第67話 断ち切る勇気
黒幕達の主張は、現実にも同様のことを主張する人がいるので、
一見すると、正しいように聞こえる部分もあるかも知れないけれど、
よくよく考えると、間違ったことを言っていることに気付く筈・・・。
時空に穿たれた亀裂の狭間から放たれた鉄砲水は、禁呪によって生成された毒瓦斯を加水分解することにより、直ちに無力化することに成功する。
「いつもの冷静な君は何処へ行った?かつては激昂しやすい俺を上手く統御していたあの日の君は?どうやら、昔の我々の関係は逆転してしまったようだな?」
昔はキレ易い郡山少年を、冷静な弓削少年が補助していた。だが、今の二人の関係は、vice versa―「或いは、その逆」―。
「クッ、俺もまだまだだな。まさか君に感情の制御について指摘されるとは……」
或いは、生成された水が頭を冷やしてくれたのかもしれない。
「十年前のように一人で先行しないでくれよ。」
「あのときは、どうしても君を巻き込みたくなかったんだ。君の野望に秘められた、崇高な信念に気付いてしまったからな。」
「だが、その野望は一人で達成することは出来なかった。それに、若し、また君を永遠に喪う羽目になったら俺は……。」
「ああ。奴を一人で斃すのは難しそうだ。今度は組んで掛かるぞ。」
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「ハハハッ。もう、相談はおしまいか?郡山よォ。テメェも俺様に刃向かう気か?十年前は俺にビビっていた弱いお前が?」
元教室長―今は「XRTVWG」と名乗る、豚野郎―が挑発するが、過去に虐待された恐怖を断ち切った【蝙蝠山卿】は、動じない。
「その声を聞くのも久しぶりだけど、他人の外見を揶揄するなんて、相変わらず、教育者として最低だな。反吐が出るぜ。」
―――「お前痩せてんなぁ。」と言われたから、太っている人間を憎むようになった。
―――「声が小さいぞ!」と怒鳴られたから、声が大きい人間を憎むようになった。
―――「ヘラヘラしてんじゃねぇ!」と虐待されたから、大学で行った性格診断で、「感情表現の苦手な子」とか、「自己肯定感に乏しい」と言う結果が出た。
猜疑心が強くなり、大人を信用できなくなった。殆ど全部コイツらの所為だ。
「だからよォ、俺達は教育者じゃねぇから何やったっていいんだよ、って、言ってんだろが!それとも、弱~いテメェ如きが、俺様に意見するってんのか?あ"あ"ん?」
「弱い?人間は全て弱い。人間の強弱なんて、環境や条件に左右される、五十歩百歩の誤差に過ぎない。俺達はこの10年で成長し、アンタらはその10年分年老いた。十年前の過去の強弱が、現在も、或いは、未来永劫そのままなんて有り得ないんだよ。では、逆に問おう。貴様にとって強さとは何だ?」
「は?」
「答えられないか?そうだろうな。ならば、教えてやる。強さとは『決意』、『意志』の力は不可能も可能にする!」
「馬鹿か、テメェ?!俺達のが権力があるから、暴力も振るいたい放題なんだよ。あ"あ"ん?人を殴ったときに拳に伝わるあの反動、ガキ共が勝手に俺様が権力のある教師だと思い込んで、俺様に反撃できず、殴られ放題の奴の裏切られたような表情を見たときのあの快・感♪グフフフフ。俺ら教師が全員、聖人君子だとでも思っていたのかね?そして、この悪夢がいつ終わるのかという、絶望に満ちた表情の面ァ!最高だァ!!そうだ、俺様が気持ちイイから殴ってんだよ!」
正直、ドン引きである。コイツの性癖のために、何人の無垢な小学生が犠牲になったのだろうか。
ここまで暴力によって他者を屈服させる事に昏い悦びを覚えた者は、人肉の味を覚えた羆と同様に、決して元の人間性を取り戻すことはないだろう。
とんでもない危険人物だ。未来ある子供達のためにも、コイツらとは、ここで決着を付けなければならない。
「気に入らねぇって顔してんなぁ。だったら、お前らも気に入らねぇガキを殴るために、教師にでもなったらいいだろうが?俺達がお前らに体罰をくれてやったみてぇによ。そうやって、『暴力は連鎖する』んだよォ!」
郡山青年も教職課程を履修している。教師になるかはまだ分からないが、そんな酷い志望理由は聞いたことがないぞ?
「『体罰』という名の『虐待』は、この世からなくすべきものだ。暴力で他者を従わせるのは、貴様に指導力が無いからだ。自分の復讐心を自分より弱い者にしか向けられない卑怯な貴様が、『暴力は連鎖する』だと?それは、『断ち切る勇気』が無いからだ!」
「オゥオゥ!テメェも俺達が憎いか?お前の親友を奪った俺達に復讐でもするか?そこにいる、お前のオトモダチだって、復讐なんて望んでいやしないよなァ?!」
「分かっていないのは貴様等の方だ。この俺に復讐の愉しさを教えたのは、彼に他ならないのだからな。」
「そいつにも言ったが、この世界には、お前の戸籍は無ぇ。殺人罪で俺らを裁くことはできねぇから、お前を殺しても俺らは無罪なんだよ。」
「俺達二人をこの世から完全に消すとかほざいているらしいが、そのために態々、こちらの世界まで追ってくるとはな。【ストーカー先生】とでも呼んであげようか?だが、そうやって我々に殺意を向けて攻撃した時点で、正当防衛が成立する。当義殺がな。」
「ハッ。庇い合いが好きな奴等だ。それならまとめてコンクリートに埋めてやるよ!」
ここに、十年前の因縁の関係者が全て揃ったことによって、連鎖する暴力を断ち切るための戦いが、再び始まるのであった。
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豚野郎となった、元教室長は、魔眼を発動した。
「【射竦みの魔眼】、【自動重圧】!」
周囲の空気が、まるで水飴のように重くなる。だが、
「はじき返せ、鏡ノ楯!」
【射竦みの魔眼】は、鏡ノ楯によって反射され、元教室長は、腰を抜かした。
「おのれぇえええええ!野郎共、殺っちまえ!!」
「「押忍!!」」
今度は、講師Aと講師Bが襲ってくる。そういえば、脳筋塾の講師陣には、不自然に体重も80kgから100kgぐらいの脂肪の塊みたいな者が多く、陰では、【デブ世界】等とも揶揄されていたが、その理由は、彼らの正体が豚野郎だったからなのか。
「気絶しろ!気絶しろ!気絶しろ~っ!」
「顔よ、曲がれ!顔よ、曲がれ!顔よ、曲がれ~っ!」
バットの先端から桃色の光球が生成され、光線となって発射される。
「鏡ノ楯よ、全ての攻撃を反射せよ!」
桃色光線を鏡ノ楯によって反射され、気絶の呪文を唱えた方は、あっさり気絶し、もう一方は……
「顔が曲がっちゃったよ~。こうなった~のは、お~前のせいだ。こうなった~のは、お~前のせいだ。こうなった~のは、お~前のせいだ。こうなった~のは、お~前のせいだ。ど~してくれる~?!ど~してくれる~?!ど~してくれる~?!ど~してく・れ・る~う↑ ~?!」
実際に、顔が曲がって、陥没していた。
「「…………。」」
復讐者二人は呆れて言葉も出ない。いや、自業自得だろう、と。
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取り敢えず、顔が陥没した方の豚野郎の泣き言があまりにも五月蠅いので、【幽者】ユゲタイは、【陰陽術】で生成したヒヒイロカネの鎖を、【錬金術】で有刺鉄線に変えて、縛り上げ、
「【高圧電流印加】!」
高圧電流を印加して、失神させた。
「どうやら、形勢は逆転したようだな、元教室長?」
かつて教室長だった、腰を抜かしたままの豚野郎に二人の復讐者が左右からにじり寄っていく。
「に、2対1とは、せ、正義の味方としては、ひ、卑怯だとは思わないか?で、では、俺の相棒も紹介しよう。頼みますよォ、センセェ!」
この意地汚い豚は、自らの形勢の不利を悟ると、ビビりながらも、野球のバットみたいな杖を、山の如く積まれた【コンテナ】の山に向けて、桃色の光線を発射した。
そして、【袈裟懸け】が、復活した。
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だが、復活した【袈裟懸け】の様子がおかしい。
「ニンゲン……人間ヲ、喰イタイヨ!」
最初に、反射光線で気絶した豚野郎へと向かい……
「オマエ、ウマソウダナ。」
丸呑みにした。次に、縛られていた有刺鉄線が収納された後も、高圧電流によって失神し続けている豚野郎に向かい……
「ハラ、ヘッタ……。」
また、丸呑みにした。続いて、未だ腰を抜かしたままの下の下の豚野郎に襲い掛かった。
「や、やめろ~俺らは味方だろうがぁあああああ~!!」
「エサ、クレナイ。約束、チガウ。」
やっぱり丸呑みにした後、最後にこちらを振り向き……ニヤリと笑った。
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「来るぞ!」
「奴は俺に戦わせてくれ。一対一で。頼む。」
【幽者】ユゲタイは、【袈裟懸け】との一対一の対決を望んだ。
「一対一、って正気か?二人で組んで掛かるんじゃなかったのか?また、一人で先行しないでくれ。若し、また君を喪ったら……。」
「心配するなとは言わないが、犠牲になるつもりは毛頭ない。寧ろ、ある意味では、あの妖は、かつての俺の敵を討った、という見方が出来ないか?だからこそ、俺は奴を眷属化して、己の式神にしたい。」
だが、【袈裟懸け】は、空気が読めないのか、【蝙蝠山卿】に爪の一撃を繰り出す。
「受け止めろ、黒キ楯。」
力の差で弾き飛ばされる。【袈裟懸け】の連撃。
「受け流せ、黒キ楯!」
楯を傾けて、今度は力を受け流す。だが、【袈裟懸け】の攻撃はまだ続いている。
「振り払え、黒キ楯!」
片足を軸に廻転し、【袈裟懸け】と距離をとることに成功する。
「翼ノ楯に変形!」
【蝙蝠山卿】は、黒翼が生えた楯を背負って飛翔し、
「くっ、後は任せるぞ、相棒。」
【袈裟懸け】との一対一の対決を所望する相棒に後は任せることにした。
この小説は、様々な作品の影響を受けていますが、
元ネタ自体が何らかのオマージュである場合、
作者は元ネタの元ネタまでは、把握できていないかも。
勿論、元ネタが殆ど分からないぐらいのレベルにまで
変形させた上で、混ぜてはいますが。




