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別次元の領域(2021年版)  作者: 草茅危言
第陸章 サンケベツ村編
64/120

第64話 紙一重の差

異世界チート無双系の小説が似たような展開ばかりになるのは、

好敵手ライバルが不在の影響で、主人公が突出して強くなって

しまうためだと考えます。将棋でも相撲でもそうですが、

一人では対戦が出来ません。この世界観でそれをやると、

多分つまらない話になってしまう。


かといって、関西人から見た関東圏の人や、

半島の人から見た日本人といったように、

一方的に執着するような関係は、

健全な好敵手ライバル関係とは言えない気がします。


そこら辺の匙加減が難しく、どうしても似た者同士と

なってしまった感はあるものの、あくまで一つの理想論として、

上手く描けていると・・・いいなぁ。

 【八咫烏天狗】と【九尾の火狐】を左右に従えた郡山青年は、【蝙蝠山卿】という渾名に相応しい紫炎の魔力色(オーラ)を纏っていた。


「ククク。やはり君は強いな、【蝙蝠山卿】。俺も久々に倒し甲斐のある相手と対峙して昂ぶるよ。」


 【幽者】ユゲタイもまた、既に【幽離】しており、白銀の髪に真紅の眼の姿へと変貌を遂げていた。


「ああ。楽しい時間というのは、あっという間に過ぎていくよな。」


 今なら、魔王と対峙した勇者の心境が分かるような気がした。だが、今の自分は【幽者】ユゲタイであって、勇者ではないし、郡山青年は、【蝙蝠山卿】であって、魔王ではない。


 何でも言葉で形容して、分類(カテゴライズ)したがる人は何処にでもいる。最近だと、ツンデレとか、ヤンデレとか、BLとか、DQNとか、中二病とか、草食系とか、造語に関しても枚挙に暇がない。


 量子力学では、光や電子が、「粒子でもあり、波でもある」、と教わるが、それは実は100年前の考え方であって、現在では、光や電子は、「粒子でも波でもない何か」という考え方が主流になっている。


 二人の関係を、これに(なぞら)えてみよう。親友?好敵手(ライバル)?相棒?二人は、親友でもあり、好敵手(ライバル)でもある。でも実際は、二人の関係は、そんな一言では到底言い表せない。


 世界の表と裏に分かれ、互いに二度と交錯する(はず)の無いそれぞれの道を進んできた二人が再び出会ったとき、だからといって、別に何も起こりはしない。(あたか)も、前に別れたのが、まるで昨日の様に、「よお」「やあ」と挨拶を交わし、近況について雑談を始めるだろう。


 その根底には、互いに対する信頼があるからだ。


「アイツなら、今日も何か面白いことを考えているに違いない。」


というワクワクした期待も、艱難に陥ったときに、


「アイツなら、この状況をどうやって打ち破るのだろう?」


と相手の立場に(なぞら)えて、状況を(かんが)みることもあるだろう。


 だからこそ、【幽者】ユゲタイとして、【蝙蝠山卿】に対して放つ台詞は、必然的に永遠に続く今を終わらせるための言葉となる。


「そろそろ決着をつけようか。」


――――――――――――――――――――――――――――――


 対する【蝙蝠山卿】の台詞も決まっている。


「ああ、決着をつけよう。【幽者】ユゲタイ!」


 掛け合いに終止符(ピリオド)が打たれると同時に、【蝙蝠山卿】は、飛び退く。影属性の足捌き【逃げ水】を使用して、【重力の(くびき)】の圏外に。


 さて、現状とれる手段はそう多くない。まずは、装着している【烏天狗の仮面】を別の仮面に変更するか。候補を確認するとしよう。


・般若の仮面:

ノワール般若戦でドロップした防具。装備時、武力が上昇する。

→却下。鍔迫り合いではないので、武力の上昇で押し切るのは、危険過ぎる。


・妖狐の仮面:

九尾の火狐戦でドロップした防具。装備時、火力が上昇する。

→火力の上昇により、消費魔力が増大し、魔力切れの危険が伴うが・・・。


 装備を【妖狐の仮面】に変更した。続いて、防具だが、黒キ楯(シュヴァルツシルト)は、距離的に取り戻すのは難しい。


 ここは、防御を捨てて、攻撃に転じる時。以前、【九尾の火狐】対策として、【武器合成】した、【葬送の双槍】と呼ばれる「魔槍」を【コンテナ】から取り出す。


・葬送の双槍:

ヒヒイロカネの柄の両端に黒曜石のナイフを付けた魔槍。両端の黒曜石の部分は、ボールペンの芯のように付け替え方式。


 最後に式神。


・【(ぬえ)】:

→却下。召喚し顕現させ続けるための消費魔力こそ少ないが、風属性系統の技能(スキル)【鎌鼬】が使える程度のマスコット枠では、瞬殺される可能性大。


・【メデューサ・ゴルゴン】:

→却下。黒キ楯(シュヴァルツシルト)を取り戻さない限り、「アイギス」に変更することも出来ない。


・【代田(だいた)ラボッチ】:

→却下。内地(ホーム)である、【代田(だいた)】を離れているため、光線の威力減少や、召喚し顕現させ続けるための消費魔力の増大が想定される。


・【八岐大蛇(やまたのおろち)】:

→却下。周囲の被害が甚大となる恐れ。模擬戦程度で使用するべきではない。


 従って、式神は、このまま、【八咫烏天狗】と【九尾の火狐】のみ。【重力の(くびき)】の範囲は、複数を対象に出来ないので、両者と術者である自分とで、多面的に攻めるしかあるまい。


――――――――――――――――――――――――――――――


 【幽者】ユゲタイもまた、自身のどの式神を召喚するか検討していた。勿論、先程撃破された【餓者髑髏】以外にも、【幽者】ユゲタイは、他にも複数の式神を眷属化しているのだが、【餓者髑髏】は人型のため、何かと使い勝手が良く、ここであっさりと撃破されてしまったのは痛手だった。


 どの式神を召喚するか決めた【幽者】ユゲタイは、【蝙蝠山卿】の方に型紙を向けて、別の式神を呼び出す。


「出でよ、【大百足】!」


・【大百足】:

古生物のアースロプレウラから進化した妖怪。噛み付き、毒を付与する。

[弱点]:熱湯、極低温


 【大百足】は、火属性や氷属性による温度変化に弱いので、【九尾の火狐】の相手をするのは無理。また、飛行能力を持つ【八咫烏天狗】も捕食者と被捕食者の関係から、天敵と呼べる。従って、必然的に【蝙蝠山卿】の相手に選ばれたわけだが…。


 【蝙蝠山卿】は、(H)密度(D)ポリ(P)エチレン(E)製の容器に入った生石灰の粉末を【大百足】に向かって撒いた後、【葬送の双槍】を【大百足】に向けて詠唱を行う。


「【一酸化二水素ジヒドロゲンモノオキシド】!」


 化学式CaOで表される酸化カルシウムは、「生石灰(せいせっかい)」とも呼ばれ、かつては、「禁水性物質」として、危険物第3類に指定されていた。

 生石灰に水をかけると、60度ぐらいの熱湯になる。しかも、タンパク質を溶かす、強アルカリ性―水溶性の強塩基―である、水酸化カルシウムの水溶液が生じるというオマケ付き。


「熱と石灰で殺菌消毒だぁあああああ!」


 そして、熱湯をかけるのは、「百足」の一般的な駆除方法でもあるのだ。


「【大百足】撃破!」


 こうして、【大百足】は瞬殺され、魔素の粒子の塵となって、弓削青年の型紙へと戻った。これで、【大百足】も式神として再使用するには、冷却時間(クールタイム)を要することになる。


 だが、それで全く問題ない。【蝙蝠山卿】が【大百足】の駆除をしている間、【幽者】ユゲタイは、充分過ぎる程の時間を稼ぐことが出来たのだから。


――――――――――――――――――――――――――――――


 【八咫烏天狗】と【九尾の火狐】は左右に分かれて、【幽者】ユゲタイを挟撃する。だが、【幽者】ユゲタイは、【祟りの凶杖】を構えて、【九尾の火狐】に向かって突進していった。


「【一酸化二水素ジヒドロゲンモノオキシド】!」


 奇しくも、否、同門故の必然なのかも知れないが、【幽者】ユゲタイも【蝙蝠山卿】と同様の水属性魔術を詠唱する。

 鉄砲水の様な水流がやがて渦を巻き、【九尾の火狐】が纏う紫炎に触れると、再び、水蒸気爆発によって、霧が発生し、両者の視界を阻む。


 だが、ここからが違う。


極低温の瘴気(クライオ)!」


 【病みエルフ】の膨大な魔力を以って、氷属性の魔術の奥義【極低温の瘴気(クライオ)】が放たれる。その瞬間、霧は凝結し、【九尾の火狐】は氷柱に閉じ込められる。


 それでも、【九尾の火狐】の口から放たれる火炎放射が、氷柱を融解させ、【九尾の火狐】の頭だけ、氷柱からの脱出に成功する。


 だが、再度火炎放射を放とうと、【九尾の火狐】が口を開けたとき、【幽者】ユゲタイの持つ、【祟りの凶杖】の杖先に亜空間が開いた。


「テオブロミンを経口投与!」


 その亜空間から、常井氏直伝の対狗族用、或いは、対猫族用の猛毒が、【九尾の火狐】の口内に流し込まれる。


「お、おのれえええええ」


 未だ体が氷柱に閉じ込められている【九尾の火狐】は、痙攣し、のたうち回ることも出来ず、魔素の粒子の塵となって、【蝙蝠山卿】の持つ型紙へと戻っていく。


「【九尾の火狐】撃破!」


――――――――――――――――――――――――――――――


 【幽者】ユゲタイが【九尾の火狐】を撃破するのを【八咫烏天狗】とて黙って見ていたわけではないが、左右に分かれて挟撃を試みたため、距離が離れており、【幽者】ユゲタイの早業の前には、成す術がなかった。


「つ、強い…。強過ぎる。あの小僧も相当な規格外だったが、その彼を凌ぐ程の強さとは…。この【病みエルフ】もまた、別格、ということか…。」


 一度距離を取ろうと、上空に飛翔する【八咫烏天狗】だったが、それを見上げてニヤリと(わら)う【幽者】ユゲタイを見て、背筋が凍てつく程の怖気を感じた。


「ククク。この楯は、いいぞ。実にいい!使い方はこうか?翼ノ楯(フリューゲルシルト)に変更!」


 黒翼が生え、翼ノ楯(フリューゲルシルト)となった黒キ楯(シュヴァルツシルト)をリュックサックの様に背負うと、【幽者】ユゲタイにも飛行能力が付与される。


「これで空を飛べるのは、貴様だけではなくなったようだなァ。今度は地べたを這わせてやる!」


 2600年前。史実では、「八咫烏」は東征を導き、「痛矢串」の所有者は、東征に(あらが)った。その両者は再び対峙する。


 【痛矢串】から放たれる、火属性や毒属性を付与された矢を【八咫烏天狗】は、(ことごと)(かわ)していく。


 だが、その回避行動さえ、【幽者】ユゲタイによって、誘導されていた。先程の水蒸気爆発によって生じた霧の中を飛行したことで、【八咫烏天狗】の黒翼は、湿り気を帯びていった。


 【幽者】ユゲタイは、【祟りの凶杖】を天に掲げて詠唱し、(いかずち)属性の魔術の奥義を発動する。


「【直撃雷(ガルバノ)】!」


 【幽者】ユゲタイの魔力色である、青白い直撃雷が、【八咫烏天狗】に降り注ぎ、【九尾の火狐】に続き、【八咫烏天狗】も、魔素の粒子の塵となって、【蝙蝠山卿】の持つ型紙へと戻っていく。


「【八咫烏天狗】撃破!」


――――――――――――――――――――――――――――――


 この模擬戦の観衆―サンケベツ村の蝦夷(えぞ)エルフ達と、登戸研究所のブルクドルフ氏と常井氏―は既に、この決闘の様子を形容するべき言葉を失っている。


 故に、こう思う他なかったのだ。


 この「死合い」は、【別次元の領域】だと・・・。


――――――――――――――――――――――――――――――


 【大百足】を撃破し、撃破された【九尾の火狐】を型紙に回収した【蝙蝠山卿】は、再び、装備を【烏天狗の仮面】に変更し、黒翼を羽ばたかせて飛翔し、【幽者】ユゲタイを追ってきた。


 両者は空中にて対峙する。


 しかし、両者の決着は意外な形で訪れる。


 否、ある意味では必然だったのだろう。知らぬ間に玖球(クーゲル)帝、ネメシス・ダムドの魔力を拝借していた【蝙蝠山卿】と、膨大な魔力を有する【病みエルフ】であるが故に、【九尾の火狐】と【八咫烏天狗】を倒すために、氷属性の魔術の奥義【極低温の瘴気(クライオ)】と、(いかずち)属性の魔術の奥義【直撃雷(ガルバノ)】を連発していた、【幽者】ユゲタイ。


 その決着は・・・紙一重の差、だった。


 【幽者】ユゲタイは、魔力切れで目眩を起こし、蝦夷(えぞ)の大地へと墜ちていった。

次回は9月更新予定。

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