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別次元の領域(2021年版)  作者: 草茅危言
第陸章 サンケベツ村編
66/120

第66話 暴力は連鎖する

黒幕達の台詞には、下品で暴力的な内容が含まれます。


連中の台詞に関しては、中学受験の塾や、中高一貫校、

予備校、大学や専門学校等、様々な場所で聞いた台詞を

混ぜていますが、正直、文字にすることさえ不愉快な

レベルの彼らの台詞に込められた真意に関しては、

理解しかねるため、作者自身の独自の解釈も混ざっています。


上記の内容が苦手な方は、閲覧の際、ご注意下さい。

 【袈裟懸け】が、襲い掛かってくる。


「ニンゲン……人間ヲ、喰イタイヨ!」


 対して、【幽者】ユゲタイは、以前と同様の手段を試みる。


「【コンテナ】を召喚!」


 3[m(メートル)]×4[m(メートル)]×5[m(メートル)]の直方体が、【袈裟懸け】の上空に出現し、重力によって【袈裟懸け】の上に落下。その重量で(もっ)て、【袈裟懸け】を押し潰して、圧殺……する(はず)だった。


「グォオオオオオ!」


 【袈裟懸け】は、後ろ足で立ち上がり、前足で【コンテナ】を支え、持ち上げると、【幽者】ユゲタイの方に向かってそれを投げつける。


 【幽者】ユゲタイは、【逃げ水】で後方に飛び退いてこれを(かわ)す。そして、再び四足歩行となった【袈裟懸け】が、飛び掛かってくる。


「人間ヲ、喰イタイト、心カラ、ソウ思ウ。」


「今度こそ潰れろ、この食人野郎(カニバリスト)!」


 今度は、【コンテナ】を多重召喚する。【袈裟懸け】は、複数の【コンテナ】を避けきれず、複数の【コンテナ】の重量を支えることも不可能。今度こそ、潰れてしまっただろう。


 アイヌ語で、(ヒグマ)は、「山の神(キムンカムイ)」と呼ばれるが、人肉の味を覚えた(ヒグマ)は、「悪しき神(ウェンカムイ)」と呼ばれ、この【袈裟懸け】も、「悪しき神(ウェンカムイ)」に相当する。


――――――――――――――――――――――――――――――


 【袈裟懸け】を潰した【幽者】ユゲタイは、再び、元教室長一派と対峙する。憎悪を滾らせながら。


「あ~あ。折角お前の臭いをここまで追ってきた、【袈裟懸け】サンがやられちゃったよ~」


 確かに、熊は、犬以上に嗅覚が鋭い―象、豚、鼠等も該当する―が、まさか、表の世界の自分とは容貌の異なる【病みエルフ】と【幽合】した【幽者】ユゲタイを同一人物として特定するとは。これもやはり、【袈裟懸け】の持つ何らかの特性によるものだろうか。


「貴様等が娼館を経営していたことは知っていたが、まさか、食人(カニバリズム)まで行っていたとはな。」


「娼婦だけじゃねぇぜ。使えない下僕とか、邪魔したり敵対した奴とか、全部、地下室に飼っていた【袈裟懸け】に喰わせてたからな。」


「性の商品化、食人……初めて会ったときから思っていたが、貴様等人間じゃねぇ!その悪事をもう、これ以上看過することは出来ない。貴様等の血で(もっ)て、その罪を(あがな)わせてやる!」


「アッハッハッハッハ。何そんなに怒ってんだよ?ガキがイキがってんじゃねぇよ。人間なんざ、耐用年数80年から100年の有機化合物に過ぎないんだよ。それに、どうせ、お前ら若いモンは、遅かれ早かれ、俺達に搾取される運命なんだよ!そいつが生きた証として、俺達の糧にしてやっているんだから感謝しろよ?」


「それに、『日本を腐敗させる』だぁ?笑っちゃうねぇ。俺達は少子化対策に貢献してやっているんだよ。人間の三大欲求と言えば、食欲、睡眠欲、そして『性欲』だろォ?もっと、自分の欲望に忠実に生きようぜぇ~っ?!」


「食欲と睡眠欲の2つは満たされなければ死ぬが、性欲は統御可能だろう?それに、人間の生きた証は『記憶』だ。『遺伝子の継承』じゃない。それとも、三大欲求を貴様等が性欲を統御出来ないことへの免罪符にでもするつもりか?!」


 郡山青年も弓削青年も、性嫌悪症気味の思想を持つが、その原因の殆どは、完全にコイツらの下世話な猥談を中学受験生の頃にさんざん聞かされ続けた所為(せい)である。


――――――――――――――――――――――――――――――


「そうやってイイ子ぶってる奴の方が、実際は何を考えているのか分からねぇんだよ。

自分の性癖を暴露している奴の方が安全なんだよ。さ、話してみ?」


何処(どこ)まで開き直って天邪鬼(あまのじゃく)になれば、そんな(ゆが)んだ屁理屈(へりくつ)が言えるようになるんだ?」


「ギャハハハハハ。ガキには分からねぇか?萌えだよ萌え。そうだな、例えば、俺は脚フェチだから、脚が好き~♪」


「は?何言ってんだ?普通は、萌えより燃え、道化師(ピエロ)ではなく、英雄(ヒーロー)になりたいものだろうが?」


 【幽者】ユゲタイは、少し呆れたことで、冷静さを取り戻す。「脚が好き」等と情熱を語られても、一般人には意味不明である。他人の身体の一部の特定の部位に執着することほど、空しいものは無い。或いは、例えば、義足メーカーの採用面接等であれば、その熱意を評価されることがあるのかも知れないが。


「それで、え~と……アンタは足が好き、だっけ?では、ご要望にお応えするとしよう。これでも喰らえ。出でよ、【大百足】。」


 講師Aの影の中から、顔を出した【大百足】は、講師Aに幾重にも巻き付いていく。


「ギャ~ッ!!」


「どうだ?アンタの好きな『足』が沢山(たくさん)あるだろう?」


 講師Aの惨状に、講師Bが思わずツッコミを入れてしまう。


「いや、違うだろ!もっと、こう、美白でスリムっていうか……。」


「『美白でスリム』、ねぇ?では、こんな趣向はどうだろう?出でよ、【餓者髑髏】。奴を拘束せよ。」


 今度は、講師Bの影の中から、せり上がってきた【餓者髑髏】が、講師Bを羽交い締めにして締め上げていく。


「ギョエ~ッ!!」


「魚影?魚影探知機は、ここにはないぞ。」


 勿論、適当に煽っておくことも忘れない。


――――――――――――――――――――――――――――――


「これで残っているのは、もう貴様だけのようだな?元教室長サン?」


 だが、挑発されても、元教室長は不気味な余裕を醸し出していた。


「まったく。相変わらずの毒舌お坊ちゃまだぜ。そうだ。お前の言う通り、俺達は人間じゃねぇ。少なくとも普通の人間じゃあねぇよ?」


 そう言って、ワイシャツの袖をまくり始めた。


「コレが何か分かるか?」


 奴の肘の窪みからは、ジャガイモの芽の様な何かが生えていた。


「?!……。」


「分からねぇか?なァ、そうだよなァ!」


 続いて、奴は突然、歌いながらドラミングを始めた。


「ちゃんと~儀式~しな~いと~♪ジャガイモの芽が生えてく~るよ~♪」


 ドコドコドコドコ、ドコドコドコドコ。


 すると、肘の窪みから生えていたジャガイモの芽が伸びてきた。確か、ジャガイモの芽には、「ソラニン」という、毒性のアルカロイドが含まれていた(はず)だ。


「オゥオゥ!今日のキセイは痛いぞ~。アッハッハッハッハ~。」


 この「キセイ」は、「寄生」と「奇声」と「規制」でも掛けているのだろう。


「だから、『オゥオゥ!』ってオットセイかよ?」


「教えてやるよ。『オゥオゥ!』って言うのはな、俺達、豚人間(オーク)族の鳴き声なんだよ!」


豚人間(オーク)だと?ゲームの序盤にやられ役のボスとして登場して以降は、食材扱いとなるあの豚人間(オーク)かよ?さんざん、俺等のことを『ゲーム脳』とか言っていた貴様等が?」


 【幽者】ユゲタイは、思わず腹を抱えて笑う。ここで、はっきり言っておこう。「ゲーム脳」等というものは、疑似科学、或いは、似非(エセ)科学と呼ばれ、論拠の不明確な議論から生じた造語であり、一部の教育業界や、報道関係者(マスメディア)に信者がいる一方で、医学界、ゲーム業界からは全く相手にされていない。


――――――――――――――――――――――――――――――


「ああ、これだから『ゲーム脳』は嫌いなんだよ。お前らにとっては、リセットボタン一つでやり直せる『ゲーム』でも、俺達にとってはコレが現実なんだよ!」


 気が付くと、元教室長だけでなく、講師Aと講師Bも変身を完了していた。


 講師Aと講師Bの相手をしていた【大百足】と【餓者髑髏】は、連中の肘から生えていたジャガイモの芽から発射された、宿り木の種の様なものを植え付けられ、(ツタ)が絡み、(ツル)が巻き付き、その魔力を奪われ、奪われた魔力は、連中の生命力に変換される仕組みらしく、連中は完全回復された状態だ。


 しかも、3人とも、野球に使うバットの様な何かを持っていた。


 嗚呼、コイツらが自分の応援している野球のチームが負けたから、とか言って、腹いせに俺達の宿題を増やしていたな、と思い出す。あれはどう考えても公私混同だろう。

 そして、連中の眼前で宿題の増分を一瞬にして解いてしまった、郡山少年のことを連中が疎ましく思うまでが、定番の流れであった。


 取り敢えず、片手に白紙の護符を持ったまま、軽く手首を捻って、【大百足】と【餓者髑髏】を型紙に戻した。これは、【陰陽術】においては、【型紙戻し】と呼ばれ、一応、裏世界の基準では、かなり高度な方の技術である。


「さっきの、ジャガイモの芽みたいなヤツはな、俺達、豚人間(オーク)族と共生関係にあって、連中が光合成すると、俺達の生命力が少しずつ回復するんだよ。」


 前腕に【刻印術】で通信用の術式を施した、自分達との対比から、何らかの【刻印術】ではないかと思っていたが、どうやら別物らしい。とはいえ、ジャガイモの芽との共生によって、継続回復、或いは、再生能力を持つというのか。厄介だな。


「そして、この野球のバットみたいなヤツはな、俺達、豚人間(オーク)族が魔法を使うための杖、みたいなもんだ。【ゴブリンバット】と呼ぶ奴もいるけどな。」


オーク(orc)もゴブリンの一種だから間違ってはいないがな。勿論、素材はオーク(oak)製だぁ。まぁ、金属バットの場合もあるけどな。釘バットとかも痛いぞぉ~。」


 ゲームでは、「オークウィザード」とか「オークメイジ」等と呼ばれている種族に近いだろうか。しかし、野球のバットの様に鈍器としても振り回せるだろうから、その点も厄介だ。(ちな)みに、木の方の「オーク」は、「樫」の木ではなく、「楢」の木の方が近い。


「お前ら、少し喋りすぎだ。まぁいいか。どうせお前はここで死ぬんだ。お前はあまりにも知りすぎた。自分の浅はかさを悔やみながら死んでいけ。」


 どうやら、死にゆく人間への手向けとして情報をくれたらしいが、ここで死ぬつもりはない。滅びるのは、貴様等の方だ。


――――――――――――――――――――――――――――――


 バットの先端から桃色の光球が生成され、光線となって発射される。


「気絶しろ!気絶しろ!気絶しろ~っ!」


「顔よ、曲がれ!顔よ、曲がれ!顔よ、曲がれ~っ!」


 意味不明な呪文と共に。


 勿論、【幽者】ユゲタイは、足捌きのみで、これらを(かわ)してゆく。


 桃色の光線は連続で発射されるが、呪文から察するに、恐らく当たっても気絶する程度なのだろうが、()し、当たった場合、何秒気絶するのか分からないし、気絶した隙にバットで撲殺されてしまうだろう。従って、回避するのは当然である。


 だが、桃色光線の軌跡は極めて単調であるため、ある程度の余裕を持って回避することは可能である。


「攻撃が直線的過ぎるんだよ。西部劇の銃の撃ち合いじゃねぇんだから。」


 【幽者】ユゲタイの哄笑が響く。これで、相棒がこちらに来るまでの時間はかなり稼げる(はず)だ。


――――――――――――――――――――――――――――――


 突然、豚人間(オーク)共は、桃色光線の発射を止めた。


 魔力切れか?


 どうやら、何らかの作戦があるようだ。


 元教室長が前に出てきた。


「テメェが攻撃を回避するっていうのなら、こっちは、回避不能の攻撃をするまでだ。俺様の真の名の下に、豚人間(オーク)族に伝わる、古代魔法を見せてやろう。」


 野球のバットみたいな杖を天へと掲げ、桃色の光線で、謎の文字を空中に書き始めた。

恐らく、豚人間(オーク)族の文字なのだろうが、地球上のどの文字とも異なるだろう。


 それでも敢えて、似ている字体で近似するなら、


「XRTVWG」


が一番近いだろうか。これは勿論、英語の様に、「エックスアールティーヴィーダブリュージー」とか、或いは、独逸(ドイツ)語のアルファベットとして、「ユクスエルテーファオヴェーゲー」とは読まないであろう。


 講師Aと講師Bも豚人間(オーク)族だが、元教室長は、それらを率いていることから、その上位の種であると思われる。


 古代魔法を使えるのは、この中では恐らく彼のみだろう。詠唱された、豚人間(オーク)族としての彼の真の名は、人間の発声器官では再現不能な、騒音(ノイズ)を発生させた。

 しかも、豚人間(オーク)族の文字は、アブジャド系統の文字の様に母音を表記しないのだが、それでも敢えて人間の発声器官で再現するなら、「クサルタ・ヴィウェギ」という感じだろうか。


 しかし、奴が唱えた、恐らく人語としては全く意味を成さないであろう謎の呪文の詠唱は、確かに、自然界の物理法則に何らかの影響を及ぼした。


「出でよ、【死兆星】!」


 突然、巨大な隕石が空中に出現し、サンケベツ村の方に落下したのだ。


 恐らく、その下敷きになった、サンケベツ村の住人達は、もう助からないだろう。


 ヨッホ村長、アッシュ、ソーン、エテル、ウィン、エズ。一瞬にしてあの6人は潰されてしまったのである。


 確かに、最初は短命種である【病みエルフ】だから、と差別を受けた。それでも、最近は模擬戦などを通じて、その距離は確かに縮まっていた、というのに。


――――――――――――――――――――――――――――――


「ああ、残念だ。【袈裟懸け】がいれば、瓦礫の中に埋まっている死体を掘り起こして喰っただろうになァ。」


「貴様ァアアアアア!!」


 憤怒?激昂?慟哭(どうこく)?その程度の言葉では形容できない何かが解き放たれる。キレて意識が飛ぶような感覚と共に、【幽体分離】によって、幽と体が分離し、弓削青年の魂と【病みエルフ】の体は、白銀の髪に真紅の眼と、青白い炎のような瘴気へと【幽離】してしまう。


「ハハハッ。『ブロッコリー、年をとったらカリフラワー』、ってか。いい表情だ。ずっと見たかったんだよォ……お前の恐怖と絶望に歪んだその面ァ!!」


「その為に無関係の人々を殺戮したって言うのかぁ!!」


「俺達が憎いか?なら、俺達に復讐でもするか?復讐は過去の失敗に対する弁明に過ぎない。復讐は復讐を呼び、やがては身の破滅、ってか。そうやって、『暴力は連鎖する』んだよ。死んだ奴は、復讐なんて望んでいやしない。全部、お前の自己満足なんだよ!」


「殺戮した張本人の貴様が、それを言う資格があると思っているのかァアアアアア!!」


 【幽離】した状態は、ある意味では、一種の「狂化」状態であり、冷静さを失ったその状態においては、繊細な制御を要する弓削青年の戦闘技術は、その殆どが封じられたも同然となる。


 要するに、これも奴の思惑通りなのだ。


「安心しろよ?お前もすぐにあいつらの後を追わせてやるからなァ。では、さらばだ。生成せよ!イソプロピルメチルフルオロホスホネート!!」


 奴の詠唱した呪文は、毒瓦斯(ガス)を生成する禁呪に他ならない。それでも、いつもの冷静な弓削青年であれば、対策の一つや二つ即座に思いついたのであろうが。


「【一酸化二水素ジヒドロゲンモノオキシド】!!」


 本来彼が発動するべき対抗策を放ったのは、彼の隣に並び立った、かつての好敵手(とも)だった。

第62話にて「あまりモブキャラに感情移入しない方が良い」、

と述べた通りの結果ですが、鬱展開には辟易するという、

読者の方向けの救済策として、少し追記しておきます。


第61話から、誰かさんの台詞を抜粋すると、

「ちゃんと死体を確認したのか?ククククク。」

この台詞は、少しブーメランの様にも聞こえますね?

まぁ、台詞を発した本人は冷静さを失っていますが、果たして?

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