだ。
だが、既に二人とも【八岐大蛇】の加護により、付与された【蛇語上級】によって、蛇の声が聞こえるため、その居場所はバレバレ。バジリスク等の魔眼による、石化能力を帯びた蛇睨みも、郡山青年の鏡ノ楯で反射する、という反則みたいな方法で攻略した。
入手した戦利品の【義眼型レーザーポインター】は、魔素の存在しない表の日本では、ただのクラス4のレーザーポインターに過ぎないが、魔素の存在するこの世界では、石化能力を付与出来るらしい。
弓削青年は、どうやらこれを【餓者髑髏】に装備させるようだ。その【餓者髑髏】は、常井氏の影響を受けているらしく、【荏原三角商店街】で「ガチャ」を回しまくっていた。これはもう、【餓者髑髏】ではなく、「ガチャ髑髏」と呼ぶべきかも知れないな。
とはいえ、【荏原三角商店街】へ来たのに、収穫なしで帰るのも如何なものかと思ったので、以前と同様、銀貨8枚の予算の範囲で、ガチャを回して集音器を入手したり、銀貨1枚均一の店で十徳ナイフを買ったりした。
現在の残高は、金貨82枚、銀貨30枚、銅貨1枚。
以前、常井氏から、報酬として、【登戸研究所】の食券の束や、各種鉄道の半年分の定期券、等を貰っている。
定期券の有効範囲は、【川崎市営地下鉄】の【玖番道路線】と【川崎相模原線】の全区間、『東名高速道路』の代わりのモノレール。
そして、【第漆號地下鉄】の【大森】から【野方】までと、【第捌號地下鉄】の、【蒲田】から【井荻】まで。
上記以外の鉄道も存在しているらしいが、それらに関しては、この定期券の対象外のようだ。
【蛇窪】駅から、【第漆號地下鉄】に乗る。
【第漆號地下鉄】下り方面:
【大森】→【蛇窪】→【長原】→【上馬】→【若林】→【代田】→【方南町】→【高円寺】→【野方】
【第漆號地下鉄】は、【漆番道路】に沿っており、【蛇窪】では【壱番道路】と、【長原】では【弐番道路】と、【上馬】では【肆番道路】と交わっている。
【上馬】駅で降りて、モノレール下り方面に乗り換え、【肆番道路】を南下し、【第捌號地下鉄】の乗換駅である【瀬田】駅を過ぎて、【多魔川】を渡り、【宿河原不動】駅から、政治結社【草茅危言】の基地へ帰還。
こうして、【七辻】と【蛇窪遺跡】の探索は終了した。
架空鉄道のネタには、廃線・廃駅や未成線を使用。




