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別次元の領域(2021年版)  作者: 草茅危言
第陸章 サンケベツ村編
65/120

第65話 【アンダの誓い】

黒幕は、作者が嫌悪する存在、或いは、作者以外でも

嫌悪するであろう存在という存在をことごと

足し合わせて作ったので、現実にはこんな人間はいないはず・・・?

 段々と高度を落としてゆく【幽者】ユゲタイ。


 奪ったばかりの黒キ楯(シュヴァルツシルト)翼ノ楯(フリューゲルシルト)に変更し、飛翔したまでは良かったのだが、飛行に慣れていない上、魔力切れで制御を失っている今の状態は危険だ。


 【病みエルフ】は確かに膨大な魔力を有する。しかし、その身体が、弓削青年の精神と【幽離】している状態では、その魔力も身体も制御は殆ど不可能である。


 郡山青年との十年を経た再会と、【蝙蝠山卿】の戦闘能力に昂揚を抑えきれず、冷静さを欠いたことが敗因か・・・。


「フッ、なかなかやるじゃねぇか。」


 だが、不思議と後悔はしていない。


 そして、【幽者】ユゲタイは意識を手放した。


――――――――――――――――――――――――――――――


 郡山青年は、黒翼を羽ばたかせ、落下する【幽者】ユゲタイに追いつき、地面に激突することだけは、どうにか防ぐことが出来た。


 三重詠唱による障壁結界があるから、衝撃は吸収されるだろうとはいえ、その反動は計り知れない。万が一、もう一度彼を(うしな)うことになったら・・・。


 そう思うと、一瞬肝が冷えた。


 模擬戦に勝ったという、勝利の余韻はそこにはなかった。


 自分はまだまだだ。


 特に、防具とはいえ、黒キ楯(シュヴァルツシルト)を奪われたのは、()し戦っている相手が【夜の音】であれば、かなり危険だった。


 彼の言う通り、十年経って平和呆けしていたのかも知れないな・・・。


――――――――――――――――――――――――――――――


 翌日、二人は、眷属化したカラスを偵察に向かわせた。


 最初は、二人が自ら現地へ調査に赴くべきかと思っていたが、前日の模擬戦の疲労を(かんが)み、また、敵の正体も不明なことから、サンケベツ村のヨッホ村長の反対もあって、先述の手段をとることになった。


 模擬戦当日に明らかになった問題点は把握し、翌日の調査任務に関しても特に支障は来していない、二人の完璧な仕事人としての在り方に、サンケベツ村の蝦夷(えぞ)エルフ達や、登戸研究所にて、魔道具の鏡で覗いていた、ブルクドルフ氏と常井氏の方が、ドン引きしていた程である。(むし)ろ、この師弟の方は暇なのだろうか?


――――――――――――――――――――――――――――――


「十年前に結んだ、契約と誓いを覚えているか?」


 郡山青年に尋ねられ、弓削青年も思い出す。


「ああ。【血の契約】と【アンダの誓い】のことか。」


「そうだ。どちらかが危険に陥ったら、もう一人が命を賭してでも助けに行く、という内容の(はず)だが、君が一人で突っ走るもんだから、結果的に見殺しにする羽目になってしまった。」


 郡山青年の言葉は、一見すると、一人で突っ走って行った弓削青年を責めているようで、自責の念を感じている様子が明らかであった。


「あれは、一族の因縁も絡んでいる話だったから、部外者の君を巻き込みたくなかったんだ。」


「あの日俺が戻った時には、塾の入り口は施錠されていたんだ。自分の眼前で指の隙間から零れ落ちてゆく砂を見ているような、無力感に(さいな)まれたよ。自身の非力さを思い知らされた。」


「・・・。だったら今度は、より強力な魔術的契約でも結んでおくか?【刻印術】で互いの皮膚に直接術式を刻み込むというのはどうだろう?」


「でも、【刻印術】って、素材に術式を刻むものだろう?」


「普通はそうだな。でも、かつては、奴隷に紋章を刻んで、管理するのにも使っていたらしいし、特別な絆を結んだ義兄弟や戦友が、自分の得意な魔術を相手も使えるようにする、等という意図で刻んだりするらしい。」


 こうして、二人は、【アンダの誓い】に魔術的な価値を付与して、互いに【刻印術】で相手に術式を刻み込んで、十年前の【アンダの誓い】を更新したのである。


――――――――――――――――――――――――――――――


 更に次の日。決闘紛いの模擬戦の翌々日。


 二人は二手に分かれて「生態系の異常に関しての調査」に赴いた。


 互いの前腕に刻まれた術式を通じて連絡をとり、緊密に連携しながら。それは、(あたか)も、生き別れの双子がメル友になったかのようだと形容する程に。


 そう、二人が互いに刻んだ【刻印術】は、どんな遠距離にあっても、互いの距離に関係なく通信できる、という連絡手段であり、敢えて名付けるのであれば、【通信術】であろうか。


 異常なし、と通信した直後、弓削青年は、少し前までは存在しなかった魔素溜りを検知し、その方向へと音を立てずに、白樺の森の中を走って移動する。

 既に、彼は【幽者】ユゲタイと呼ばれるに相応(ふさわ)しい戦闘態勢となり、生態系の異常の原因であろう者達と対峙する。


「見ツケタ、見ツケタ。」


 そこには、片言の人語を喋る巨大な山の神(キムンカムイ)が立っていた。胸から背中にかけて白毛が通った、『袈裟懸け』模様の(ヒグマ)が。


――――――――――――――――――――――――――――――


 そして、【袈裟懸け】の横には、見覚えのある人間が複数名立っていた。仮想敵、【夜の音】。だが、その仮定とした前提が間違っていた。根底から違っていた。そう、【夜の音】は一人ではなかった。


 但し、全くの未知の相手でもなかった。(むし)ろ、不倶戴天の仇敵である、と言っても過言ではなかった。


「何故、あの連中がこの世界にいるんだ?」


 かつて、脳筋塾の元教室長とその手下だった元講師達の一部。「元教室長一派」は、元教室長を含めて7人。そのうちの元講師の2人が、【袈裟懸け】と並んで、ここにいる。


 この裏世界の蝦夷共和国にいる(はず)のない、「元教室長一派」を見て(いぶか)る【幽者】ユゲタイ。


 その背後から、二度と聞きたくない、不愉快で下品な声が聞こえた。


「そ・れ・は・ね。お前ら~♪二人を~♪この世から~♪完・全・に、消すためだよォ~♪」


 振り返ると、パンチパーマで、ゴリラか熊のような体格をした、「奴」が立っていた。加虐趣味(サディスティック)なオラオラ系の俺様系。小児性愛者(ペドフィリア)で、下世話な性格の「元教室長」が。


 そして、四方を【袈裟懸け】と「元教室長一派」の3人に取り囲まれた。


――――――――――――――――――――――――――――――


 【幽者】ユゲタイは、前腕の刻印に密かに魔力を流して起動する。


 この会話を今は離れた位置にいる相棒に聞かせるために。


 時間を稼げば、【蝙蝠山卿】もこちらに向かってくる(はず)だ。



「お前がよ~本部校へチクリやがったからよ~」


「脳筋塾にいられなくなってよ~卒業生をフ~ゾクに入れるために~新たに俺達で塾を立ち上げてよ~」


「あれから、ヤクザさんや政治家のセンセイに頭下げまくりでよ~ホントお前、余計な邪魔をしてくれやがったよなァ!」


 【幽者】ユゲタイは、今更この程度の連中の脅迫に怯えたりはしない。



「それで?次は相変わらず、自分達に従わない相手を暴力で脅すと?」


「次ィ?オイ、テメェ。まさかテメェに『次』なんてあると思ってんのか?相変わらずオメデタイなぁ・・・『次』なんて、あるわけねぇだろうがよォ!」


「俺達に逆らった奴は、用済みだ。コンクリートに埋めてやんよ!・・・とか思っていたけど、この【袈裟懸け】サンが、お前を喰ってくれるってよ!証拠一つ残さずになァ!」


「ニンゲン・・・人間ヲ、喰イタイヨ!」


「この世界には、お前の戸籍なんて無ぇんだよ!だから、お前が死にそうになっていても、誰も助けに来やしねぇし、お前が死んだことも、誰も知らねぇから、殺人罪で俺らを裁くのも無理ってわけだ。」


「その条件は、貴様等も同じだということに気が付いているか?」


 【幽者】ユゲタイは、少し呆れながらも、冷静に言葉を返す。



「条件が同じィ?ギャ~ッハッハハ~♪これは傑作だ~♪」


「冥府への土産に教えてやるよ。俺達は異界をある程度自由に移動できるんだなぁ~これが。」


「俺達は、別に日本出身ってわけじゃない。『七辻』って知ってるか?そこから俺達の一族は、ある条件下で、異界を出入りできるんだけど、それで、大森とか馬込の辺りに住んでる国司の末裔の一族に憑依して、日本を裏から動かしてたんだよ。」


 『七辻』。七叉路。東京都には七叉路が二つあって、一つは蒲田の近く、もう一つは桜上水の近くにある。


 確かに、『辻』は、鳥居や列車、エレベーターと同様、かつ、それらよりも昔から、異界との出入り口であり、現世(うつしよ)―この世―と幽世(かくりよ)―あの世―の狭間とされる。


 特に、昼と夜の境目である、夕方は、誰かを判別できない暗闇という意味の「誰そ彼」が、「黄昏(たそがれ)」の由来にもなっており、現世(うつしよ)幽世(かくりよ)が交わる、『逢魔刻(おうまがとき)』とも呼ばれる。


 実際、『逢魔刻(おうまがとき)』に、『辻』から異界渡りをする、という話も残っているらしい。


「貴様等は、日本を腐敗させる怪異だったのか。ならば祓うまで。」


「殺れ~殺るんだ、【袈裟懸け】ェ!さァ、フ~ゾクで贄に捧げた我が塾の卒業生達の生命力を沢山(たくさん)喰ったコイツを祓えるかなぁ?弓削一門の末裔の恥さらしの毒舌お坊ちゃまよォ!」


 十年前の因縁を断つ戦いが今、始まろうとしていた。

次回から、少し鬱展開が入ってくるかも?

苦手な方は、閲覧の際、ご注意下さい。

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