第69話 【クロック・ザ・クロック】
本章の段階では、まだ終わりません。
ゲームでも、最終ボスが、初お披露目で倒されないのと同じ。
題名の【クロック・ザ・クロック】の命名の由来は、
時計を意味する英語「clock」と、
ハイパーヨーヨーの「ループ・ザ・ループ」から。
豚野郎共の首魁が、その真の名の下に、「時計の地上絵」の魔方陣を描いた。
「時計よ時計、俺様の邪魔をする者は誰だ?その身の程知らずな者の時を止めよ。【クロック・ザ・クロック】!!」
「時計の地上絵」の魔方陣の効力が発動すると、背中合わせに立った【蝙蝠山卿】と【幽者】ユゲタイの二人の周囲の時間は、完全に停止したわけではないが、時間の進みが遅くなり、空間は、まるで水飴のように重たくなった。
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二人とも、背中合わせのまま、両手・両足を動かすことが出来ない!
会話も難しいし、会話出来たとしても、敵に盗聴されては意味が無い。
二人は、前腕にある【アンダの誓い】、二人の絆を象徴する刻印に魔力を流し、【思念共有】を行う。
以下、二重括弧による会話は、【思念共有】によるものである。
『【クロック・ザ・クロック】の詳細は不明だが、どうやら、時属性の技能のようだ。』
『属性は、火、氷、雷、鏡、影、核、毒だけじゃないのか?』
『誰だそんな教え方をしたのは!嗚呼、師・ブルクドルフか……。さもありなん。無属性の分類は学者や学派によって、結構定義に差があって、他にも音属性や、幻の時属性があるな。』
『音属性?に、時属性が幻って……?』
『音属性は火を消したり出来るらしい……。絵画や彫刻が空間の芸術だとすれば、音楽は時間の芸術だということで、時属性に分類する場合もあるが……。時属性が幻だと言われるのは、失伝して、喪われた古代魔法の類だからさ。』
『この技能を打ち破る方法は……?』
『描かれた、時計の地上絵を打ち消すことが出来れば、それが最善だろうが、魔方陣が発動して、両手・両足を動かすことが出来ない現状では為す術が無いな。』
『もはやこれまでか……。』
『悪いな。俺と連中の因縁に君を巻き込む形になってしまってよ……。』
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「ワッハハハッハッハ~♪嬲り殺しにしてやるぜ~」
だが、そのとき、嗤っていた豚野郎共の首魁の背後に赤と緑の稲妻が落ち、魔方陣に罅が入る。
【クロック・ザ・クロック】は、結界の内部の動きは制御できるが、結界の外側からの攻撃までは防げないようだ。
「赤と」
「緑の」
「「キョウエン!!」」
落雷は、地上で赤と緑の炎へと変わり、時計の地上絵を燃やしていく。そして赤と緑の炎の中から、ブルクドルフ氏と常井氏が姿を現す。
赤はブルクドルフ氏の魔力色、緑は常井氏の魔力色であり、「キョウエン」は、「共演」と「饗宴」を掛けている。
そう、この【赤と緑のキョウエン】という技能は、玖球帝国の【朱雀鳳凰】種の鳥人、スサノオ・ニーチェの十八番である。
ブルクドルフ氏と常井氏の師弟コンビという、歴戦の猛者でさえ、二人がかりで発動する大技を一人で発動できてしまうスサノオ・ニーチェの魔力量が如何に規格外かが容易に分かるであろう。
二人とも、登戸研究所の【決闘術】の実習に使う闘技場で、鏡の魔道具を使い、郡山青年と弓削青年の二人の様子を見ていたのだが、「元教室長一派」の正体が、豚人間族であると判明したとき、その危険性を鑑みて、こうして馳せ参じたというわけである。
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「スミマセン、助かりました。救援感謝します。」
「申し訳ない師匠。手を煩わせてしまって。」
悔しそうな【幽者】ユゲタイ。
「いや、君達は連中を相手によく戦った。本当によく頑張ったな。後は我々に任せて、少し休みたまえ。」
常井氏は健闘を称える。
「君が危惧していた、サンケベツ村の住民達だが、既に避難を完了しており、全員無事だ。」
【幽者】ユゲタイが、事前に連絡を入れていたらしく、ブルクドルフ氏が、サンケベツ村の住民達を避難させていたようだ。
助太刀に来た二人は、豚野郎共の頭目と対峙する。ブルクドルフ氏は、顔の皺の一つ一つに怒りが刻まれていた。
「この世界の住人の一人として、君達の暴挙に厳重に抗議する。外道、邪法、実にけしからんよ!」
続いて、常井氏が警告を発する。
「荒脛巾皇国第参皇児として、貴様等に警告する。私はこの二人のことを弟の様に思っている。我々、荒脛巾皇国の皇族と事を構えたくなければ、直ちに投降したまえ。」
これには、流石の豚野郎共も、警戒せざるを得なかったようだ。
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両陣営が睨み合うこと数分。
豚野郎の手下二人が、何らかの工作を終えたようだ。
「お頭ァ、準備ができやした!」
「よ~し、撤・退・だ~。【テッタイン】飲むぞ~!」
「「応!!」」
巨漢である豚野郎が、【テッタイン】と呼ばれた謎の薬品が入った、発酵乳飲料サイズの小さな瓶を飲み干す、という滑稽な光景が披露され、飲み終えると、連中は、【汚泥スライム】に変化し、下水に逃げ込む。
直後、赤、緑、青、紫の稲妻が、連中のいた空間を切り裂くが、既に、そこには何も存在してはいなかった。
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サンケベツ村が、隕石を投下されて、廃墟になってしまったので、四人は、政治結社【草茅危言】の蝦夷共和国における拠点に戻った。
「さて、豚人間族の連中だが、恐らくこの世界の住人ではない。そして、君達二人が元いた世界の住人でもないだろう。第三の異界からやって来た、第三世界の連中である可能性が高い。」
転移に関して詳しい、ブルクドルフ氏がそう語るのだから間違いあるまい。
「連中に関しては、指名手配という扱いとなる。一応、獣人である可能性も考え、玖球帝国側にも住民票との照会を頼むことになるだろうが、その可能性は低いだろうな。」
ジャガイモの芽みたいな寄生植物との共生とか、【汚泥スライム】に変化したりといった点から、普通の獣人ではないだろう、と常井氏も考えているようだ。
「ところで、素材の蒐集の方は済んでいるかね?」
蝦夷共和国で入手すべき素材一覧にあった、素材の蒐集に関しては、完了している旨を伝えると、
「今回は君達も、荒脛巾皇国の大皇に謁見して、報告しよう。蝦夷共和国のサンケベツ村の住民達を救った、英雄として。」
「今回は、俺達は連中を仕留め損ないました……実力不足でした。」
「今回の任務は、あくまで『生態系の異常に関しての調査』だからな。その任務に関しては、既に完了している。でも、君達は成長の余地がある。まだまだ伸びしろがある、ということさ。次は、玖球帝国で素材の蒐集だな。」
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その後、荒脛巾皇国の大皇から、蝦夷共和国での任務完遂の報酬として、二人とも、金貨50枚と臨時の爵位を伯爵相当にまで昇格することとなった。
更に、【幽者】ユゲタイも、【登戸研究所】の【研究生】となった。また、彼も、【象牙の塔】地下8階【光庭】に行き、【八岐大蛇】の加護を習得したらしい……。
既に、伏線になっているのですが、実は、主人公は、
【クロック・ザ・クロック】を破る手段を既に持っています。
今はまだ、その真価に気付いていないことと、
今回は、初見だったので防げなかっただけ。
次回は、第漆章のまとめ。




